インタビュー
2019年9月22日

上白石萌歌×いだてん。「前畑がんばれ」がプレッシャーにも活力にもなったから偉業が生まれた:インタビュー後編 (2/3)

平泳ぎは奥深い

――泳いでいるときは、どんな心境ですか。

無我夢中で「どうか自分の体力が向こうまで持ってくれ」と思っていました。平泳ぎは奥深くて、ひとつできたらひとつできなくなる。練習でできたフォームができなかったり、技術的にも難しい。いかに泳ぎを見せられるか、手のかきで出る水しぶきの臨場感とか、技術的なことで頭がパンパンになってしまって。周りは、外国のスイマーの方たち。体格も違いますし、ひとかきの伸び、パワーが違う。前畑さんが感じていらっしゃった、体格の違い、という恐怖心は私も撮影で感じました。オリンピックにいるような感覚がありました。

――阿部サダヲさんと共演したエピソードは。

印象的なシーンがあって。私、ドラマの中で2回、阿部さんを水の中に落としているんです。落とすつもりはなく、台本を読んでいても、そんなに激しいことは起こらないと思っていました。1回目は、ロスが終わったときに「前畑よく頑張った」と手を差し伸べられたときに落とします。2回目は、ベルリン前の練習で田畑さんがずっと「がんばれがんばれ」と言うから、「そんなことで金メダルが獲れるなら、もうロスで獲っているわ」って言って落とすという(笑)。『がんばれ』という言葉を、あまりおもしろく思っていなくて。どうせがんばれって言っておけば良いと思ってるんでしょ、なんて思ったら気持ちも乗ってきて、阿部さんを遠慮なく水の中にたたき落としていました(笑)。

――阿部サダヲさんの魅力は。

役に染まろうとするのが普通の役者さんだと思いますが、阿部さんの場合は、役の方から阿部さんに染まっていく感じがします。だから何をしても、モノにしてしまう。役が生きているって、こういうことなんだなと思いました。阿部さんの田畑さんは人間味があって、チャーミングな役柄。ずっと見ていられるなと思います。

――田畑さんの水泳界に対する思いを、秀子はどんな風に感じていたのでしょう。

田畑さんから「オトコオンナ」と呼ばれたとき、実際にそこまで嫌な感じはしませんでした。それは阿部さんが演じているから、とも思うんですが、私は「男も女も関係なく、あなたは強いよ」と言ってくださったような、私はそう受け取っていて。口も悪いし、何を言っているかよくわからないし、コミカルな部分がある田畑さんですが、誰よりも水泳を愛している。言葉は通じなくても身体で思いを伝えていて。なんとか日本の水泳を引っ張っていこう、という思いを感じます。

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