「水や塩分を摂ればいい」その考え方では、熱中症は予防できない!医師が教える“本当の熱中症対対策”
「水分を摂ればいい」「塩分を摂ればいい」といった断片的な知識では、熱中症は予防できません。
熱中症になりにくい身体を作るための長期的な栄養対策と、いざ熱中症リスクが急激に高まる時期に意識したい短期的な栄養対策を医師が解説します。
熱中症対策として摂取したい栄養素とは
熱中症対策として摂取したい栄養素には、以下があります。
- たんぱく質
- ナトリウム
- カリウム
- マグネシウム
- タウリン
- ロイシン(アミノ酸のひとつ)
- ビタミンB1
- カルシウム
- ビタミンC
しかし、これらの栄養素が熱中症対策に有効であることは、あまり知られていません(※)。
※大正製薬株式会社が2024年5月に実施した調査
【調査概要】
調査名称:「適度に摂取することで熱中症対策に役立つ栄養素」として認識しているものは?
調査機関:Freeasy 調査対象:全国の 20 代~70 代の男女 1200 人(年齢・性別 均等割付)
調査方法: Web アンケート 調査日:2024年5月8日
暑くない時期からやっておくべき食事対策
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長で医師の谷口英喜先生が解説していきます。
たんぱく質を摂る
谷口先生:体内の水分は、約半分の量が筋肉に貯蔵されます。そのため、筋肉量を増加させるたんぱく質を積極的に摂取して身体を動かし、長期的に筋肉が維持できるようにすることが重要です。
また、膠質浸透圧(※)を維持するためにも、たんぱく質が必要になります。
※こうしつしんとうあつ。血管中に水分を引き込む浸透圧のこと。アルブミンという血漿に含まれるたんぱく質が豊富でないと血管内へ水分を引き込みにくくなります
とくにロイシンというアミノ酸は筋肉の合成を促す効果が高いので、ロイシンを豊富に含む肉や魚を積極的に食べましょう。
タウリン
谷口先生:また、暑熱順化のためには、タウリン、ビタミンCも重要です。
魚介類や栄養ドリンクに豊富なタウリンは筋肉疲労を回復する効果でも有名ですが、身体のさまざまな機能を調節する働きがあることがわかっています。
近年、深部体温を下げる働きがあることも研究結果からわかっており、熱中症対策として意識したい栄養素です。
ビタミンC
谷口先生:ビタミンCには抗酸化作用があり、体内の活性酸素を減らすことで細胞を守り、炎症を軽減し、暑熱順化をサポートする役割を果たしてくれます。
タウリンもビタミンCも水溶性なので、魚介類や野菜を煮てスープのようにしたお料理を汁ごといただくのは、食事からのたっぷりの水分摂取にもつながり非常におすすめです。
いよいよ猛暑突入! どんな食事を意識したらいい?
気温が上がってからの短期的な予防策では、暑熱環境で汗をかいて失われた水・電解質・ビタミン類を補うことを意識します。
長期対策のための栄養素に加えてほしいのが以下です。
- ナトリウム
- カリウム
- マグシウム
- ビタミンB1
ナトリウム
ナトリウムは塩に含まれる栄養ですが、ナトリウムを適度に摂取しつつ水分補給をしないと体内には吸収されにくく、また残りにくいのです。
水だけを多量に摂ると、いわゆる水中毒となり、体内の塩分濃度が極端に下がってしまうと低ナトリウム血症を起こすリスクもあります。
逆に塩分のみで水分を摂取しないことも水分の実質的な補給に繋がらずに危険です。
塩飴だけ、梅干しだけではなく、必ず塩飴、または梅干し1つにコップ1杯の水分をあわせて摂ることを忘れずに。
真水だけを1時間に1リットル以上飲むと危険です。必ず塩分が含まれた水分か食事とあわせて摂るようにしましょう。
カリウム
野菜や芋類、藻類に豊富なカリウムは尿を出しやすくし、体温を下げることに役立ちます。
緑黄色野菜や豚肉に豊富に含まれるビタミンB1は熱中症の症状を緩和させてくれます。暑さによる疲労感をやわらげ、食事から摂取した糖質を体内で燃やして効率的にエネルギーを作ることで必要な身体作用をサポートしてくれます。
これらをいっぺんに摂ることができるのが、ビタミンB群もビタミンCも豊富に含む、キウイをはじめとする果物やトマト、きゅうり、かぼちゃなどの夏野菜です。
豚肉を入れた夏野菜カレーなどもおすすめのメニューです。
自律神経を整える生活習慣も欠かせない
体力を蓄え、体温調節にも密接に関わる自律神経を整えておくための生活習慣も欠かせません。
- こまめな水分補給
- 食事からの水分補給量も非常に大きいので朝食を抜かない(食事で1リットル、水分補給で1リットルの1日2リットルが目安)
- 天気予報で熱中症注意報を意識した無理のない行動計画を立てる
- 日傘、帽子、首冷却アイテムなど、暑熱環境で危険のない対策アイテムを持ち歩く
- エアコンをきちんと使用し、涼しい環境で良質な睡眠・休養を取る など
熱中症は正しい対策をすれば防げる病気です。身体を作り、身体を守る意識を高めて夏を迎えましょう。
監修者プロフィール
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長
医師 谷口英喜先生
麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養、周術期体液・栄養管理のエキスパート。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、TNT-Dメディカルアドバイザー。1991年、福島県立医科大学医学部卒業。学位論文は「経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究」。2024年5月に新刊『熱中症からいのちを守る』(評言社)が刊行。その他の著書『いのちを守る水分補給~熱中症・脱水症はこうして防ぐ』(評言社)など。
<Edit:編集部>