かけっこが速くなる爆売れシューズ「瞬足」。ロングセラーの秘訣と新たに仕掛ける商品とは (1/3)
アキレス株式会社が2003年5月に発売したジュニア向けスポーツ・シューズ『瞬足』は、年間で600万足を売り上げる大ヒット商品です。幼稚園児から小学校高学年までの人口約1100万人に照らし合わせると、2人に1人は履いている計算になります。なぜ『瞬足』は、これほど人気を集めたのでしょうか。開発秘話やヒットの理由、最新モデル、来年発売の新製品まで、取材してみました。
運動会の徒競走で勝てる“左右非対称”のシューズ
「『瞬足』の最大の特徴は、“左右非対称”のソール(靴底)です」と語るのは、アキレス株式会社シューズ営業本部新規事業開発担当・副本部長の津端裕さん。『瞬足』を開発した生みの親で、シューフィッター、幼児子ども専門シューフィッターの資格もお持ちです。
▲津端裕さん
2002年当時、アキレス株式会社のジュニア向けスポーツ・シューズでは、『ランドマスター』というブランドが主力でした。しかし、最盛期には年間150万足販売していたものが70万~80万足へと減少。マンネリ化し、次第に売れなくなっていったのです。
新商品の開発が急務となり、商品開発リーダーの職に就いていた津端さんは、「オリジナリティのある商品で勝負したい」と考えます。その頃のシューズは、がっしりとして重いタイプが主流で、競合他社も皆、幅広で甲高なものを作っていました。足幅(足囲)のサイズで言うと3Eです。
ところが、同社で約7000人の子どもの足を調査した結果によると、生活環境の変化や運動不足などが原因で、子どもの足はどんどん細くなっていたのです。
「そこで、1Eや2E、3Eと自分に合ったものを選べるようにサイズを増やし、軽くて柔らかい、履きやすいシューズ造りを目指しました」(津端さん)
また、これまでのシューズは、通学するのが主な目的で、必ずしもスポーツに適したものではありませんでした。津端さんはそこにも着目。「運動会で転ばずに走れるシューズを作ろう」」(津端さん)と考えたのです。
「運動会の徒競走は、左回りで狭いグラウンドを回るので、遠心力に負けて、速い子に限って、滑って転ぶこともあります。その問題を解決するために開発したのが、左右非対称のソール(靴底)を搭載し、左回りのコーナーを走りやすくした『瞬足』なのです」(津端さん)
普通、ソールのデザインは左右対称ですが、『瞬足』ではその常識をくつがえし、“右足の内側”と“左足の外側”に左右非対称のスパイク(突起)が配置されています。
▲発売時モデルの非対称ソール
発売時のモデルのソールを見せてもらいました。確かに非対称ですが、よく見ないとわかりにくい。「これは妥協の産物。本当はもっと非対称にしたかった」と津端さんは言いますが、それだけ非対称ソールというものが、かつてないほど斬新で、極端なものは作りにくかったということでしょう。
見た目も、現在の『瞬足』より大分がっしりして見えますが、当時としては画期的な軽さを実現したのだそうです。
▲『瞬足』発売時のモデル
速い子はより速く、遅い子には夢を!
こうして生み出された新製品ですが、発売当初は、なかなか人気に火が付きませんでした。当時はCMも放送しておらず、知名度がなかったからです。ところが、次第に小学生の子を持つお母さんのブログなどから口コミでじわじわと広まり始めました。