2017年8月23日

子どもたちの健全な発育を支える「はだし靴下」はなぜ生まれたのか?

 親なら、誰もが「子どもには健やかに育ってほしい」と願っているはず。そうなれば、身に付けるものも気を配っている方は多いことでしょう。例えばサイズの合わない靴を履くと、歩き方が変になってしまうかもしれません。もちろんそのまま運動すれば、転倒など怪我の原因にもなります。

 奈良県に本社を構える、昌和莫大小(しょうわめりやす)株式会社が手がけるのは、そうした子どもの成長に着目した斬新な“履物”。なんと、そのまま靴を履かずに走ることができる靴下です。その開発背景、そしてメリットなどについて、同社代表・井上克昭さんにお話を伺いました。

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子どもの足を健全に育てるために

 1935年の創業以来、バルキータイツや靴下などの生産を手がけてきた昌和莫大小。何か新しい製品を打ち出したいと考えていた中で、“靴下は靴の中に履くもの”という常識を打ち破る『はだし靴下』が生まれました。その着想のもととなったのは、子どもたちの発育だと、井上さんは言います。

「以前から親しかった大学の先生と話した際、“足育”が話題となりました。その方によれば、子どもの足が健全に育っていないと言うのです。扁平足だったり浮き指だったり、中には子どもながら外反母趾というケースも……。その話を聞いて、正直驚きました。でも確かに、最近の子どもたちって外を走り回る機会が減っている気がします。また、クッション性など靴が高機能化していますが、これも実は原因になっているのではないでしょうか。つまり足を守り過ぎることで、土踏まずが育たなかったり、バランスが悪くなったりするのではと考えたんです」

 靴が良くなるほど、足が健全に育たなくなってしまう。『はだし靴下』は、そうした足育の課題を解決するために生まれた製品でした。さらに開発のきっかけには、すでに奈良で子どもたちに利用されていた、ある履物があったようです。

「三郷町に『ケンコーミサトっ子』という草鞋(わらじ)があり、これを履いて遊んだり運動したりしている子どもがいるんですよ。でも草鞋ですから、やっぱり厚みがあります。足育のためには、もっと薄くて裸足に近いものが必要。それなら、靴下で実現できないか?という考えから、『はだし靴下』の開発がスタートしました」

製品完成のポイントは“素材”と“編み方”

 実物を拝見すると、その見た目は通常の靴下とさほど変わらないように見えます。しかし『はだし靴下』の完成までには、さまざまな苦労があったようです。

「“走る”ことを想定すると、やはり問題となるのが耐久性。通常の靴下では、少し走るだけですぐに破れてしまいます。そのため、走っても破れない強い素材を探す必要がありました。編んではテストし、また編んではテストして……の繰り返し。しかし素材を強くすると、今度は編み機が使えない(糸が切れない)という事態に直面したんです。そのため、編み機を変えてさらにテストを繰り返しました」

 確かに走ると地面との間に摩擦が生まれるほか、地面そのものの凹凸などで靴下は傷つきやすくなります。これまで培った製造のノウハウと環境を活かしつつ、しかし“走る”という新たな分野ではさまざまな苦難に直面してきたのでしょう。

 結果、選んだのは高強力ポリエチレン繊維『イザナス』。この繊維は、なんと防弾チョッキなどにも用いられているそうです。

「全体で10素材ほど試したでしょうか。素材だけでなく、編む密度なども変えながら最適な形を追求していきました。そして2016年10月から子ども用の販売を開始し、現在は大人用も用意しています」

 開発にあたっては、小学生にも実際に履いてもらったとのこと。現在はインターネット通販での販売を中心に、展示会など少しずつ販路も広げています。

はだし靴下のもたらすメリット

 それでは実際、『はだし靴下』はどのような影響をもたらしてくれるのでしょうか。これまでフィードバックを受けた中で見えたメリットを、次のように教えてくれました。

「はだし靴下を履くと、走り方、そして身体の動かし方が変わります。実際に50m走のタイムを比較したところ、その際はなんと約65%もの子どもが、シューズ以上のタイムで走ったんですよ。それだけでなく、室内にこもりがちだったダウン症の幼稚園児が、はだし靴下を履かせたところ元気に走り回ったという話も聞いています」

 はだし靴下を履くことで、運動するうえでの土台が良くなると話す井上さん。きっかけは子どもの健全育成であるものの、例えば高齢者の運動能力維持など、年齢を問わず効果が期待できるのではないでしょうか。

 『はだし靴下』は昌和莫大小の打ち出した新ブランド・OLENOの第1弾となる製品。このほかにも、タイツやアームカバーなど次々に開発・販売を進めています。さらに『はだし靴下』も、現在エキスパートに向けた新製品が試作段階にあるそうです。

 実は私も、実際に『はだし靴下』を履いてランニングしてみました。地面と接している感覚が直接足裏に伝わるので、自分のバランスや着地位置などがすぐに分かります。より効率的な走りを手に入れる、あるいは怪我を防ぐのに役立つのではないでしょうか。

 さらに子どもにも同様に『はだし靴下』で走ってもらったのですが、途端に笑顔になり、舗装路から草むらまでいろいろな場所を楽しそうに走り回っていました。足の育成はもちろん、子どもが運動を楽しむうえでも、この『はだし靴下』はメリットを与えてくれるのかもしれません。

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[会社情報]
昌和莫大小株式会社
〒635-0813奈良県北葛城郡広陵町大字百済1369-1
【HP】http://www.showameriyasu.co.jp/
【ネットショップ】https://store.shopping.yahoo.co.jp/showameriyasu/

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>

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