インタビュー
2019年9月22日

トータス松本×いだてん。全身全霊で叫び倒した、スポーツ史に残る名実況「前畑がんばれ」:インタビュー後編 (2/3)

阿部サダヲって本当にすごいなと

――阿部サダヲさんとのコンビでテンションも高いシーンになったと聞きます。

実際には、「前畑がんばれ」の実況の場に田畑さんはいなかったんですよが、ドラマでは河西さんの隣に田畑さんがいる設定。すごかったですよ、横で阿部くんの声がうるさすぎて(笑)、ちゃんと自分のセリフを言えないっていう。カットが出るたびに「邪魔してすみません」と謝ってくれるんです。いや大丈夫大丈夫って言うんやけど、なんか声がでかくて翻弄されるっていうか(笑)。でもまさに、そんな人だったみたいでね、ホンマ。エネルギーで人をどんどん巻き込んで翻弄していくみたいな。だから最初にラジオ番組をやっている、という体のシーンの撮影から始まったんですけれど、「一言お聞かせ下さい」って田畑さんに話をふるじゃないですか。そうしたら阿部くんがもう、ブワーってまくしたてるんですよ。僕もセリフを読んできているけど、だから田畑さんが言うことも分かっているけど、「あぁ、こういうテンションでくるんや」っていう。ブワーッとまくしたてて、自分でもセリフが飛んでるんやけど、もう出まかせで無茶くちゃ言う。それでもやめないんですよね。どんどん変なこと言っていってるんやけど、全然、やめないんですよ。

――阿部さんは、自分の芝居にアドリブはないと仰っていました。

本人はアドリブのつもりはないと思うんやけど「確かこんな脈絡の話だったと思う」ってことだけで、もう言葉は飛んでいるから、無理くり自分の言い方で誤魔化していくんですよ。誤魔化すっていうか、乗り切ろうとしていくんです。それが滅茶苦茶おもしろくて(笑)。カットがかかるまでやり続けるんですよね。もう本当にすごいと思いました。阿部サダヲって本当にすごいなと。

僕はひたすらアナウンサーとして冷静に受け止める、抑制の聞いたシーンだったので、覚えてきたセリフを挟み込むことに徹していましたけれど、合間のウワーって言うときに目を見て言ってくるから、それにアナウンサーとしてどうリアクションしたら良いか分からない(笑)。

ひたすら、はぁ、はぁと、相槌しかできひんなぁという。それがあって(後のベルリン・オリンピックでは)実況のシーンで、河西さんが主役になる。あのとき阿部くんがやっていたような、どこまで暴走するか分からんようなことを、今度は一人でやらなあかんっていうことを思いましたね。

ここは入れ替わりというか。田畑さんの絶大なる信頼を得て「この実況は河西さんにしかできない」と言われてやるわけじゃないですか。だからもう、力いっぱい全身全霊でやったんやろうし、それを表現するっていうことでやらしてもらいましたけどね。

――そのシーンで田畑さんは。

僕が「がんばれ」って言うと、「がんばれって言っちゃだめだ」って怒ってくるんです(笑)。前で応援している水泳チームも「がんばれがんばれ」って応援しているんやけど、いちいち「コラー」とか言って怒ってくる。がんばれ言うんじゃねー、とか言って。ひたすら怒っているんですよ見るのが楽しみのような怖いような。すごいおもしろかったですね。

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