インタビュー
2019年9月22日

トータス松本×いだてん。全身全霊で叫び倒した、スポーツ史に残る名実況「前畑がんばれ」:インタビュー後編 (1/3)

 日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。

 第2部ではロサンゼルス(1932年)とベルリン(1936年)の2つのオリンピックにおける、日本の水泳界の盛り上がりがメインに描かれます。ところで海外で奮闘する日本人選手の活躍を、スポーツ実況はどうやって国民に伝えてきたのでしょうか。実はそのあたりも、大きな見どころになっていきそうです。

 日本人女性初の金メダリストとなった、前畑秀子(演:上白石萌歌)の快挙を「前畑がんばれ」の実況で伝えたのは、NHKスポーツアナウンサーの河西三省。『いだてん』では、トータス松本さんが演じます。インタビュー後編の今回は、歴史的なスポーツ実況として語り継がれている「前畑がんばれ」を演じた率直な感想や手応え、共演した阿部サダヲさんや上白石萌歌さんとのエピソードなどについてお話を聞きました。

《あわせて読みたい》
●トータス松本×いだてん。現場で起こるセッションでいかに自分を表現するか:インタビュー前編

[プロフィール]
●トータス松本(とーたす・まつもと)
1966年12月28日生まれ、兵庫県西脇市出身。アーティスト、俳優。ロックバンド・ウルフルズのボーカルとして、1992年にシングル『やぶれかぶれ』でデビュー。1995年、『ガッツだぜ!!』でブレイク。1996年のアルバム『バンザイ』でミリオンヒットを記録し、NHKの紅白歌合戦に出場。2001年には『明日があるさ』で2度目の紅白歌合戦出場を果たす。2003年、初のソロカヴァーアルバム『TRAVELLER』を発表。2009年、ウルフルズが無期限活動休止に。2014年、4年半の活動休止を経てウルフルズが活動再開。2017年には「椎名林檎とトータス松本」名義で『目抜き通り』を発表、NHK紅白歌合戦にソロとして初出場。俳優としても活躍を続けており、TVドラマや映画などに出演。大河ドラマは2010年の『龍馬伝』以来、2度目の出演となる。

●河西三省(かさい・さんせい)
運動部記者として新聞社に勤務後、NHK入局。「河西の放送を聴けば、そのままスコアブックをつけられる」と評されるほど克明な描写で知られた。1936年ベルリン・オリンピックでは、前畑秀子の凄絶なレース展開にふだんの冷静さを失くして「前畑、がんばれ!」を20回以上も絶叫。日本中を熱狂させたラジオ実況は現在でも語りぐさになっている。

【あらすじ】第36回「前畑がんばれ」(9月22日放送)
ロサンゼルス・オリンピックの雪辱を期す前畑秀子(上白石萌歌)は、経験したことのないプレッシャーと闘う。日本国中から必勝を期待する電報がベルリンに押し寄せ前畑を追い詰める。レースを目前にアナウンサーの河西三省(トータス松本)が体調を崩すが、田畑(阿部サダヲ)は前畑勝利を実況すると約束した河西の降板を断固拒否する。そして迎える決勝。ヒトラーも観戦する会場に響くドイツ代表への大声援。オリンピック史に残る大一番が始まる──。

本当に、大役だなぁというプレッシャーがすごかったです(笑)

――「前畑がんばれ」の撮影は、どんなテンションで臨みましたか。

愛知県の屋外プールで撮影したんですけど、4泊くらいして毎日プールに通ってて、イチバン最終日に撮ったんですね。だから初日は他のシーンから撮っているんですけど、もう最終日のベルリンのシーンが気が気じゃないっていうか。もうとにかく、重くて憂鬱で、楽しみ半分、嫌さ半分というのが、何というのかもう、本当に大役だなぁというプレッシャーがすごかったです(笑)。

――例えば、ライブでテンションが上がるようなことあると思うんですが、それと共通する部分はありますか。

そうですね、「前畑がんばれ」の実況が収録されているSP版のレコードはもう何回か聞きましたけど、途中で聞くのを止めて。まず同じようにはできないというね。だから自分なりの「前畑がんばれ」をぶちかますしかないというか。もうそれだけでしたね。声も全然違うし、トーンも違うし、がんばれの回数も違うし、細かく言えば何から何まで違うんですけど、実際に目の前で上白石(萌歌)さんとかが泳がれていて、ゲネンゲル選手(ドイツの競泳選手)とのデッドヒートが展開されているのを見ながら、実況さながらにやるんですけど、そのときの自分のテンションを信じて全身全霊で叫び倒すっていう。もう絶叫に近い感じで。それが、たぶんイチバン求められているのかなと思ったんですね。だから勝手に自分で叫び倒しました。

そのときはすごい充実感があるんですね。満足感、やりきった感があるんですけど。こう、冷静に見たり聞いたりしてみると、相当荒くて、追撮(追加撮影)させられて(笑)。もう、全然ろれつが回ってないところがあったりして、監督の大根仁さんも「さすがにこれはまずいな」と思ったみたいで。「えー、またやるのかー」と思いましたけど、結果的には追撮して良かったです。やっぱり全然違いました。しかもその追撮の日に、怖い顔してやって来て、僕のところに。「今日は厳しくいきます」って大根さんに言われて(笑)。なんでそんなプレッシャーかけるのー、って。

僕、大根さんと誕生日が同じで。12月28日で。ちなみに寺島しのぶさんも同じ日なんですけど。ふたつ年下なんですね、大根さんの方が。それまでは同世代で親近感があったから、ちょっとこう朗らかに接していたんですけど、怖かったですね、最後は(笑)。

――前畑秀子さん役の上白石萌歌さんは7kg増量し、日サロにも通われたと聞きます。彼女の印象は。

えーとね、なんか神秘的っていうか、遠くを見ているような目でしたね。前畑秀子さんは、写真でしか見たことないですけど、ほんまに金メダルを獲りそうな気がしましたね、上白石さん。だから気迫っていうのかな、別に力が入っているわけではないけれど、佇まいが、エネルギーがみなぎっているような。だから、「河西三省役の松本です」って挨拶できなかったですもん。だいぶ後になってから、「そう言えば挨拶できていませんでした、改めまして」とか言われて、「僕も挨拶していませんでした」とか言って。実況の「前畑がんばれ」のシーンのときは、ずっと同じプールの現場にいるのに、お互いに挨拶できませんでしたね。しそびれていた、だけじゃないような。近寄り難い何かがありましたね。やっぱり、すごく役柄に入り込まれていたのかなぁ。1回、控えの施設に移って挨拶してからは、朗らかに話しましたけどね。

――役柄に感情移入はできましたか。リアリティがありましたか。

そうですね。泳いでいる姿もすごく様になっているし、もちろんお芝居上、ゲネンゲル選手が追い越すことはできないので、芝居でひとかき、ほんのわずかリードの状態でずーっと泳いでお芝居をしている、それもすごいことやけどね、見てて本当に「前畑がんばれ」って感じなんですよね。実況のセリフだから、劇中劇とも違うし何ともおかしな感じやけど、実際に言ってる感じの様子で泳いでいるんでね。本当に実況している錯覚をするような感じでしたね。

1 2 3