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ホイチョイのリア充王│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#17

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 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、『東京いい店やれる店』など伝説的な名著を数々繰り出しているホイチョイ・プロダクションズの新著『ホイチョイのリア充王 遊びの千夜一夜物語』(講談社)について。スポーツが若者たちにどんなふうに消費されているのか、甘糟さんが自身の経験と本書の内容を交えながら振り返ってくれました。

どれだけツウっぽく見せることができるか

 昔話で恐縮ですが、私が大学生の頃、シーズンスポーツの同好会というものがキャンパスの主流でした。今どき、キャンパスっていうのがセーフかどうかわかりませんが。シーズンスポーツとは言葉通り、その季節季節のスポーツを楽しむこと。夏はサーフィンやウインドサーフィン、冬はスキー、春&秋はテニスだったりゴルフだったり。でもって夜はディスコで騒ぐ、というのが大学生の普通の生活でした(まだカラオケはサラリーマンのおじさんの専売特許だったので)。

 こうして書いてみると、恥ずかしいばかりの能天気ぶりです。ほんと、すみません……。誰に対してだかわからないのに、謝りたくなります。世の中がバブルに向かって走り始めた時代です。あの頃のスポーツは、勝つためもしくは記録を伸ばすためのものではなく、競技を通じて自己を高める目的でもなく、社交の場所&道具というか、ストレートにいうとボーイ・ミーツ・ガールの便利なアイテムだったのです。恋愛する言い訳といってもいいかもしれません。だって、マッチングアプリもLINEもなかったですからね。

 さて、そんなバブル世代も立派な中年になった今、テニスコートやスキー場やゴルフ場はどうなっているのか、みんなサーフィンをやっているのかどうか。そんな問いに答えてくれるのが、ホイチョイ・プロダクションズの新刊『リア充王』です。いわくそれらのスポーツは「バブル期にインフラは整えられてるわ、その後のデフレで料金は安くなってるわ、だのに、若者がまったくやらないのでフィードはガラ空きだわ、今、再び始めない手はないと思えるくらい恵まれた状況にある」んだとか。

▲学生時代の筆者

 そう、本書はかつてちやほやされたリゾートスポーツの現状と楽しみ方を教えてくれる一冊です。取り上げられているのは、スキー、サーフィン、スクーバ(スキューバ)・ダイビング、ゴルフ、テニス、キャンプ、ルアー・フィッシング、パラグライダー、カヌー、乗馬、ウインドサーフィン、セーリング・クルーザー、マウンテンバイク、オートバイ、スノーボードの15種目。

 楽しみ方というのは、もちろん上達するための指南なんかではありません。それなら専門書を買うなりYouTubeを検索するなりすればいいんですから。この本が教えてくれるのは、どんなギアを選び、どこのウエアを着て、どういうセリフをいえばツウっぽく見えるのか、です。それから今もっとも肝心なことであろう、SNSでどういう発信をすれば「いいね!」がたくさんつくかをかなり詳しく解説してあります。

 例えば、サーフィンのインスタ。ここではGoProを使った動画がつきものだそうです。たいてい二の腕かボードの先につけるので自分の顔は映らない。それなら本物のサーファーに5000円とGoProを渡して、動画を撮影してもらい、途中できるだけブレブレの自分の顔を1〜2カット短く入れて編集し、イケテル音楽をつけてあげるのも一つの手だと教えてくれます。

 スキーやサーフィンやスクーバは、やっているところをあげただけで「いいね!」がもらえるけれど(実際には自分でやっていなくてもね)、ゴルフは、やっている人の大半がファッションもスウイングもイケてない不細工なオッサンなので、イケてるスポーツとは思われず、インスタ映えの「映え」要素が皆無だなんだとか。じゃあどうすればいいの? という方は自分でページをめくってみてくださいね。

 こういう見栄の張り方だけでなく、知ったかぶりのアンチョコにもなってくれるのが、この本です。そのスポーツの発祥やかつて流行った時の現象やらをわかりやすく紐解いてくれているので、なんとなく読んでいるうちに詳しくなってしまいます(これも安定のホイチョイ・マジックですね)。来月辺り、恵比寿のスペインバル辺りで、オフホワイトのバッグかなんかを抱えた男性がここに書いてあるスキーのウンチクをそのまんま話している場面に遭遇しそうな気がします。

 本書の初っ端には、5種目の1994年と2016年においての参加人口の推移が表で示されているのですが、12年の間に、スキーが82.3 %減、テニスが58.7%減と衝撃の数字です。私、本文を読む前に、「錦織圭が全米で準優勝したのって2014年なんですけどぉ!」と思わず声が出てしまいました。

▲2014年の全米オープンテニスで準優勝を果たした錦織選手 (C)Getty Images

 しかし、ページをめくり続けると、これもまた衝撃の一文が飛び込んできたのです。「今どきの若者にとって、トップの選手が憧れの対象ではなく、自分とは無関係の凄い人でしかないので、(中略)いくらトップが活躍しても、若者はまったく動かないのです」だって。

 いい悪いじゃなく、本当に驚きました。「自分とは無関係な凄い人」って……、サッカーW杯の時のスクランブル交差点はなんなんだよ、と勝手に裏切られた気持ちになります。スポーツに限らず、今の若者はとにかくヒエラルキーが嫌いなんだなあと実感しました。それはある意味、健全かもしれませんけどね。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。河出書房新社より新著『鎌倉の家』が刊行。

<Text & Photo:甘糟りり子>

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