なぜ痩せる?腸内細菌が生み出す「短鎖脂肪酸」の働きとは。おすすめの食品、腸活のコツも教えます
ダイエットには腸内環境を整えることが重要ですが、その理由はご存知でしょうか。
瘦せ体質の人には、腸内環境に特徴があるといいます。その特徴とは、腸内で “ 短鎖脂肪酸 “ という代謝物質を生み出しているということ。腸内細菌が喜ぶ食材を摂取することで、効率的に短鎖脂肪酸を作り、基礎代謝をアップさせている可能性があるのです。
短鎖脂肪酸とは一体どんなものなのか、増やす方法とは。本質的な“やせ体質”を作るために、どんな腸活を行うのが効果的なのか。
ダイエットと腸内環境の関係性について、腸内フローラ検査「マイキンソー(Mykinso)」を開発した株式会社サイキンソー取締役副社長/co-CEO 竹田綾さんに伺いました。
<このページの内容>
ダイエットと腸内環境。腸内細菌と肥満にはどんな関係性があるの?
ダイエットに腸内環境が関わっている理由として、大きく2つ挙げられます。
便秘やむくみ、お腹のはりなどを防ぎ、痩せやすい体を作る
第一に、腸内環境が乱れると便秘やお腹の張りなどの原因になります。
ぜん動運動が停滞すると便だけでなく老廃物の排出もうまくいかなくなるので、便秘やむくみに繋がり体重は減りにくいと考えられます。
腸内環境を整えることで便秘を防ぎ、肥満への悪循環を断ち切る効果があります。
脂肪の蓄積を抑える“ 短鎖脂肪酸 “を作り出す
もうひとつの理由は、腸内環境を整えることで、腸内細菌が私たちの体の脂肪の蓄積などを抑える効果がある “ 短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん) “ という有用物質を作り出してくれるからです。
短鎖脂肪酸は、最近ヨーグルトのCMなどで耳にしたことがあるワードかもしれません。
腸内細菌は、人間が食べた食事の残り物を、腸内で食べて生きています。この腸内細菌の代謝によって生まれ、腸を介して人間の健康にも影響を与える主な成分こそが、短鎖脂肪酸です。
短鎖脂肪酸には、体脂肪の蓄積を抑制する働きや、基礎代謝をアップさせる働き、食欲抑制作用などがあるとされています。
つまり、肥満を予防するためにカラダにとってよい働きをしてくれるというわけです。
肥満体質の人に多い腸内細菌はコレ!
マイキンソーデータベース( 国内最大規模の 10 万人強の腸内フローラと生活習慣のデータベース )では、BMIが高い人や頻繁に外食をする人の腸内に多い菌として、以下などが挙げられます。
- Fusobacterium(フソバクテリウム)
- Sutterella(ステレラ)
- Megasphaera(メガスファエラ) など
過度の飲酒や過食などの習慣がある方は、肥満に関連する菌が増加するリスクが高まるため、気を付けるようにしてください。
また、フソバクテリウム属の1種であるFusobacterium nucleatum (フソバクテリウム・ヌクレアタム)は、主に口腔内にいる菌で歯周病の関連菌として知られていますが、口腔ケア不足などにより、腸内に入り込んで定着してしまうことが示唆されています。*1
適切な口腔ケアで、フソバクテリウムによる腸内環境の悪化を予防しましょう。
*1 Gut. 2019;68(7):1335-1337. doi: 10.1136/gutjnl-2018-316661
痩せ体質の人に多い腸内細菌とは
痩せ体質の人に多い腸内細菌は以下の通り。
- Christensenella minuta (クリステンセネラ・ミヌタ)
- Akkermansia muciniphila (アッカーマンシア・ムシ二フィラ)
- Blautia(ブラウティア) など
痩せている人にはクリステンセネラ・ミヌタがいる
イギリスのチームから、痩せている人には クリステンセネラ・ミヌタという菌がいることを明らかにし、この菌 を多く含む細菌叢を無菌マウスに移植するとその後の肥満を防止できることなどが報告されています。*2
アッカーマンシア・ムシ二フィラの菌量の違いでダイエット効果に差
近年では、糖尿病や肥満に対する抑制効果があるとして アッカーマンシア・ムシ二フィラが注目されています。
肥満の人を対象とした6週間の食事介入(低カロリー、高タンパク、高繊維食)研究では、研究開始時の腸内の アッカーマンシア・ムシ二フィラ の菌量の違いでダイエット効果に差があり、この菌の多い群がもっとも体脂肪率が改善したことが報告されています。*3
内臓脂肪面積が小さい人ほどブラウティアの占有率が高い
日本人においては、内臓脂肪面積が小さい人ほどブラウティアの占有率が高いことが示されています。*4
内臓脂肪面積はBMIよりもメタボリックシンドロームとの相関が強いので、健康づくりの指標として注目です。
短鎖脂肪酸を生み出す“痩せ菌”の有無がダイエットに影響を及ぼす
その他、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸は、大腸のエネルギー源としてぜん動運動を促進するだけでなく、体内に吸収されて全身のさまざまな細胞の表面にある受容体(レセプター)に作用してエネルギー代謝調節に関わっています。
たとえば、脂肪細胞にあるレセプターに短鎖脂肪酸が結合することで、ブドウ糖や脂肪酸といったエネルギー源を脂肪組織に取り込んで蓄積することを抑える方向へ代謝調節が働きます。
痩せ体質の人は、短鎖脂肪酸を産生する菌がよろこぶ食材を食事にうまく取り入れて、全身の基礎代謝が自然とあがる仕組みを作っている可能性も高いです。
*2 Cell. 2014 Nov 6;159(4):789-99. doi: 10.1016/j.cell.2014.09.053.
*3 Gut. 2016 Mar;65(3):426-36. doi: 10.1136/gutjnl-2014-308778. Epub 2015 Jun 22.
*4 NPJ Biofilms Microbiomes. 2019 Oct 4;5(1):28. doi: 10.1038/s41522-019-0101-x.
どんな食べ物がいい? 短鎖脂肪酸の産生におすすめの食材
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が作りだしている酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のことです。
これらには優れた生理効果がありますが、その臭いや味、吸収性などから食事として直接食べたり飲んだりして摂取することが困難です。
そこで、腸内にいる腸内細菌に食物繊維などのエサとなるものを与え、発酵によって短鎖脂肪酸を生み出してもらうことが有効なのです。
個人の腸内環境によってオススメの食材は異なる
どんな食材をエサとして短鎖脂肪酸を生み出してくれるかは、腸内細菌によってそれぞれ異なります。
そのため、効率的に体内で短鎖脂肪酸を作り出すためには、自分の腸内にどの菌が多いのかを知り、その腸内細菌がよろこぶ食材を知ることが重要です。
これらの腸内細菌がいるかどうか、チェックしてみよう
日本人の腸内に存在していることが多く、短鎖脂肪酸を産生することが明らかとなっている腸内細菌を下記に紹介します。
腸内フローラ検査で自身の腸内にどの菌がどんな割合で存在するのかを調べ、これらの菌が多く存在していたら、それがあなたの腸内で短鎖脂肪酸を産生するメインプレーヤー菌と言えます。
メインプレーヤー菌とそれぞれの腸内細菌が喜ぶ食材については、下記にまとめました。
■短鎖脂肪酸を作り出すメインプレーヤー菌
■メインプレーヤー菌が喜ぶ栄養素と食材
メインプレーヤー菌 | 合う栄養素/食材 | おすすめ食品例 |
バクテロイデス | イヌリン | にんにく、ごぼう |
プレボテラ | 大麦、βグルカン | 大麦、雑穀 |
フィーカリバクテリウム | フラクトオリゴ糖 | たまねぎ、バナナ |
ビフィドバクテリウム | ガラクトオリゴ糖 | 牛乳、ヨーグルト |
ルミノコッカス | レジスタントスターチ | イモ類、豆類 |
ブラウティア | カカオポリフェノール | ダークチョコレート、ごぼう |
腸内環境を悪化させるNG生活習慣
短鎖脂肪酸を産生する菌や、その菌がよろこぶ食材についてはお分かりいただけたと思いますが、腸内環境を整えるうえで注意したほうがよい行動も、改めて説明させてください。
- いつも同じメニューの食事、野菜を取らない
- 過食
- 過度の飲酒
- 1日中座りっぱなし
- 運動習慣がない
- 睡眠不足
これらの行動は、腸内で要注意菌が増加するリスクとなる可能性もあります。
忙しい日々の中で、ついついやってしまいがちなNG行動も多いと思いますので、生活の中で少しずつ意識してみてください。
心がけたい「足し算の腸活、引き算の腸活」
簡単に実践できる腸活として、「足し算の腸活」と「引き算の腸活」をご紹介します。
「足し算の腸活」では、腸のために摂取したほうがよい食材を、「引き算の腸活」では、控えたほうがよいものや習慣についてより詳しくお伝えしていきます。
足し算の腸活
- 主食の置き換え
白いご飯 → 玄米、雑穀米
白いパン → らい麦パン、全粒粉パン、ふすまパン(小麦ブラン)
- いつもの食事に根菜の一品足し
きんぴらごぼう
大根と人参のおひたし
大学芋(さつま芋)
- 果物で食物繊維を補給
りんご
バナナ
キウイ
いちご
フルーツにハチミツをかけて食べると更に効果がアップします!
- 大豆製品で食物繊維を摂取
納豆
豆腐
豆乳
きなこ
腸に良い食材といっても、一気に食材を変えるハードルは高いですよね。
まずは、いつもの主食を置き換えてみることや、腸に良い食材でいつもの料理を置き換えてみるなど、無理せずにできる範囲でスタートしてみましょう。
引き算の腸活
- 添加物の多い食事
ファストフード
コンビニのお弁当 など
- 油や脂質の多い食事
- 肉類など動物性たんぱく質の過剰な摂取
- 精製された穀物
白米、小麦、白砂糖、食塩など
- 過度な飲酒
これらの習慣は、腸内で肥満や大腸がんなどの発症にリスクがある要注意菌を増やす原因にも繋がります。
いきなり食事を改善するとなるとハードですが、毎日ファストフードやコンビニの食事など添加物が多いものやお酒などを口にしている方は、回数を減らすなどできることから、引き算を始めていきましょう。
「足し算」「引き算」のどちらでも、最初は継続できることからスタートすることが大切です。まずは、できるところからチャレンジしてみてください。
監修・執筆者プロフィール
株式会社サイキンソー 取締役副社長 執行役員 co-CEO
竹田綾(たけだ・あや)
高校卒業後に渡米し、フロリダ州立大学で分子生物物理学の博士号を取得。帰国後、DNA解析受託サービスを行う企業にて、企業・アカデミア向けにコンサル営業を主に担当。出産を期に「食と健康」に興味を持ち腸内細菌叢の可能性に魅せられ、第二子出産後すぐに、腸内フローラ検査「マイキンソー(Mykinso)」を手がけるサイキンソーを共同創業。CSOとしてサイエンス領域の統括や研究受託サービスなどを推進した後、2024年1月に取締役副社長に就任。プライベートでは小学5年生と3年生の2児の母であり、子育てと3匹の猫の世話に奮闘中。
<Edit:編集部>