2019年10月30日

新ルールをきっかけに考えた“ゴルフのこれから”│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#38

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、2019年から改正されたゴルフの新ルールについて。実際にラウンドを回って体験した甘糟さんが感じたこととは?

慣れてくると、ピンをしたままも悪くない

 渋野日向子さんという新しいスターが誕生したり、タイガー・ウッズが13年ぶりに来日して見事に優勝したり、話題の絶えない今シーズンのゴルフ。私もめずらしく頻繁にラウンドに勤しんでおります。

 ゴルフってもちろん数字による勝ち負けなのですが、特にマナーを楽しむ競技でもありますよね。人が打つ時に話さないのはマナーというより常識でしょうけれど、バンカーショットの後に砂場を直すとか他人のパターラインを踏まないとか、初心者はつい忘れがちなマナーがいくつかあります。他人のボールも探す、素振りをたくさんしない、など気をつけなければならないことがたくさん。いくらスコアが良くても、マナーを身につけていないと様にならないのがゴルフ。一緒に回っている人への配慮ができないと上級者とはいえないのです。

 ご存知の方も多いように、ゴルフは2019年にルール改正がありました。中でも目玉は、ピンを立てままパットを打ってもいいこと。

 以前は、パッティングの時はピンを抜くのがルールでした。全員のボールがグリーンに乗った段階でピンを抜く、次のグリーンに移る(もしくはホールアウト)の際にピンを戻しておくのが義務でした。私たちレジャーゴルファーだと、このピンを「抜く」「戻す」行為は主に余裕のある人もしくは上級者の役目で、ある種のマナーのようなところがあります。自分のパットが入ったからといって、そのホールが終わりではないのです。

 なんてエラソーにいうわりに、ルール改正のニュースで初めて知ったのですが、今までは、ピンをしたままパッティングをしてピンに当たって入ったら2打罰、ピンに当たって跳ねたらやはり2打罰でそのままの場所からプレー続行というのがルールだったのですね。

 今年の春にゴルフを再開して、この「ピンを抜かずにパッティング」を体験。最初は戸惑いました。ばーんと目標が見えやすいのはいいのだけれど、やっぱり下心が出ますよね。強めに打ってピンに当てると入りやすいのかも、でも強過ぎると跳ね返っちゃうかも、と気持ちが揺れます。私程度の腕前なら、そんなことは気にせず真摯に打つのが早道なんですけどね。

 しかし、慣れてくると、ピンをしたままも悪くない。揺れる気持ちはだんだんなくなりました。正直いって、ピンに当てる強さまでコントロールできるわけじゃないことを身を以て実感したので。加えて、もしかして、この場面は私がピンを抜く役なの? という余計な心配もしなくていいし。

 いやいや、その余計な心配こそが、私はゴルフのゴルフたる所以だとも思います。数字や飛距離とは別の、心の実力みたいなものが醍醐味なんですよね。私って、やっぱり保守的でしょうか。

 ピンを抜く抜かないのはあくまでも選択制ですから、今まで通りピンを抜いてしてもいいのですが、自分の時だけそれを言い出すのは私程度のスコアでは非常に言いにくいのが現状だと思います。その分、時間がかかっちゃいますし、一緒に回る人のペースを乱しちゃいます。

 このルール改正、何といっても目的は時間短縮です。ピンを抜いたり戻したり、の分だけ早く回れる。ゴルフ人気は低下しているとはいえ、週末のラウンドだと、前は詰まるわ、後ろは押してくるわで、なかなか自分たちのペースで回れないこともめずらしくありません。まあ私が行くようなカジュアルなゴルフ場の話ですけれども。時間短縮はゴルフ人口維持のための大きな課題なのでしょう。

 正直なところ、個人的にはランチも選択制にして欲しい。まあ、これはルールではありませんが、ランチなしのスルーで回れるようにした方がもっと気軽に楽しめるのになあと思います。キャディさんをつけるのも少なくなって来ている今どき、ランチも希望する人だけというのはだめなんでしょうか。ランチの儲けがゴルフ場には大切というのはわかるのですが、サクッと午前中だけで回るスタイルも取り入れた方が間口も広がると思います。

 いつの間にか、ルール改正のピンを抜かない話から、ランチの話になってしまいました。いずれにせよ、ゴルフの新しい時代に期待をしております。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)

<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>