ヘルス&メンタル
2024年3月12日

なぜ「腸内環境を整える」ことがメンタルケアにつながるのか。メンタルに不調を抱える人に共通する“腸内環境の特徴”

前回は、花粉症と腸内環境の深~い関係性について深掘りしていきました。今回はメンタルケアについてです。

腸内環境はココロにも大きな影響を与えていると聞いてはいましたが、具体的にどんな関係性があるのかまではよく知らず。

ということで、今回は精神状態と腸内環境の関係性について、腸内フローラ検査「マイキンソー(Mykinso)」を開発した株式会社サイキンソー取締役副社長/co-CEO 竹田綾さんに伺いました。

この記事のポイント

  • メンタルに不調を抱える人やうつ病の人が持つ腸内環境の特徴
  • 腸からココロの健康を保つために取り入れたい腸活とは

まずはおさらい! 腸内環境とは

──腸内環境ってなんぞ? という人もいるかと思います。あらためて教えてください。

人の腸内には、数千種類、数百兆個にもなる細菌が共生しており、この細菌たちが作り出すコミュニティを「腸内フローラ」や「腸内細菌叢(さいきんそう)」と呼びます。

そして腸内環境とは、消化管、特に大腸の中の腸内細菌たちの生活環境を指し、近年の研究からそれは、私たちの心身の健康と密接につながっていることがわかってきました。

腸の中には、ビフィズス菌や乳酸産生菌、酪酸産生菌など体に良い影響を与える “ 有用菌 ”や、肥満やがんなど疾患リスクを高める “ 要注意菌 ” などさまざまな働きをする菌が共存しています。

腸内環境を整え、健康な腸内環境を維持するためには、これらの菌がバランス良く存在する、つまり “ 多様性 ” を高く保つことが重要と考えられています。

腸内環境がココロにも影響を及ぼしているってホント?

──“腸は第二の脳”と呼ばれるように、両者は密接に関係していると聞きました。ということは、心にもなにか影響を及ぼすのでしょうか?

腸と脳は、自立神経やホルモンの働きを通じて深いつながりを持ち、お互いに影響しあう密接な関係があります。

例えば、ストレスを感じたときにお腹が痛くなったり、下痢や便秘になった経験はないでしょうか。また逆に、腸内の炎症により、不安感が増したり行動や食欲に影響することもあります。

こうした脳と腸の関係は “ 腸脳相関 “ と呼ばれており、そのメカニズムの解明において重要視されているのが、腸内フローラです。

例えば、「幸せホルモン」とも呼ばれるセロトニンは、気分や感情を調整するホルモンですが、その大半が腸内で作られており、その産生に腸内細菌が関与しています。

ストレス緩和や睡眠の改善などでよく聞く機能性成分の一つであるGABA(γ-アミノ酪酸)も、腸内細菌が作り出すホルモン物質の一つです。どちらも、直接脳に届けられるわけではありませんが、腸脳相関を通じて間接的に脳の機能に影響を与えることが示唆されています。

腸脳相関の異常が原因と考えられている疾患の一つに、過敏性腸症候群(IBS)があります。

腸内に炎症など器質的異常がなく、慢性的な下痢や便秘、おなかの張りといった腹部症状が続く病気で、診断されていない人を含めると日本人に約1割以上もいる可能性があると言われています。

そして、そのIBS発症のリスク要因として、うつ病や不安障害、また人生早期にうけた重大なストレスが挙げられます※1 。 

同様に、うつ病の罹患者やメンタルに不調を抱える人々の中には、便秘や過敏性腸症候群に悩む方が多いという調査結果 ※2 も出ており、脳の炎症によるメンタルの不調と腸内環境の乱れには、非常に大きな関連がある可能性が高いのです。

※1:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 - 過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)

※2:Comorbidity of irritable bowel syndrome in psychiatric patients: a review

メンタルに不調を抱える人・うつ病の人に共通する腸内環境とは

──脳の不調と腸の不調はつながっている。では、メンタルが悪化している人はどんな腸内環境になりがちなのでしょうか。

メンタルに不調を抱える人、うつ病の人の腸内環境は、有用菌の割合が少なく要注意菌の割合が多くなるなど、腸内環境の多様性が崩れているという特徴があります。

国立精神・神経医療研究センターの功刀先生らが行った先行研究 ※3では、うつ病の患者さんは、有用菌のビフィズス菌が少ないということが報告されています。また、海外のいくつかの研究では、酪酸産生菌の代表格であるフィーカリバクテリウムが少ないという報告もあります※4。

さらに、弊社が京都大学・大阪大学と実施した共同研究 ※5では、強い育児ストレスを感じている0~4歳の乳幼児を養育中の母親の腸内フローラは、育児ストレスの少ない母親と比べて腸内フローラの多様性が低く、いくつかの要注意菌の割合が高いことがわかりました。

※3:Possible association of Bifidobacterium and Lactobacillus in the gut microbiota of patients with major depressive disorder

※4:The Gut Microbiome in Depression and Potential Benefit of Prebiotics, Probiotics and Synbiotics: A Systematic Review of Clinical Trials and Observational Studies

※5:Intestinal Microbiome and Maternal Mental Health: Preventing Parental Stress and Enhancing Resilience in Mothers

こんな症状があれば要注意! 腸内環境が悪化しているサイン

── あらためて、メンタル目線で自分の検査結果を見返したくなりました。ビフィズス菌が少なかったらどうしよう……。こんな症状を感じている人は腸内環境が悪化しているかも、というサインはありますか?

腸と脳の関連についてお伝えをしてきましたが、腸は脳以外にもさまざまな体の不調や健康と関連があると言われており、腸内環境が崩れるとそれらが現れてしまいます。

次のような不調が出てきたら、腸内環境が悪いサインかもしれません。いつもより腸を労わってみることをおすすめします。

■便秘・下痢・お腹の張りなど

代表的な症状として、お腹まわりの不調があげられます。毎日トイレで「便」チェックを習慣化し、形や色などを確認しましょう。

いつもより便が出ない、下痢の頻度が高い気がするときは腸にも注意を向けましょう。

■花粉症などアレルギーのお悩み

腸内環境が崩れると免疫機能の低下につながる可能性が高く、結果としてアレルギーの発症や重症化を引き起こす可能性が高いと言われています。

例年よりも症状が重いと感じる際は、腸も意識してみてください。

■肌荒れ

腸内環境が乱れると体内で炎症が起こりやすくなり、ニキビができやすくなるなど肌にも影響があります。

■体重の増加

腸内環境が乱れていると、脂肪が蓄積されやすく体重も増加しやすくなるという傾向があります。

■メンタルの不調

今回のテーマでもお話をしましたメンタルの不調も要チェックです。いつもより少し気だるい、気分が重いと感じるときは腸にも少し気を向けてみてください。 

こんな行動は控えたい。腸内環境を悪化させるNG行動

──わりと当てはまるポイントが多かったです……。原因が思い当たらないですが、どんなことに気をつけるとよいでしょうか。

こうした不調は普段の生活習慣から引き起こされるものです。下記のような行動は、腸内環境の多様性を崩す可能性が高いので、できるだけ避けるようにしてください。

■食生活の乱れ

ファストフードやコンビニ食など、添加物の多い食事を継続的に摂ることがあげられます。

過剰な暴飲暴食や、過度の飲酒などは、腸管バリアを壊し、腸内に有害な物質が侵入する機会が増えるため、腸内環境を乱す炎症などの原因になると言われています。

■運動習慣がない・長時間の座りっぱなし

運動習慣がなかったり、長時間同じ姿勢でいたりすると、腸のむくみに繋がり、腸内環境を乱す一因が増える可能性があります。

ウォーキングなど軽い運動でも十分効果はありますので、軽く体を動かすことを意識しましょう。

■ 不規則な生活リズム

睡眠時間が足りなかったり、就寝時間が日によって異なったりすると、自律神経が乱れ腸内環境にも悪影響を及ぼす可能性があります。

メンタルを整える腸内環境改善のポイント

──現代人だと当てはまる生活習慣かもしれません。とはいえ、できる限りの努力はしたいもの。心と体を整える腸内環境改善のポイントがあれば教えてください。

メンタルの不調を訴えている方や、うつ病を患っている方に、ビフィズス菌の保有割合が少ない特徴があったとお話しました。

それが原因で不調になっているとまでは言えませんが、よい腸内環境を保つことで、(レジリエンスが高い)強いメンタルを手に入れられる可能性はあります。

■補菌

ビフィズス菌が摂れる食材の代表格はヨーグルトですが、そのほかにもサプリメントや青汁などからも簡単に摂ることができます。

■育菌

腸内に持っているビフィズス菌を増やすには、牛乳など乳糖を含む食材が有効です。

その他、穀類や芋など食物繊維が豊富な食材や、玉ねぎ、ハチミツ、バナナなどオリゴ糖を含む食材も組み合わせて食べてみてください。

これらが、ビフィズス菌のエサとなり、短鎖脂肪酸も生み出してくれます。

──食物繊維は“6大栄養素”と呼ばれることもありますね。あらためて、大切な栄養素だというのがわかります。食べ物以外で意識したいポイントはありますか?

ビフィズス菌に限らず、腸に良い働きをする菌を増やすためには、規則正しい生活と適度な運動も大切です。バランスの摂れた食事や十分な睡眠、日々のちょっとしたストレッチや運動などを心がけてみましょう。

とはいえ、実際はすべての人に共通して効果が出せる腸活はないというのが正しく、それぞれの腸内フローラタイプに合わせて行動を変えることが大切です。

まずは、腸内フローラ検査でご自身の腸内フローラタイプを知り、タイプに合わせた腸活を行うように意識をしてみてください。

監修・執筆者プロフィール

株式会社サイキンソー 取締役副社長 執行役員 co-CEO 
竹田綾(たけだ・あや)

高校卒業後に渡米し、フロリダ州立大学で分子生物物理学の博士号を取得。帰国後、DNA解析受託サービスを行う企業にて、企業・アカデミア向けにコンサル営業を主に担当。出産を期に「食と健康」に興味を持ち腸内細菌叢の可能性に魅せられ、第二子出産後すぐに、腸内フローラ検査「マイキンソー(Mykinso)」を手がけるサイキンソーを共同創業。CSOとしてサイエンス領域の統括や研究受託サービスなどを推進した後、2024年1月に取締役副社長に就任。プライベートでは小学5年生と3年生の2児の母であり、子育てと3匹の猫の世話に奮闘中。

<Edit:編集部>