「心身ともに健康になれる最高のスポーツ」。ビーチテニス日本代表・増田健吾選手に聞く“競技の魅力”、そして“勝つ心身”の作り方
砂浜の上を裸足で駆け回り、風を読みながらラリーを繰り広げる「ビーチテニス」。日本でも競技人口が広がりつつある中、その魅力についてビーチテニス日本代表の増田健吾選手に話を聞いた。
ビーチでプレーすると、気持ちがすごく明るくなる
増田選手は、ビーチテニスについて「心身ともに健康になれる最高のスポーツ」だと語る。
「まず一言で言うと、心身ともに健康になれる最高のスポーツだと思っています。とくに“心”の部分では、ビーチという普段あまり行かない開放的な場所でスポーツをすることで、気持ちがすごく明るくなるんです。リラックスできますし、普段のストレスや悩みも、体を動かすことで解消できる感覚があります」
自然の中でプレーすること自体が、メンタル面に良い影響を与えているという。
「海って、いるだけで心が開放される場所なんですよね。そこで思い切り体を動かせるのが、ビーチテニスのすごく大きな魅力だと思っています」
“砂浜”だからこそ得られるトレーニング効果とは
身体面でも、ビーチテニスには大きな特徴がある。
「普通の人が運動するのって、基本的にはコンクリートや硬い地面の上ですよね。でも砂浜って柔らかくて不安定なので、膝や関節へのダメージが少ないんです。その一方で、自分でしっかり足を引き上げないと動けないので、筋肉への負荷はかなり高まります」

ケガのリスクを抑えながら、高い運動効果が期待できる点も魅力だという。
「怪我のリスクは低いけれど、筋肉への負荷は高い。すごく身体の健康に貢献できるスポーツだと思っています」
さらに、裸足でプレーすることにも意味がある。
「普段は使わないような足裏や足指の機能を呼び起こせるんです。浮き指や外反母趾、反り腰みたいな症状の改善にもつながると言われています。ビーチでスポーツをすること自体が、健康につながっているんですよね」
ビーチテニスを始めて「人生そのものが変わった」
ビーチテニスは、競技だけでなく暮らしにも変化を与えた。
「もともとは都内に住んでいたんですけれど、ビーチテニスをもっとやりたくて、海沿いに引っ越しました。今は“すぐ隣に海がある”みたいな生活です」
海の近くで暮らすようになってから、性格や考え方にも変化があったという。
「本当に心がオープンになったなって感じています。誰とでもフレンドリーに接することができるようになったし、人との交流を楽しめるようになりました」

さらに、「自分に自信がついた」とも語る。
「社会人になってから、昔はそこまで海に行く生活じゃなかったんです。でも海沿いで暮らし始めてから、人と話すことがすごく楽しくなったし、前より明るくなったなって感じています」
ビーチテニス、最大の敵は“風”
一方で、ビーチテニスならではの難しさもある。それが風だ。
「ビーチなので、無風の日ってほとんどないんです。強風の中で試合や練習をすることも多いので、その風をどう使うかがすごく大事になります」
ビーチテニスで使うボールは通常のテニスより軽く、風の影響を受けやすい。
「風を読んでプレーするのは難しいです。でも、それがきつさでもあり、楽しさでもあるんですよね」
「試合も日常の一部」。独自のコンディショニング
練習後や試合後のケアについて聞くと、増田選手は笑いながら「意外とシンプルです」と話した。
「本当に疲れた時は、ビタミン系のサプリを飲んで、早く寝る。それに尽きます」
ただ、日頃から試合と同じ強度で練習しているため、特別に“試合だけ疲れる”という感覚は少ないという。
「練習も毎回しっかり強度を上げています。だから試合も、日々のルーティンの中にある感覚なんです。『今日は特別な試合だから』というより、普段の延長線上に試合があるイメージですね」
灼熱のビーチ。暑さ対策は「海に飛び込む」
真夏のビーチは過酷な暑さとの戦いでもある。何しろ砂浜は太陽によって熱され、日差しを遮る屋根もない。
「夏場は砂浜が本当に熱いので、サンドソックスっていうビーチスポーツ用の靴下を履いています。あとはコートに水をまいて、足裏の熱さを和らげたりしています」

もちろん全身の暑さ対策も欠かせない。
「休憩中は冷感ポンチョを着て、なるべく体を冷やすようにしています」
アスリートではない一般市民も、冷感ポンチョは出勤や外出時に活用すべきかもしれない。近年の暑さはそれくらい耐え難い。さらに、増田選手はビーチならではの方法で全身を冷却しているという。
「試合後や練習後は、そのまま海に飛び込んでアイシングします。体も気持ちもリラックスできるので、ビーチ特有のすごくいいケア方法だと思っています」
プレッシャー対策は「相手を見ること」
どうしても緊張してしまう本番試合。プレッシャーへの向き合い方については、「相手視点」を意識すると解けると語る。
「プレッシャーを感じる時って、自分のことばかり考えている時なんですよ。自分のプレーとか感情とか、そこにフォーカスしすぎてしまう」
しかし、ビーチテニスは“対人スポーツ”だと強調する。
「相手が嫌がることは何か、どういう心理状態なのか、そこを考えて駆け引きすることが大事なんです。相手視点で考えるようになると、不思議と自分のプレッシャーは減っていきます」
「駆け引きを楽しむ感覚」が、メンタルコントロールにつながっているという。一般の人に置き換えるなら、プレゼン相手の上司やクライアント、あるいは発表会の観客が「何を求めているのか」を考えることに近い。自分自身に意識を向けすぎるのではなく、“相手視点”に立つことで、過度な緊張を和らげられるという。
また、緊張したときに行う“ルーティン”を事前に決めておくのも有効だそうだ。ポイントは身体接触を取り入れること。たとえば、自分の腕を撫でる、歩く歩幅を「拳一個分」と決めるなど、細かな動作をあらかじめ設定しておく。緊張したときやミスをした後にその動きを繰り返すことで、気持ちを切り替えやすくなるという。
日本トップ選手の“覚悟”に刺激を受けた
他のアスリートから刺激を受けることも多い。
「今の日本トップ選手は、ビーチテニスが一番盛んなブラジルに拠点を移しているんです。英語も日本語も通じない環境で、ポルトガル語を勉強しながら挑戦している。その行動力とハングリー精神が本当にすごいと思っています。その姿勢が、試合での強さにもつながっていると感じていますね」

トレーニングではビーチバレー選手の動きも参考にしている。
「素早い動きや体幹を鍛えるためのトレーニングを取り入れています」
「カッコ悪くても勝つ」。1点の価値は同じ
競技観に大きな影響を与えた存在として、元テニス選手ブラッド・ギルバート氏の名前も挙げた。
「『Winning Ugly(ウイニング・アグリー)』という本が、自分のビーチテニスの土台になっています」
本のテーマは、“かっこ悪くても勝つ”。
「派手なスーパーショットを決めても、相手のミスで取っても、1点は1点なんですよね。それなら確実に取れるプレーを選ぶことが大事。勝ちにこだわる姿勢はすごく大切だと思っています」
もちろん、それはスポーツマンシップを無視するという意味ではない。
「正々堂々と戦った上で、それでも最後まで勝ちに執着する。その考え方にすごく共感しています」
開放感あふれるビーチを舞台に、心も体も鍛えられるビーチテニス。増田選手は、その魅力をさらに多くの人へ伝えていきたいと語っていた。
プロフィール
増田健吾(ますだ・けんご)
ビーチテニス日本代表選手。高知県・東京都出身。父の影響で幼少期からテニスを始め、学生時代から全国レベルで活躍。早稲田実業高校、早稲田大学で競技経験を積み、学生時代にはテニスで日本一を経験した。大学卒業後はサントリーホールディングスへ入社し、一度は競技生活から離れたものの、広島で偶然出会ったビーチテニスに魅了され再びラケットを握る。仕事と競技を両立しながら実力を伸ばし、競技開始からわずか数カ月で国内大会優勝を達成した。さらに語学留学を経て、2025年からは海外ツアーにも本格参戦。昨年の全日本選手権では優勝を果たし、これまでに国際大会で通算17回優勝、4回の準優勝を記録している。現在は日本を拠点に選手として競技力向上を追求する一方、ビーチテニスイベントの開催やテニスコーチとしての活動にも取り組み、競技の普及にも力を注いでいる。
Instagram @kengo_masuda_3
<Text & Photo:編集部>








