
デフ陸上・佐々木琢磨選手に聞く「勝つためのトレーニング&食事術」 (3/3)
プレッシャーはむしろパワー。メンタルを整える習慣は「毎日の挨拶」
──プレッシャーへの対処法、 モチベーション維持のコツなど、 メンタルを安定させるためにどんなことを行っていますか?
佐々木選手:
プレッシャーが大きれば大きいほどパワーも湧いてくる性格なので、今まではほとんどがプレッシャーのある大会でベストを更新することが多いです。
メンタルを安定させるには日々の生活が大事だと思います。誰かに会ったら、自分ら挨拶するように積極的に行動をとっています。
自分から挨拶するというのは感謝の意味でもあり、感謝の量が大きければ大きいほどパワーも湧いてくるという経験があるので、そういう意識をしています。
「目でのスタートランプを意識」デフアスリートならではの工夫
──聴覚に関するハンデを乗り越えるため、トレーニングや試合中に工夫していることがあれば教えてください。
佐々木選手:
100mの場合はスタート方法が2つあって、音でのスタートピストルと、目でのスタートランプがあります。試合を始める前に、本番に向けてレース内容や作戦を練習します。その内容を本番へ活かすのにスタートが最重要です。
ピストルは雑音があって、走りというよりも音にかなり集中しないといけない。失敗したら、今まで確認した内容が白紙になってしまいます。それでは強くなれない。
しかし、スタートランプなら目で見て、光に反応するだけなのでレース内容を確認しやすく、課題が見つかりやすくなります。100mは10秒間しかなく、あっという間に終わるのでもっとも重要です。
「コンディショニング管理も実力のうち」他アスリートからの学びとは
──他のアスリートから取り入れたトレーニングや考え方があれば教えてください。
佐々木選手:
トップアスリートとの差は加速力だと思います。加速という音の中に“良い・悪い”があって、それを判断するのは難しい。コーチの協力が必要です。
基本的に、練習でコーチと一緒に考えて修正を繰り返すことが多いですが、他アスリートから参考にさせていただいたところは、イタリアの陸上競技選手で東京2020オリンピック・100m金メダリストのマルセル・ジェイコブス選手です。
走るときの体感の安定さがあって、コンディションが悪くてもいいタイムをキープすることが多いです。食事面や生活面がしっかり管理されているところも、非常に参考にしています。
また、オリンピック年は覚醒した走りが2回も見られたので、体調管理も実力の一つだと感激しました。
──2024年に、活動応援費総額1000万円*かけたピッチコンテストにも出演した佐々木選手。惜しくも受賞は逃しましたが、2025年にも同コンテストが開催されます。詳細は公式インスタグラムをチェック!
プロフィール
佐々木琢磨(ささき・たくま)
1993年生まれ、青森県出身。内耳性難聴発症。盛岡聴覚支援学校高等部3年時に、全国ろう学校陸上競技大会の100m、200m、400mリレーで三冠を達成。22年にブラジルで開かれたデフリンピックの男子100mでは金メダルを獲得。支援がなく、現在は仙台大学の職員として勤務しながら活動を行なっている。25年11月に行われるデフリンピックにて100m、200m、400mリレーで金メダルを獲得し3冠王になることと、世界新記録を樹立することを目標としている。
<Edit:編集部/Photo:佐々木選手より提供>