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24時間走の国内記録ホルダー重見高好に聞くランニングとの向き合い方

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 マラソンといっても5km・10kmからハーフ、フルマラソン、さらにはウルトラマラソンまで種目はさまざま。では、『24時間走』という種目を聞いたことがあるでしょうか。これは24時間という決められた時間の中、どれだけの距離を走れるか競うというもの。多くは1〜2km程度の周回コースで行われ、時間内に走りきった周回数で順位が決まります。

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 今回お話を伺ったのは、そんな24時間走の国内記録ホルダーである重見高好さん。いったいなぜ24時間走に取り組み、どのような思いで走っているのか。そこには市民ランナーにとっても、ランニングとの向き合い方を考えるうえでのヒントがありました。

一時引退するも、走ることが諦められなかった

 もともと中学校から陸上競技を始め、選手として活躍してきた重見さん。大学卒業後は中央発條、そして大阪ガスの陸上部に所属し、実業団ランナーとして競技に取り組んできました。実業団で初めて走ったフルマラソンは、2時間18分という記録。この結果を受け、重見さんは自身の競技人生が厳しいものだと感じたそうです。

「フルマラソンなら、やはり2時間10分を切ることが1つのステータスになります。しかし私の記録は、これに届きませんでした。さらに身体を壊してしまい、走っていると吐き気を起こしてしまうことが。トレーニングは続けたものの、身体と心がついてきてくれなかったんです。マラソンでオリンピックに出ることが夢だったものの、残念ながら叶いませんでした」

 やがて大阪ガスに所属していた5年前、競技を退いて社業に専念するようになったとのこと。仕事そのものは充実していたものの、やはり走ることを諦められなかったと言います。

「結局、走ることが好きなんですよね。仕事は楽しい面も多かったのですが、やがて走りたいという気持ちが膨らんできました。特に大きなキッカケになったのが“ウルトラマラソン”との出会い。当時、1km4分ペースで100kmというのが目安だったんですが、それならいけるという自信があったんです」

 社業に専念してからは体重が増え、とても走れる体型ではなくなっていたとう重見さん。その変わり果てた姿を見て、涙したことすらあったそうです。しかし久しぶりに走ってみたところ、そこに待っていたのは大きな爽快感。ここから再び、重見さんはマラソン選手として新たな挑戦をスタートすることとなります。

チャレンジの背中を押してくれた妻の支え

 大阪ガスに勤務していた頃から、社業に専念しつつ、たびたび走るようになっていたという重見さん。やがて、少しずつ走ることのコツを取り戻してきたそうです。すると次第に、重見さんの中で走ることに対する気持ちが変化していきました。

「また走れるようになってくると、ワガママなもので、もっと走る時間が欲しくなってきたんですよ。ウルトラマラソンという競技を知り、サロマ湖100kmを走りたいと考えてからは、特にその傾向が顕著でしたね。フルマラソンでのオリンピック出場は叶いませんでしたが、ウルトラマラソンという競技ならまだ世界に挑戦できるかもしれない……完全に気持ちは走ることに向いていきました。とはいえ、仕事だっておろそかにすることはできません」

 もっと走りたい……。しかし、仕事があれば時間はどうしても限られてしまう。気持ちと現実との葛藤は、思った以上に重見さんを悩ませたようです。しかしそんな中、ある人がその背中を押してくれたと言います。

「『ウルトラマラソンなら自分は戦える、そういう自信と決意があるのなら、やってみればいい』そう言ってくれたのは、他でもない妻でした。確かに、何かに挑戦する際には、ある程度の見込みがあるからこそ言うものです。それを見抜いて、悩んでいた私に道を示してくれたんですね」

 そして「走りたい」という思いを胸に、大阪ガスを退職した重見さん。猛練習を重ねた末、初出場した2012年6月のサロマ湖100kmウルトラマラソンで3位入賞を果たします。ここから、ウルトラマラソンランナーとして重見さんの活躍が始まるのでした。

形を変えて達成できた“世界の舞台で走る”という夢

 サロマ湖100kmウルトラマラソンで3位という結果から、本来であれば世界大会への出場権を得られるはずでした。しかし残念ながら情勢難により見送り。世界への再チャレンジは、果たされぬ結果となったのです。

「大阪ガスを退職してからは、仕事に就かずトレーニングに専念していました。さすがに仕事に就かないと、これ以上は家族にも迷惑を掛けてしまいます。ここまでか……という状況で、またもや妻の言葉が私の背中を押してくれたんです。『もう1年やってみれば』この言葉を受け、翌年のサロマ湖に向けてトレーニングを始めました」

 さらに上を目指すために、何が足りないのか。その結論として浮かんだのは、ウルトラマラソンの経験値だったと言います。そこで、2012年9月に秋田100kmマラソンに出場。さらに翌年には伊豆大島のウルトラマラソンで58kmに出場し、迎えたサロマ湖では2位でのゴールを果たしました。しかしまたしても、情勢難により世界大会への出場はなし。ちょうど初の登坂レースとなる白山白川郷での100kmマラソンに出場を予定したとき、その次なる目標として浮上したのが24時間走だったそうです。

「24時間走について調べてみると、世界選手権があったんですよ。どうしても日の丸を付けて走りたいという思いがあったので、この競技への挑戦を決めました。そして2013年11月に明治神宮で開催された神宮外苑24時間チャレンジマラソンに出場し、優勝。269.225kmという記録で、今でも国内最高記録として残っています」

 24時間走という競技に出会い、国内最高記録での優勝。この結果を受けて、ついに重見さんは世界選手権へ出場することができました。走ることを諦めたくない……その思いが、形を変えて夢を実現させたと言えるでしょう。その後も世界大会をはじめ、スパルタスロンなどさまざまな海外レースに出場されています。

競技者として走るうえでの心構え

 夢を持ち続け、ついに達成した重見さん。その実績も、24時間走の国内最高記録という素晴らしいものです。しかし24時間走は、その名の通り24時間を黙々と走り続けるという競技。いったい何を考えながら走っているのか伺うと、重見さんからは非常におもしろい回答が返ってきました。

「確かに黙々と走りますが、周回が短いので、常に誰かしらランナーがいます。ですから、それほどつまらないということはありません。むしろ、ロードレースより人と関わる機会は多いかもしれませんね。そして私の場合、すでに日常生活の中にマラソンが入り込んでいるんですよ。そのため24時間走への出場は、例えるなら24時間勤務の仕事をしているのと同じ感覚になっています。つまり、“走る”という仕事を24時間かけて行っているわけです。そう考えると、たとえ苦しくても、それが当たり前に思えてきます」

 これまで数多くのランナーに取材してきましたが、このお話は斬新かつ納得感のあるものでした。走りたいという思いを胸に、ただそれだけを追求してきたからこその考えかもしれません。

「特に初めてのレース、そして2回目のレースって重要だと思います。神宮外苑24時間チャレンジマラソンも、初めての24時間走だからこそ攻めた走りができました。これが回数を重ねるごとに、余計なことを考えちゃうんですよね。初めてだからこそ臆さず挑戦することも、結果を出せた要因だと思います」

 重見さんは現在、長野県にある売木村(うるぎむら)に勤務し、走ることが仕事の一部となっています。そのため24時間走に限らず、走ることは重見さんにとって特別な意味を持つのでしょう。次回は重見さんが取り組まれている、売木村における『走る村うるぎプロジェクト』についてご紹介します。この取り組みは、走ることを通じた不思議な縁が発端となっているようです。

《次回はこちら!》
・ランニングで村を活性化!重見高好が取り組む「走る村うるぎプロジェクト」

[プロフィール]
重見高好(しげみ・たかよし)
1982年生まれ、愛知県出身。中央発條、大阪ガスの陸上部にて実業団ランナーとして活躍。大阪ガスを退職後はウルトラマラソンに挑戦し、初出場したサロマ湖100kmウルトラマラソンで3位入賞(6時間43分55秒)。2013年に神宮外苑24時間チャレンジマラソンで初となる24時間走に挑戦し、269.225kmの国内最高記録で優勝を果たす。現在は長野県にある売木村にて、地域おこし協力隊として勤務。『走る村うるぎプロジェクト』を中心となって推進している
【HP】http://shigemi.me/

[筆者プロフィール]
三河 賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>

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