ビートたけしと森山未來の名演で浮かび上がる、天才落語家・古今亭志ん生の姿。落語指導・古今亭菊之丞が語る『いだてん』の魅力 (3/3)

落語を知らなくても楽しい。知ればなお楽しい仕掛けが満載

――『いだてん』にも破天荒な人物が登場しますが、ドラマの登場人物を連想するような落語があったら教えてください。

走る落語といえば、やっぱり第1回に出てきた『富久』です。もともと、日本橋から芝まで走るというのを、志ん生が浅草から芝へと距離を伸ばしたんですね。浅草と芝を往復するんです。実際に走ったら大変なことだと思うんですよね。私は走ったことありませんが。ちょうど冬場にかけられる落語です。

宮藤官九郎さんの台本は非常にシーン数が多くてたとえば30シーンで終わるようなところに50～60シーンもある。金栗四三がしゃべったところにたけしさんの志ん生がツッコミを入れる、たった一言だけ。で、また戻る。そういう細かいカット割りがテンポを生む。これはまさに落語です。

官九郎さんもものすごく落語がお好きで、落語のシーンが頭に入っているので、ここにあのセリフを持ってくれば、落語のあのシーンにオーバーラップするということがわかっているのです。その交差する部分、時代が行ったり来たりしてわかりにくいという人もいらっしゃるようですが、よく見ていただくと、いたるところにそういう仕掛けがあって、落語を知っている方なら、「あっ、あそこの部分ね」と分かる。そういうおもしろさがあるのです。もちろん落語を知らなくても楽しい、知っていればなお楽しい。

このドラマはオリンピックが主題なんですが、とにかく明るい、楽しい大河ですから、日本中が元気になってほしいという、その一点だと思うのです。そこにオリンピックという要素や、落語が入っていて、いろんな構成があります。放映の前日か前々日には、私のツイッター「＃いだてん落語的楽しみかた」で見どころをつぶやいていますので、ドラマに合わせて楽しんでいただければと思います。

［富久のあらすじ］
浅草三間町に住む久蔵は、年の瀬というのに酒のせいで大事なお客をしくじり、なけなしのお金で富くじを買う。富札は、自宅の大神宮様の神棚に納めて願掛けし、千両当たったらと皮算用をしているうちに眠ってしまう。その夜、しくじった旦那の住まいがある芝の久保町が火事と聞き、一目散に駆けつける。その心がけに免じて出入りを許され、あれこれ手伝ううちに火は消えて、久蔵は火事見舞いの酒を呑むうちに寝入ってしまう。再び半鐘が鳴り、今度は久蔵の住むあたりが燃えているという。慌てて戻るも長屋は丸焼け。久蔵は旦那の家に居候することに。富くじ興行の日、まさかの一等千両が当たったことを知るが、富札と引きかえでなければ一文ももらえない。火事で神棚もろとも燃えてしまったと落胆する久蔵。ところが、火の手が回る前に鳶の頭が神棚を持ち出してくれていたとわかり、血相変えて駆けつけると富札も無事にみつかった。
～サゲ～
頭「千両たぁ、この暮れに上手くやったな」久蔵「へぇ、大神宮様のおかげで、ほうぼうにお払い（御祓い）ができます」

［番組情報］
『いだてん～東京オリムピック噺（ばなし）～』
《放送予定》
全47回　毎週日曜［総合］20時／［BSプレミアム］18時／［BS4K］9時
《作（脚本）》
宮藤官九郎
《音楽》
大友良英
《題字》
横尾忠則
《噺》
ビートたけし（古今亭志ん生）
《出演（キャスト）》
中村勘九郎（金栗四三）、阿部サダヲ（田畑政治）／綾瀬はるか（春野スヤ）、生田斗真（三島弥彦）、杉咲花（シマ）／森山未來（美濃部孝蔵）、神木隆之介（五りん）、橋本愛（小梅）／杉本哲太（永井道明）、竹野内豊（大森兵蔵）、大竹しのぶ（池部幾江）、役所広司（嘉納治五郎）　
＜以下五十音順＞
荒川良々（今松）、池波志乃（おりん）、井上肇（内田公使）、岩松了（岸清一）、柄本時生（万朝）、大方斐紗子（金栗スマ）、小澤征悦（三島弥太郎）、勝地涼（美川秀信）、川栄李奈（知恵）、小泉今日子（美津子）、近藤公園（中沢臨川）、佐戸井けん太（春野先生）、シャーロット・ケイト・フォックス（大森安仁子）、白石加代子（三島和歌子）、髙橋洋（池部重行）、田口トモロヲ（金栗信彦）、武井壮（押川春浪）、永島敏行（武田千代三郎）、中村獅童（金栗実次）、永山絢斗（野口源三郎）、根岸季衣（田畑うら）、ピエール瀧（黒坂辛作）、平泉成（大隈重信）、古舘寛治（可児徳）、ベンガル（田島錦治）、星野源（平沢和重）、松尾スズキ（橘家圓喬）、松坂桃李（岩田幸彰）、松重豊（東龍太郎）、満島真之介（吉岡信敬）、峯田和伸（清さん）、宮崎美子（金栗シエ）、山本美月（本庄）ほか
《制作統括》
訓覇圭、清水拓哉
《演出》
井上剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁
《公式サイト》
https://www.nhk.or.jp/idaten