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2019年11月24日

松重豊インタビュー「日本人はどこか、田畑政治のような人を好きな気がするんです」(いだてん) (2/3)

東龍さんは本当に人柄は良かったんだろうな

――田畑さんの魅力はどこにあるんでしょうか。

僕はNHKで田中角栄の話もやったことがあるんですが、あの時代の、戦後の日本を動かしてきた、ある意味、策士的な政治家たちっていうのは、どこかああいう魅力があって。いまの時代だと舌禍事件とかで、間違いなく早々に失脚しているでしょう。マーちゃんに至っては、やっぱりそういう問題を起こして、あの時代なのに失脚しちゃっている(笑)。だけどまぁ、ああいう人たちに動かされていた日本社会があった。日本人がどこか、ああいう人を好きな部分が、僕は絶対にあるような気がするんですよ。世の中を掻き回してくれるような、強い存在をどこかで求めているような節が日本人にはありますよね。

――東龍さんが、田畑を失脚させた部分もあるのでは。

そこはね。結局、東京都知事という立場がそうさせた。政府から川島さんが出てきますけど、オリンピック招致委員会と、政府と、それから国際問題などが絡んできて。イスラムとか、いろんな問題が集中してきて、結局、マーちゃんを切らざるを得なかった。結果としてマーちゃんを裏切る形になるんですが、人間ドラマとしても合点はいく。難しい局面でした。

――東龍さんは、どんな人物だったのでしょうか。

いろんなところで、人柄が良いと書かれています。僕は、人柄が良いというのは、その人の魅力のすべてではないと思っている。そう褒めるしかない人もいる。ただ、東龍さんは本当に人柄は良かったんだろうな、とは思います。東大のボート部の出身で、医者で、学者肌で、1人で何かをやることが好きな方。宮藤さんがうまいな、と思うのは、マーちゃんをクビにした後、東龍さんは孤独を感じます。1人、練習場でボートを漕ぐみたいなシーンが出てくる。これが、すごく東っぽい。ああいうシーンがあるのは、宮藤さんの愛情ですね、そこで救われる。東さんは、人間として魅力的だし、愛すべき人なんだけど、都知事というポジションの重圧は大きすぎるのだと思います。

――田畑と仲違いして川島につくことになった東さん。そのときの気持ちは。

都知事の立場では、予算的なものも考えないといけない。政治的な圧力に板挟みにもなります。マーちゃんのように信念を持って、理想論で進むだけではなく、「もっと現実的になろうよ」という気持ちがあったのでは。理想論で動いてきたマーちゃんにしてみたら、そこに温度差を感じたのは仕方のないところです。片足だけでも政治の世界に足を突っ込んでしまった東と、田畑がすれ違ったことは、現実の世界でもあったことと思います。対立してしまうんですね。でも結果的には田畑が言う通りになった。「その通りだったな」と思ったことでしょう。川島さんだけでなく、いろんな人たちが、いろんな思いでオリンピックに取り憑いてきます。いまでもそうでしょうし、いろんな思惑で人が集まってくる。

――苦しみを味わっている田畑を、東龍さんは、どんな思いで見ていたのでしょうか。

1人の人間に苦しみを背負わせて、追い詰めちゃった。それはドラマを演じながらも思いました。阿部くんというキャラクターとマーちゃんをつい同一視してしまうんですが、田畑が混乱させられている、それは謀略かもしれない。とは言えこれを処理しないと先に進めない。いろんな政治的な状況が、田畑政治の1つの背中に集まっている。一緒にいるのに、その場でどうする方法も考えてあげることができない。リアルな人間ドラマを感じつつ、演じていました。

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