インタビュー
2022年5月30日

サッカー元日本代表・稲本潤一選手から学ぶ、“ベストコンディション”を維持する秘訣 (2/2)

――デビューされてから今まで、そのやり方は変わっていないですか?

若い時は、筋トレをしなくても試合でのパフォーマンスがよかったので、あまりやってこなかったですね。他の選手は、筋トレをやっている人はすごいペースでやっていましたが、自分はそれほど筋トレが好きではないので……(笑)ただ、年齢を重ねていくにつれて筋力が落ちてきたり、練習で鍛えられないところが補えたりだとかがあるので、最近はしっかりやるようにしています。

とくに、南葛SCになるとクラブハウスがないので、自分がやりたいときにできなかったり、必要だと思うときにできなかったりします。なので、週のはじめにジムできっちり行い、試合に近づくにつれて個人トレーニングで徐々に落としていくやり方に変わってきました。

――トレーニングや練習のなかで気をつけていること、心がけていることを教えてください。

部位ごとにどこをしっかり鍛えているか、というのを意識してトレーニングは行っています。全体練習でいうと、まずは監督の戦術の部分でどうやっていくかというのと、あとは個人としてチームにどう貢献できるか、あとは個人としてどれだけサッカーが上手くなるかってところを意識してやっています。

また、今は練習が夜ということもあり、日中に時間があるので練習前にしっかりケアを入れたりして気をつけていますね。

――年齢を重ねられて、練習前後のストレッチなどは以前より意識されていますか?

練習前後のストレッチもしっかりやりますが、そこに行くまでに自分でできることも大事にしています。家や事務所のスペースなどでカラダをあたためてから練習場に行っています。

――好きなトレーニングはありますか?

上半身のトレーニングというのは、やればやるほど、わかりやすくカラダにあらわれてくるので、それはやりがいがあるかなと思っています。だけど、僕はあまり筋トレ自体が好きではないです……(笑)

より試合でハイパフォーマンスを出せるか、そこに筋トレが必要だと思っているので、正直やらずにコンディションが良ければそれに越したことはないのですが、そういうわけにもいかないので。あまりやりたくない筋トレもしっかりやってコンディション維持に努めています。

エネルギー源やリカバリーできる栄養補給はこまめに摂取

■食事編

――普段の食生活で意識していることを教えてください。

南葛SCにくる前は、午前が練習で3食しっかりと自分のペースでとれていたのですが、今は夜練習に変わったので、夜の食事を今までと同じ早い時間帯に食べることができなくなりました。なので、決まった時間に3食ではなく、1日4~5食にわけてとるようにしています。練習前に炭水化物などのエネルギーになるものをしっかり摂って、練習後はリカバリーできるもの、そして寝る前にたんぱく質が多いものを摂るという風に、3食だけではなく、自分にその時に必要だと思うものを摂るようになってきました。

今は、毎食指導いただく栄養士さんはいないのですが、質問したら答えてくれる栄養士さんがいるのと、妻に協力してもらいながら食事面は気をつけています。

――食事以外でプラスアルファ取り入れているものはありますか?

エネルギーなどの栄養補給の意味で、SPURTという飲料を飲んでいます。すぐにリカバリーになる要素のものがSPURTの中にはたくさん入っているので、練習前と後には必ず摂るようにしています。日々のコンディション維持において欠かせないアイテムとなっていますね。

――逆にとらないようにしている、気を付けている食べ物はありますか?

油モノは前からやめていたりはしますが。でも、揚げ物ってやっぱり美味しいじゃないですか(笑)それがストレスになるのもよくないとは思っているので、試合の次の日だとか、試合がオフの日には食べたりもしますね。極力練習がある日や試合の前の日は、揚げ物を摂らないようにしています。

日常のサイクルを同じペースでルーティーン化する

■コンディショニング編

――睡眠は普段からどのくらいとっていますか?

家に帰るのが22時なので23時ぐらいに寝ます。それで子供が6時半には起きるので、睡眠は7時間ぐらいですね。

――稲本選手にとって、7時間がベストコンディションを維持できる睡眠時間なのでしょうか?

本当は8時間ほど寝たいところですが、足りない時間は、昼間に仮眠をとったりして補っています。

――質の良い睡眠をとるために心がけていることを教えてください。

本来は、就寝前にお風呂に入って一度カラダを温めて、ストレッチしてそのあと寝るのがベストだと思います。それが今はちょっとできていないので、すごく質のいい睡眠をとれているかというと、とれていないのが現状ですね。そこは改善していかなければならないところですけど、枕やベッドなどは自分に合ったものを意識して選んでいます。

――コンディションを整えるうえで、なにかルーティーンはありますか?

トレーニング、食事、休養を同じペースでルーティーン化していければ、自分のペースもつかめてきますし、コンディションも維持しやすいと思っています。多少、南葛SCにきたときは戸惑いましたけど、徐々に自分のペースになってはきているので、今すごくいいペースでできてきているかなとは思っています。

すべてをプラスに考えて、モチベーションを上げる

■メンタルケア編

――緊張やプレッシャーを感じたときの対処法を教えてください。

試合前は、どの試合も多少は緊張します。より注目される試合になればなるほど緊張は高くなりますが、まず緊張を感じたら、監督のせいにしています(笑)緊張やプレッシャーというものを、別のところに置いて気持ちを落ち着かせますね。

――ちなみに、試合中にミスをしたときなどは、どう気持ちを切り替えていますか?

試合中のミスに関しては、しょうがないと割り切っています。次に同じことをしないというのを意識して切り替えていますね。さらに、そのミスを取り返そうと思って自分が普段やっていないプレイを背伸びしてしようとは思わず、普段通りを心がけています。ミスをしたことに対して悔やむのではなくて、いつも通りやろうというメンタルでやっていますね。ミスをしない人なんていないし、毎回気を遣っていられないので。同じミスをやらないと心がけてはいますけど、それを取り返そうという感じのメンタルではやっていないですね。

――人と比べてしまうことはありますか?またそのときの対処法を教えてください。

比べるというか、誰かがいいプレーをしたら、もちろん悔しかったりしますし見てしまうことはあります。だからといって、できるかできないかは別問題だとは思っています。自分ができることを100%やることだけ心がけていますね。

――気の合わない人がチームメイトにいたら、どのように対応しますか?

僕たちは、チームスポーツをやっているので、性格が合うかというのは、そんなに気にしません。なぜなら、それがサッカーにつながったことは今までなかったので、チームをどう勝たせるかが一番重要だと思っています。

自分とは合わない人でもチームを勝たせるうえで必要な人だと思いますし、同じチーム内で自分たちの味方であれば、その彼の力も100%必要になってくるとは思います。プライベートで仲良くする必要はないと思いますが、いざ試合や練習が始まったりしたら、そういうのはまったく関係ありません。その彼の力と一緒に、どうチームに貢献するかということしか考えてないですね。

――練習やトレーニングのモチベーションが上がらないときの対処法を教えてください。

まず、ボールを蹴っていれば僕自身そんなに嫌な練習というのはないです。ただ、嫌いなフィジカルトレーニングだけの日もあります。自分がやりたくないトレーニングなど面白くないと思うときもありますが、それでもモチベーションを上げるには、そのトレーニングをいかに自分のためだと思うかですね。

すべてをプラスに考えて、そのトレーニングをやると自分のコンディションがよくなる、チームのパフォーマンスも上がるという考え方で常にやっています。嫌なトレーニングや練習などいろいろあると思いますが、それは”チームの結果を出すため”(目的のため)だと思っていつも割り切るようにすると、モチベーションは上がるのではないでしょうか。

サッカーに関しては僕の経験上、嫌なトレーニングは身になることが多いですね。自分がやりたくないことをやった方が、あとあと充実感もありますし、やり切った感があります。

それこそ、筋トレもそうですし、チームによっては走るだけの日もあります。全然おもしろくないんですよ。だけど、それを経て、試合や練習でのコンディションが間違いなく上がったって実感がありますね。それをしないとコンディションが上がらないっていうのもわかっているので。モチベーションの上がらないときは、すごくコンディションのいい自分を想像しながらいつも走っています。

すべては目的のために、プラス思考で行動する

トレーニングや食事、メンタル面で、すべてプラス思考で日々行動している稲本選手。そこには明確に、”チームの勝利”という目的・ゴールが存在している。嫌いなトレーニングや人間関係、食事管理などのコンディション維持も、その目的のためにはすべて必要なこと。その割り切った考え方や行動が、43歳になる今でも現役選手として活躍し続けることができる要因のひとつであろう。

長い現役生活のなかで確立してきた、さまざまなコンディション方法とモチベーションキープ術。”すべては目的のため”という考えからくる行動は、サッカー選手だけでなく、多くの人にとって参考となる内容である。

現在は、南葛SCの若い選手たちからアドバイスを求められることも多く、常にコミュニケーションをとりながら練習に取り組んでいるそう。数々の実績を上げている稲本選手の助言は説得力があり、若い選手たちも身が入る言葉に違いない。そんな稲本イズムが伝承される南葛SCは、東京23区初、葛飾区からJリーグ入りを目指している。

[プロフィール]
稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
早くから傑出した才能を示し、ガンバ大阪ユースで順調にステップアップを重ねたのち97年に当時史上最年少でJ1デビュー。99年には「黄金世代」と呼ばれたイレブンでワールドユース準優勝を果たして世界を驚かせ、その後の日本人による海外移籍の先鞭をつけた一人となった。アーセナル、フランクフルト、ガラタサライなど欧州の名門クラブを渡り歩き、UEFAチャンピオンズリーグでも得点を記録している。日本代表として日韓、ドイツ、南アフリカと三度のワールドカップに出場し、特に日韓大会ではベルギー戦の逆転ゴールとロシア戦の決勝点を挙げ、日本中を熱狂の渦に巻き込んだ。豊富な運動量と献身性に加え、中盤から独力で持ち上がりゴールを陥れる圧巻のプレーを代名詞とする日本サッカー界のレジェンド。

<Text & Edit:MELOS編集部/Photo:南葛SC/野口岳彦、松岡健三郎>

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