インタビュー
2022年11月17日

サッカー元日本代表キャプテン・長谷部誠選手に聞くキャリアの作り方「成功、決断、次の一歩」

11月16日に浦和レッズ、19日にガンバ大阪と対戦するため来日した、ドイツの強豪チーム「アイントラハト・フランクフルト」。その2日前の14日、同チームに所属する元日本代表キャプテン・長谷部誠選手と、かつてJリーグ・浦和レッズに在籍していたレジェンド、ウーベ・バイン氏とのトークイベントが開催されました。

ふたりのトークセッションでの回答をまとめたのでご覧ください。

サッカーで成功を納める秘訣

元・日本代表キャプテン 長谷部誠選手

長谷部 誠 選手 (大事なのは)サッカーに限らず何でもそうだと思うんですけど「心・技・体」。サッカーはフィジカルだったり技術だったり、そういうところにフォーカスされますけど、やっぱり「心」の部分がすごく重要。

もちろん心だけでなく「頭」も重要で、サッカーのインテリジェンスであったり、ものごとを「主観」「客観」の両方で捉えられることが重要だと思っています。いろんな選手を見てきましたけど、それができる選手が上にどんどん上がっていくという共通点があります。

ウーベ・バイン 氏 成功するためには、まずはトレーニングをしっかりすることが必要です。さらに自分の成功に向かって導いてくれたり、一緒についてきてくれたりする人間関係も必要。あとは自分がきちんと守っていく規律が大事です。

海外でプレーすると決断した理由

1994~1997 浦和レッズに在籍していたウーベ・バイン氏

長谷部 選手 僕はどちらかというと環境に左右されやすく、海外向きではなかったと思うんですよね。コミュニケーションもそんなにとる方ではなかったですし、内気といえば内気だったと思います。

ただ「大きく何か変化を加えたい」「このまま日本でプレーして平凡な選手で終わってしまうのではないか」という思いもあり、時期的に変えなければいけないと思ったのが海外に行くきっかけです。実際海外に行ってみて、サッカーだけじゃなく環境や文化が何から何まで違うので、自分の考えがいろいろ変わりました。

バイン 氏 私も長谷部さんと同じで、自分が外国でプレーをするなんてことは想像していませんでした。1990年のワールドカップのあと、「フィレンツェのチームに行かないか?」と誘われましたが断りました。

その2、3年後にフランツ・ベッケンバウアー氏から「日本に行かないか?」という話をもらい、十分に考えた末、日本行きを決めました。結果的に日本に来てよかった。たくさん友人ができ、今もコンタクトをとっています。

多様な背景を持つ人々と一緒にプレーすることの難しさと乗り越えた工夫

長谷部 選手 僕が所属している「アイントラハト・フランクフルト」は、約17、8か国から選手が集まっている“多国籍軍”です。育ってきた環境や文化が違えば、価値観なんて違って当たり前なんですよね。だから組織・チームとして「ひとつにまとめよう」とか「同じ考えにさせよう」ということ自体が間違いだと思っています。

サッカーだったら「試合に勝つ」という目標は絶対に変わらないんですけど、そこまでのアプローチは別に一緒である必要はないと思っています。一番重要なのは、自分と違っても仲間の考え方や価値観を尊重すること。それができれば最終的な「勝つ」という目標は一緒なので、そこに迷いはありません。

それでも「何考えてるんだろうなコイツ」と思いながら日々過ごしているんですけど(笑)、そういう(自分と違っても尊重する)考え方は海外に行ったから芽生えました。

バイン 氏 やはり外国でプレーするとなると、その国の言葉をしゃべれるようにならないといけない。私の場合は日本語だったわけで、ちょっとは勉強しましたが、なかなか習得するというわけにはいかなかったです。それでも、だいたい英語でしたが、みなさんと理解し合うことはできたと思います。

外国にいるとその国の人たちに合わせたり、自分が一歩引いたりすることが必要だと思います。ただサッカーは“ひとつの言葉”だと思うんですよね。同じ“サッカー語”をしゃべって、チームが勝ちたいという意思を全員が共有しているので、それが日本人だろうと香港、イタリア、スペインの人だろうとあまり関係ないと思います。

これまでのキャリア形成について

司会を務めたIndeed Japan株式会社 代表取締役/ゼネラルマネジャー 大八木紘之氏

長谷部 選手 若い時は経験がなく、決断するときに悩んだり、楽な方に流されたりということがありました。今は、どちらかというと「どっちがおもしろいかな」「自分が変わるのはどっちかな」というように、決断するときに難しいほうを選ぶようになってきました。

年齢を重ねると「落ち着きたい」「安定を得たい」となりがちではありますが、僕の今までを考えてみると、困難なこと、楽じゃないことを選んだときのほうが、人間としてひとまわり成長している感覚がありました。

今38歳なんですけど、これからの人生も安定を求めずに「難しそうだな」と思うほうを選び続けたいです。

―――難しいほうを選ぶということは失敗する確率が高く恐怖心がうまれると思いますが、どのように乗り越えてきましたか?

長谷部 選手 経験上、失敗したときのほうが自分に返ってくるものが大きいと感じます。試合でも勝ったときよりも負けたときのほうが、自分が成長するうえで得るものが大きいです。勝って喜んで「全部OK!」となるよりも、負けたときのほうが「なんで負けたか」を研究できる。失敗やミスからうまれるものに魅力を感じます。

これからのセカンドキャリアについて

トーク中、直接ドイツ語で会話する場面も。

長谷部 選手 僕は38歳で、多くのサッカー選手は引退している年齢です。あとどれぐらいかわからないですけど、辞めた時にはindeedさんにお世話になろうかなと(笑) 良い職を探してほしいですね(笑)

今はあんまり考えていないですね。自分がサッカーを辞めたら指導者とかいろんな選択肢はあると思うんですが、「これ」って決めてなくて。なので、その際は(indeedさんに)相談させてください(笑)

大八木 氏 もちろんでございます。

バイン 氏 でも、長谷部さんはまだ2、3年はプレーし続けるんじゃないですか?

長谷部 選手 いやいや、あと5年はやります!

バイン 氏 長く続けるに越したことはないですね。

次の一歩を踏み出す方々へのメッセージ

長谷部 選手 全員に当てはまる言葉っていうのはあまりないと僕は思っているんですけど、人生は一度きりだし“楽しんだもん勝ち”だと思います。安定を求めるよりもチャレンジして新しい環境でやることは、人生に彩りを与えてくれます。「何とかなる」という気持ちでがんばってほしいと思います。

バイン 氏 私にとっては難問でお答えするのが難しいんですけど、目標を常に持ち、そこから目を離さないこと、目標を追うこと、目標に向かっている自分を信じること、そうすれば正しい道を進めると思います。

<Text&Photo:MELOS編集部>