インタビュー
2017年8月28日

テーラー目線で作るウェットスーツ。信國太志が語る“呼吸”の違いとは?(前編) (1/2)

 モードの最先端をけん引するスターデザイナーからテーラーへ、驚きの転身を遂げたファッション界のカリスマ、信國太志さん。

 サーフィン愛好家としても知られる信國さんは今、テーラーのノウハウを盛り込んだウェットスーツを開発している。その経緯や、気になるこだわりのポイントを聞いた。

テーラーメイドの圧倒的な着心地をウェットスーツに応用

 自身のブランド「TAISHI NOBUKUNI」はもちろん、「TAKEO KIKUCHI」のクリエイティブディレクターも務めるなど、ファッションデザイナーとして華やかな表舞台で活躍していた信國さん。突如テーラーという職人に転身したのは、およそ6年前のことだった。

 老舗での修行の後、すぐさまテーラーサロンを立ち上げ、今日までメンズスーツを中心にさまざまな服をその手で仕立ててきた。そんな信國さんが、なぜウェットスーツの開発に至ったのか?

「行きつけのサーフショップやウェットスーツメーカーの方々と、テーラー目線でウェットスーツを作ったらどうかという話で盛り上がったのがきっかけです」

 話の中で信國さんはテーラーとして培ったノウハウを生かすことで、ウェットスーツの着心地を改善できると思ったという。

「例えば、僕はテーラリングで胸や肩の前面のボリューム――いわばゆとりですね、そこを大切にしています。なぜなら、そうやって作った服を着たときの圧倒的な着心地の良さに、僕自身が感動したからです。その要素をウェットスーツにも適用できるのではないかと思いました」

胸回りのゆとりで呼吸が楽になり、疲労しない

 既製服は大まかに言うと前面と後面のパーツを張り合わせて作る、いわば平面的なもの。一方、テーラリングではより緻密に立体感を持たせると信國さんは話す。

「前後の布を張り合わせるだけなので、既製服は胸回りのゆとりを前後に持たせることが難しく、たいてい体の脇にボリュームを作ります。その点、僕はダーツ(筆者註:立体的に仕立てるためのカッティングやパターンメイキング、縫い消しの技法)などの縦割りのカッティングも用いて、胸の前後にボリュームを持たせるので、着心地もシルエットも良くなります。ウェットスーツも基本的に前後で張り合わせているのですが、今回の開発ではテーラードジャケットと同じようにダーツなどを入れて立体感を持たせ、胸や肩の前後、肩甲骨周りにゆとりを持たせています」

 メーカーによる絶え間ない機能向上も、今回のウェットスーツ開発に寄与していると信國さんはいう。特に首回りからの浸水を大幅に防ぐネックエントリーが、ゆとりの実現につながっているようだ。

「水の浸入を防ぐために、これまでウェットスーツは体にピタピタのサイズで作られてきました。今では首周りからの浸水をだいぶ防げるようになったので、今回のウェットスーツではサイズに多少のゆとりを持たせられています」

 今回はメーカーから届いた新たなサンプルをお持ちいただいたが、これ以前にもサンプルは作られ、すでに信國さんは海で何度も試着しているのだとか。果たしてその感想は?

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