インタビュー
2017年12月25日

いつも以上ではなく、いつも通り競技すること。日本トライアスロン界のレジェンド・田山寛豪に聞く、世界を目指すための心構え (2/2)

「1年次に、香港で行われたアジア圏の選手が集まる大会に出場しました。これが、初めての海外レースです。その後、大学2年でアジア選手権に出場し、初めて日本代表に選ばれたんです。JAPANのユニフォームを見たとき、そして着たときは感動しましたね。でも、特に日本を背負っているといった気負いはありませんでした。スタートラインに立てば、あとはいつも通り。数少ない海外遠征なので、準備には追われていましたけどね」

 世界という舞台に立ちながらも、レース本番では“いつも通り”だという言葉が印象的でした。プレッシャーなどから実力を発揮しきれない選手もいる中、これこそが田山さんの持つ最大の強さなのかもしれません。

いつも以上ではなく、いつも通り競技すること 

 プロのスポーツ選手であれば、誰もがより高みを目指しトレーニングや大会に臨んでいることでしょう。田山さんに、世界を目指すうえで大切な心構えについて伺いました。

「いかに自分の力を出し切れるかが、もっとも大切だと思っています。そのための方法と準備さえ知っていれば、実力以上は無理でも、やってきたことは全て出せるはずです。特に重要な大会になると、つい余計なことをやってしまいがちなんですよね。でも結果的に、かえって実力が発揮できず終わってしまうことも多い。ですから特別なことはせず、“いつも通り”を保つことが重要なんです」

 確かに国際大会などの大舞台では、少しでも良い結果を出そうと考えてしまうもの。しかし直前になって何か取り組んでも、実力が上がるということはないでしょう。それより、これまで積み重ねてきたことを信じ、それを100%出し切れるように取り組む。その心構えが、世界で活躍するうえでは欠かせないようです。

「もちろん、疲労を溜め込まないことも大切です。私は2012年頃から、必ず週1回の月曜は完全休養にしました。たとえ何らかの理由で日曜にトレーニングできなくても、月曜は休みます。それまでは、正直に言って休むことが怖かったんですよね。でも休んでこそ超回復が起こり、強くなるのだと考えています。オフの日には大好きな鍼治療に行ったり、スーパー銭湯へ行ったりしています」

 特に持久系スポーツでは、休むと体力が落ちる等の懸念を持って、つい休養を避けがちかもしれません。しかし疲労が蓄積すればトレーニング時のパフォーマンスも下がり、効果的とは言えないでしょう。また、場合によっては怪我を引き起こすリスクもあります。トレーニングで追い込むだけでなく、しっかり休むこと。簡単なことのようですが、より高いフィールドで戦うからこそ重要と言えそうです。

やがて訪れる“辞め時”の考え方 

 世界を目指すほどのプロアスリートにとって、悩ましい問題に“引退”があります。どのタイミングで引退すべきか。田山さんは2017年の日本選手権を最後に、現役引退を決意されました。

「まず、最高のタイミングで辞めたいと思っていました。つまり、自分の力を出し切れるうちに。私にとっては、今シーズンの日本選手権を優勝して終えるというのが最良だと考えたんです。正直に言えば、周囲からは2020年の東京オリンピックを前に……といった声も少なくありません。でも、オリンピックってそんなに簡単じゃないんですよ。2014年から流通経済大学のトライアスロン競技部で監督という立場にありますが、もし東京オリンピックを目指すなら、教え子たちを捨てる覚悟で取り組まなければいけない。それでも、行けるかどうか分かりません。それよりは教え子たちが東京、あるいは次のオリンピックに絡めるために、自分は退いた方が良いと思ったんです」

 ちょうど本年度は、トライアスロン競技部から初めて卒業生が出るのだと言います。2名の卒業生は、それぞれ実業団とプロへ進むとのこと。その環境において、田山さんは選手ではなく指導者としての道を選ばれました。

 オリンピックという大舞台を経験し、完全に指導の場へとフィールドを移した田山さん。次回は引き続き、田山さんにトライアスロン競技部での指導法についてお聞きします。

▼こちらに続く!

トライアスロンの名門・流通経済大学で指揮する田山寛豪が実践する"人生で役に立つ指導法"とは | トレーニング×スポーツ『MELOS』

[プロフィール]
田山寛豪(たやま・ひろかつ)
1981年生まれ、茨城県出身。流通経済大学卒。流通経済大学 体育指導センター事務局(総務部付)にて勤務。3歳から水泳を始め、高校時代にトライアスロンへ転向。国内外にて数多くの大会へ出場し、2004年アテネから2016年リオまで、4大会連続でのオリンピックの日本代表に選出。2014年から流通経済大学・トライアスロン競技部で監督を務めており、2017年の日本選手権優勝を機に引退を表明。今後は指導の場に専念する。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランニングクラブ、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>

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