インタビュー
2017年9月20日

日本選手権4連覇!絶対王者・松井丈に聞くスピードゴルフの魅力とは

 ゴルフコースを走り、そのスピードとゴルフスコアによって勝敗の決まる「スピードゴルフ」。MELOSでも、競技について以前ご紹介しました。日本国内においては、日本選手権大会が年1回開催されています。

 そして9月4日、大会名を『スピードゴルフオープン2017』と改めて開催された、4回目の日本選手権大会。そこで見事に男子優勝を果たしたのが、今回お話を伺った松井丈選手です。なんと松井さん、2014年の第1回大会から4連覇を達成。まさに、国内におけるスピードゴルフの王者として君臨されています。

 松井さんにとって、スピードゴルフの魅力とは何なのか。そして、4連覇を果たすうえでの努力や工夫などについて、詳しくお話を伺いました。

[プロフィール]
松井丈(まつい・じょう)
1974年生まれ、東京都出身。幼いころからゴルフを始め、日本プロゴルフ協会公認ティーチングプロ資格を取得。現在はツーサムゴルフスタジオ(東京都渋谷区代々木)を運営し、ゴルフレッスンプロとして活躍している。2014年開催の『第1回スピードゴルフ選手権』で優勝して以後、国内4連覇を果たす。趣味はトライアスロン
【HP】http://www.236golf.com/

SNSで知った「スピードゴルフ」が新しい挑戦を生み出した

 スピードゴルフは少しずつ競技人口が増えており、「スピードゴルフオープン2017」には70名もの選手が出場しました。松井さんは第1回大会から出場されていますが、最初からスピードゴルフの存在を知っていたわけではありません。

「初めて日本選手権大会が開催された2014年。知り合いがSNSで、大会情報を投稿していたんです。それを見て、すぐに大会にエントリーしました。これが、私とスピードゴルフの出会いだったんですよ。それまで、競技の存在すら知りませんでしたから」

 SNSで知ったスピードゴルフ。そして日本選手権に出場し、遂には4連覇を果たすまでになった松井さん。どこで何が起きるか分からない。本当に、人生は不思議なものだと感じます。

「世界選手権にも出場させていただいたんですが、やはり世界は広いですね。驚くほどのスピードで競技を終える選手が、国外には何名もいます。これまでゴルフ、そしてトライアスロン競技に取り組んできましたが、まさかさら新しいスポーツに巡り会えるとは……。しかも、それが世界に挑戦できるというのだから、本当にうれしいですよ」

 そう話す松井さんの表情を見ていると、私までワクワクしてきました。確かに世界に挑める機会など、滅多にあるものではありません。スピードゴルフは、松井さんにとって大きな生き甲斐の1つとなっているのではないでしょうか。

勝つために取り組んできたトレーニングと工夫

 速くゴールするためには、当然ながら走力が必要です。それに加え、スピードゴルフは高いゴルフスコアも目指さなくてはいけません。果たして勝つために、どちらを重点に置けば良いのか。恐らく多くの競技者が悩むところでしょう。

「大会参加者を見ていると、昔ゴルフをやっていて、今はランニングに取り組んでいるという方が多いですね。もちろんゴルフはできなきゃいけませんが、やっぱり走力の方が大切だと思います」

 松井さんの周囲で見ると、ゴルファーで足が速いという人は少ないとのこと。そして速く走れるようになるより、ゴルフスコアを磨く方が現実的なのだと言います。それに加えて、松井さんは“勝つ”ために使用するゴルフクラブ等も工夫していました。

「競技中は、自分でゴルフクラブを持って走ります。荷物が軽いほど、走るスピードが速くなるのは必然ですよね。私はいつもコースに応じ、クラブは5〜6本のみ持っています。他の選手も、やはり5本前後が多いですね」

 さらに松井さんは、クラブの“持ち運び方”にも工夫を加えたとのこと。それが写真の通り、ゴルフバッグをベルトに引っ掛けて持ち運ぶという方法です。これによって、打つたびにゴルフバッグを置き、また走る際にそれを取りに行くという動作が不要になります。しかもフックは自作。国内、そして海外でさまざまな選手を見た末、考えついた方法のようです。

「あとは、もちろん練習も必要ですよね。ただ走るだけではなく、実際にクラブを持って走るトレーニングも行いました。ちょっと恥ずかしいですけどね……。練習頻度はそこまで高くありませんが、今回のスピードゴルフオープン2017では何度も実際のコースで練習しました」

 スピードゴルフは“走る”という特徴から、コースでの練習がとても難しいのが現実。そのため、コースで練習する場合は、他に誰もいない早朝の時間帯を活用したと言います。さらに職場まで片道約10kmを自転車通勤しており、これも体力やスプリント能力の向上につながっているようです。

上を目指すための課題は“メンタルコントロール”

 競技人口が増えれば、やはりそれだけ強い選手が現れる可能性が高まります。実際に国内でも、スピードゴルフオープン2017で驚くほど速い選手がいたとのこと。今後も連覇を目指すうえでは、やはり競技力アップが求められるでしょう。しかし松井さんにとって最大の課題は、走力やゴルフスキルとは別の部分にあるそうです。

「競技中は、足腰の疲労以上に脳の問題が大きいと思っています。走れば心拍が上がり、呼吸が落ち着く前に打たなくてはいけない。その連続の中では、さまざまな思考が巡るんです。例えば先日のスピードゴルフオープン2017、前半は思い通りの展開で進められました。しかし後半、これが一気に崩れてしまったんです。その原因は時計を見たこと。想像以上に速くて、もう少し落ち着いた方が良いのでは……と考えてしまったんですよね。すると、ボギーやダブルボギーを出してしまうという結果に。スピードゴルフって、とてもメンタルの影響が大きい競技だと感じています」

 競技におけるメンタルの重要性や影響は、松井さん自身、競技して初めて気づいたことだと言います。それが走力やゴルフスキル以上に重要とは、私はお話を聞いて驚きました。

「実は第1回の大会からスコアは伸びていません。最初はどんな競技なのかさえ知りませんでしたから、ただガムシャラにできたんですよね。でも今は、どうすればもっと良くなるのか……、なんて考えてしまいます」

 勝つために考える。しかしそれが、時として雑念となり、思わぬ悪影響に繋がることがあるようです。しかしメンタルコントロールが万全となった際、松井さんはさらに上のステージへと登ることができるのでしょう。

「目標は、もちろん世界一になること。上には上がいるものですが、きっとチャンスはあると思っています!」

 生き生きとした表情で、世界一という目標を語ってくれた松井さん。現在国内では年1回のみの選手権開催ですが、今から来年の活躍が楽しみです。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>