インタビュー
2019年9月22日

トータス松本×いだてん。全身全霊で叫び倒した、スポーツ史に残る名実況「前畑がんばれ」:インタビュー後編 (3/3)

東京オリンピックは開会式や閉会式で歌いたい

――来年の東京オリンピックで見たい競技は。スポーツ実況の役柄を演じて、スポーツ、オリンピック、アスリートに対する考えや見方が変わりましたか。

水泳はやっぱり見たいですね。実況の部分は、いまと昔でタイプが変わりましたよね。ラジオしかなかった時代は、言葉ですべて伝えていた。いまはクリアな映像で見れる。スポーツに、関心があるないよりも、オリンピックは開会式とか閉会式で歌いたいというね、そういう思いはあります(笑)。選手を応援したり、ねぎらったりする意味で、自分の仕事で参加できたら、いやー最高の思い出になるやろなと思ったりしますね。

前畑がんばれみたいなこと、いまやっちゃいけないんですかね。いまやったらおもしろいと思うんですけどね、実況でがんばれしか言ってない人(笑)。

――そんな中で、「前畑がんばれ」はどんな気持ちだったでしょうか。

当時の音声を実際に聞くと、わりと淡々とやっているんですよね。だから心の中は忙しかったと思いますね。アナウンサーとしての口調は絶対にキープせなあかんし、見ている光景は伝えなあかんっていう気持ちと。

(レース展開は)ほんとに大接戦でいくんですね。ひとかきだけ前畑がリードしている。もう、気が気じゃないと思うんですよ。そこに興奮がない混ぜになって、ヘトヘトになったと思うんですよね。けど、当時の録音が良くないというのもあるけど、わりと淡々と聞こえるんですよね。だから、あれだけの興奮をあれだけ抑制して淡々とやったことに驚きを感じるね、僕は。言い方も変なんですよ、「強豪ゲネルゲンも続いております、続いてゲネルゲン続いております、続いてゲネルゲン続いております」みたいに、言葉が滅茶苦茶反復したりとか。変なことになっているんですよ(笑)。しかも最後の最後、「あと5m、4m」の後に「ゴール」を言わなあかんのに、ゴールは言ってないんですよね。言い忘れているんですよ、完全に。その、興奮して。ゴールと言わずに「勝った、勝ちました」というんですよね。ゴール言わんかい、みたいな(笑)。

だから、すごい冷静にせなあかんという状況の中で、とても冷静じゃいられないというせめぎあい。格好良いなと思いましたね。人間味があふれていて。名実況と言われるだけのことはあると思いましたね。河西さんは、たぶん楽しんでやっていた部分もいっぱいあると僕は思うんです。

<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>

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