インタビュー
2022年8月11日

父も58歳でクライミングを再開、子どもに限らず何歳から始めても楽しいし上達できるスポーツです。スポーツクライミング・野口啓代(後編)|子どもの頃こんな習い事してました #31 (1/2)

 スポーツ界の第一線で活躍しているアスリートに、幼少期の習い事について訊く連載。自身の経験を振り返っていただき、当時の習い事がどのようにその後のプレーに活かされたか、今の自分にどう影響しているかを伺います。

 小学5年生からクライミングを始めたという東京オリンピック銅メダリストの野口啓代さん。中学の頃には海外遠征に行くようになり、高校1年で世界選手権で入賞。活躍し続けた野口さんが、未来のクライマーである子どもたちに思うこととは⋯⋯?

先に前編を読む:習い事はピアノ、英会話、書道。たまたま出会ったクライミングにハマってしまいました。スポーツクライミング・野口啓代(前編)

世代を超えたコミュニケーションがあるスポーツ

――2021年12月に同じスポーツクライマーの楢﨑智亜選手とご結婚されました。将来もし子どもが生まれたら、クライミングをさせたいという話をすることはありますか。

ふだん2人でクライミングのことをよく話しますが、そういう話はしないですね。そもそも子どもに「何かをさせたい」ということはないです。自分で好きなものややりたいことを見つけてほしい。私自身、自分で好きなものをみつけたので。

――野口さんは旅先でたまたまクライミングで遊んだことがきっかけでオリンピックに出場することになりました。ものすごい出会いですよね。

そうですね。実家の周りにクライミングジムはないですし、親がスポーツもアウトドアもやってないような環境で、クライミングにたまたま出合い、まさかここまで自分に相性がいいとは思っていませんでした。子どもの頃って何がきっかけで何にハマるのかわからない。子どものうちにいろんなことをさせてあげて何が一番合ってるのか、何が一番楽しいのかを知ることができるといいと思います。

――これからクライミングを始めてみようという人に、クライミングのおすすめポイントを教えてください。

まずは登って楽しく、達成感が味わえます。クライミングジムのホールドは、定期的に付け替えて課題を変えているので、飽きることがありません。難しい課題は、自分の身長や能力に応じて持ち方をこうしてみよう、足の位置を変えてみようとイメージしながら工夫する。そのときに体だけでなくメンタルもすごく重要になるので、心身をコントロールする能力が身に付くと思います。

大人も子どもも同じ課題にチャレンジするので、親子で楽しめる点も魅力です。私も子どもの頃から、50〜60代の知らないおじさんに混ざって登っていました。登れない課題があると初対面のおじさんが教えてくれたり応援してくれたりして、他のスポーツではなかなかないコミュニケーションがあるように思います。

トップの選手たちもみんな仲が良くて、言葉が通じなくても一緒に登ったり登れた人を讃えたりする文化があります。子どもの頃は人見知りだったんですが、クライミングジムに行くようになって初対面の人や知らない世代、知らない場所に住んでる人ともコミュニケーションを取れるようになったので、成長させてくれる競技だと思います。

クライミングのルーツは岩登り。ジムの人工壁だけでなく春や秋はキャンプして外の岩場に登りに行く方もいます。さまざまな楽しみ方があります。

――外岩登りは野口さんのYouTubeチャンネルで拝見しましたがものすごい迫力ですね。クライミングは自分との戦いという印象がありますが、根気も養えるでしょうか。

できない課題に対して登りきるまで取り組むのか、諦めて他の課題を登るのかは自由です。そういったところは性格が出ますね。

子どもたちには今の大会よりも、20代の大会を意識してほしい

――今はクライミングを習い事として始めるお子さんも増えました。

私が子どもの頃と違って、「プロになりたい」「オリンピック選手になりたい」というお子さんがたくさんいて、小学生の大会でも出場者が300~400人もいます。低学年の頃からトレーニングしていてしっかりしているなと思うのですが、まずは楽しく長く続けることを目標にしてほしいと思います。

クライミングは全身の筋肉や関節を使います。適度であれば楽しい筋トレになるのですが、オーバーワークになると成長に影響が出たりケガをしたりする可能性があります。目先の大会で成績を出すことを考えすぎす、20代中盤あたりで世界で戦えるように長い目で見てがんばってほしいなと思います。

――競技によっては小さい頃から始めないと難しいものもありますが、クライミングはどうですか。

本格的に競技に進みたい場合は中高校生までには始めた方がいいかもしれませんが、趣味としては何歳では遅いということはありません。登ったら登った分だけ強くなれるし、工夫すれば工夫した分だけ上手くなれる。

私は小学5年生の時に父と一緒に始めたんですけど、父は1年ほどで辞めてしまったんですね。でも最近になって健康のために再開したいと言い出して、クライミングジムに通うようになりました。今、58歳です。60代70代になってから始める方もいますよ。クライミングってハードルが高いと思われがちなんですが、はしごが登れれば登れます。すごいスポーツだなと思います。

――クライミングのトレーニングのために組み合わせると効果的なスポーツはありますか。

クライミングって他のスポーツとあまり共通しているところがないんです。重力に逆らうスポーツは他にないですし、右手も左手も、指の第1関節まで使うスポーツというのもない。だからクライミングの力を付けるために、他のスポーツと組み合わせて行うケースはあまりないと思います。

子どもの頃はとりあえず走って体力を付けていましたが、プロになってからはトレーナーさんを付けて体幹のトレーニングやその時の課題に合わせたトレーニングするようになりました。ただ一番のトレーニングはやっぱりひたすら登ること。登っているときに自分をコントロールする感覚を養うことが一番大切。

――指の力も必要ですよね。指を鍛えるということと握力を鍛えることとは違うのでしょうか。

指の力と握力はちょっと違いますね。通常の状態で手に力を入れるのと、ぶら下がっている自分の体重を支えるのとでは力のかかり方が違うんです。まずホールドの持ち方を覚えて、力の入れ方を覚えて、たくさん登るしかない。

1 2