1つに絞らなくても、いろいろなスポーツや経験を重ねることで“強み探し”ができる。元パラアイスホッケー日本代表・上原大祐(後編)│子どもの頃こんな習い事してました #11 (3/3)
吹奏楽は役立ってますね。吹奏楽では、トランペットがいてホルンがいてクラリネットがいて、さまざまな楽器があってひとつの音楽ができます。ホッケーもいろんな役目の選手がいるから成り立つ。また、管楽器は唇の調整のちょっとしたさじ加減で音色が決まる。ホッケーも、スティックのちょっとしたさじ加減で試合の行方を左右します。私は体まかせではなく、頭8割、体2割を使った理論的なプレーをしようと常に心がけてきました。
さらに、スポーツはリズムが大切なんですよ。今、ダブルダッチをしているんですが、あれは完全にリズム。リズム感も吹奏楽、ピアノによって身につきました。
――これまでの経験で無駄なことはないんですね。
全然ないですね。今、施設を作るときのバリアフリー対策などのアドバイザーをしていますから、建築を学んだことも無駄ではなかったし、心理学も子どもたちや親御さんと関わるときに役立っています。
――最後に、これからスポーツを習わせたい、あるいは習っているお子さんを持つ親御さんにメッセージをお願いします。
障がいのあるなしに関わらず、親御さんが「できない」と勝手に決めつけるケースが本当に多い。特に障がいのある子どもの場合、いちばんの差別者が親御さんになるんです。「まず実際にやらせてみてください」と必ず言っています。
先日、自閉症の子たちのダブルダッチ体験会を開いたら、「飛べるわけがない」という親御さんがいました。結果、全員飛べました。その親御さんは反省していました。ある肢体不自由の子の特別支援学校では、部活がない。そこで「バスケットボールをしよう」とバスケ用の車いすに生徒を乗せました。ふだん電動車いすを使っている子も難なくこぎはじめて、そのお母さんが「あれ、うちの子車いすがこげるんですね」と驚いていました。その子、高校1年生ですよ。高校1年生になって初めて、親御さんも先生も、その子が車いすがこげるということを知ったんです。
子どもの可能性を奪わないよう、まずは大人たちのマインドを変えましょう。大人たちが「子どもに挑戦させる」という挑戦、「心配して制限することをやめる」という挑戦をしましょう。親の挑戦が子ども挑戦につながります。
マインドを自分ひとりで変えられないのであれば、変えてくれる人のところに行けばいい。自分ひとりで育てようと思わなくていい。人に頼りながら子どもを育てていけばいい。逆に親だけで育てるよりもまわりも一緒に育てるほうが、子どもたちにとってもいい教育になります。周りの大人たちは他人の子どもにももっと関心を持って、近所の子どもも育ててほしい。もっと言えば、日本の子どもたちは日本の大人全員が育てていけばいい。そういう文化がもっと広がれば、日本はもっと大きく強くやさしくなるんじゃないでしょうか。NPOの活動を通して、こうした社会をつくっていきたいですね。
▶前編:ピアノを習い、部活ではトランペット。夢は音楽の先生のはずが、19歳でスポーツの道へ。元パラアイスホッケー日本代表・上原大祐(前編)【子どもの頃こんな習い事してました #11】
[プロフィール]
上原大祐(うえはら・だいすけ)
1981年生まれ。長野県出身。長野大学社会福祉学部卒業。二分脊椎による下肢障がいのため幼少期から車いす生活を送る。19歳でパラアイスホッケーを始める。2006年グラクソ・スミスクライン入社。2006年トリノパラリンピックに出場。2010年バンクーバーパラリンピックではエースFWとしてチームを銀メダル獲得に導く。2012年アメリカのナショナルホッケーリーグチームPhiladelphia Flyers Sled Hockey Teamに在籍。2013年引退。2014年、会社勤務を続けながらNPO法人「D-SHiPS32(ディーシップスミニ)」を設立し、障がい者と健常者が時間を共有する場を提供、子どもたちと交流する。その子どもたちに全力の戦いを見せると現役復帰、DFに転向し、2018年平昌大会出場。2016年より日本電気勤務。
<取材・撮影協力>
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<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>