インタビュー
2019年7月26日

東京五輪メダルデザイナー川西純市さん直撃。デザインに込めた思い、「クッキーみたい」というネットの反響にも回答 (2/3)

ここまで複雑な立体造形は初めてのチャレンジ

――川西さんご自身はスポーツに興味はありますか。運動は、何かされていましたか。

こういう職業の方って、体力にはあまり自信がない、という人が多いと思うんですよね(笑)。中学のとき、ちょこっとだけ野球をやっていました。軟式野球です。レギュラーにもなれてなかったです(笑)。あと、高校のときはバドミントンをやっていました。それも体力がなくて、1年かそこらで辞めたんですけれど。あとはもう、美術部に。文化系の部活に入りましたね。自分に限界があるのを知ったので(笑)。でも身体を動かすのは嫌じゃないと言いますか、汗をかくのは好きです。なかなか、いま運動をやるのは難しいですけどね。できればしたいんですが。

――お子さんは、何かスポーツをやっていますか。

小さいときは体操を、けっこうしっかりやっていたんですけれど、年齢を重ねるに従って興味がなくなったみたいで。僕に似ているのかな、やっぱり(笑)。いま工学系の、なんか難しいことをやっています。頭を使う方向にいくと、なかなか身体を使えなくなってくるみたいで。

――発表されましたあと、周りからは、どんな反響がありましたか。

周りはびっくりして、ただただ、驚いている感じですね。仕事でお付き合いしている方からもメールがあって「有名になると、仕事をやってくれなくなるのでは」なんて心配の声もあったり。いま「そんなことないですよ」とお返事しているところです。

――今後のデザイナーの仕事には、どんな形で役立ちそうですか。

私自身、ここまで複雑な立体造形には初チャレンジでした。宮田亮平(文化庁)長官(東京2020大会入賞メダルデザイン コンペティション審査会座長)のアドバイスが非常に大きかった。今後は立体のものに、もっともっとチャレンジしていきたいな、という思いがあります。もともと絵を描いたり、平面ばかりやっていたので。(自分の中で)立体がおもしろくなっていくのを感じています。

――サインや案内図をデザインする、いまの仕事にもフィードバックがありそうでしょうか。

そうですね、はい。半立体のデザインを手掛けるときにも、意識が強まります。空間に幅が広がり、魅せ方が変わっていきそうです。

――いま事務所は、どんな体制なんでしょう。

小さな事務所で、3名でやっています。1名は奥さん。1名はグラフィックデザイナーです。小さな所帯なので、メダルデザインの発表前でも仕事をたくさん抱えており「きついなぁ」という思いがあったんですが、今後は人を増やさないと、かなり辛いところがありますね(苦笑)。もっとこれから、いろんな仕事をたくさんできるように、体制を整えていきたいなと思います。

――川西さんがメダルをデザインした、ということは事務所の方々しか知らなかったんでしょうか。

実際には奥さんしか知りませんでした(笑)。でも、デザイン事務所の社員も何となく感じるところはあったかもしれません。常に一緒にいるので「なんか、おかしいな」と(笑)。電話も、いろいろなところからかかってきますし。組織委員会に私の名前はないのに「あれ?」と思ったかも。でも、そこも『友だち』というようなことにして、何となく過ごしてきました(笑)。

「クッキーみたい」「ジャムを乗せたら美味しそう」と話題に

――デザインの発表後にTwitterの反応を確認したら「クッキーみたい」「ジャムを乗せたら美味しそう」との声がありました。

僕も見ました(笑)。これはおもしろいな、と思いました。でき上がったメダルを見て、僕もそう思ったんです。サザエのフタ、という意見もあって、おもしろいことを言うなと。美味しそう、というのは自分でも思いました。でもそれって、別に悪い意味じゃなくて、人間が直感的に感じることなんですよね。

金属でメダルをつくることの意味に思いをめぐらせ、金属だけれども金属っぽくない、という意識でデザインすることを考えていました。金属であるけれど静かになり過ぎないよう、光を当てたときにキラキラと反射させるようにしたり。

――温かみを持たせたり、ということもそのひとつでしょうか。

そうですね。

――オリンピックに携わる立場になりました。1年後の大会を、どう楽しみたいですか。

実際に、アスリートの活躍を間近で見たいですね。難しいかな。自分が生きている間にオリンピックが自国で開催されるだけですごいこと。東京なら(住んでいる大阪からも)すぐに行ける。でも行けないかな、海外からものすごいエネルギーが東京に集まってくるでしょう。でも、今回は行きたいなぁ。何かの形で参加したいと思っています。

――表彰台で、選手がメダルをかける姿を見られますね。

それをね、テレビで見るのは、うーんって思いますね(笑)。できるなら、実物をこの目で見たいから。どんな競技でも良いんです。

 編集部の質問に、一つひとつ穏やかに回答してくれた川西さん。応募総数400超のコンペを勝ち抜いていく過程で、人知れぬ苦労が続いた1年だったことでしょう。話を聞いたのは、東京2020組織委員会からメダルデザインが発表された翌日。その表情からは、安堵の気持ちがうかがえるようでした。

リボンとケースにもこだわり

 なお、インタビューに先立って開催された東京2020オリンピックメダルデザイン記者会見では、宮田亮平氏(東京2020大会入賞メダルデザイン コンペティション審査会座長、文化庁長官)がメダルリボン、およびメダルケースについて説明しています。

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