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サーフィンは窮屈な世の中の価値観から解放されて自由な動物になる│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#54

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 鎌倉在住の甘糟さん。海が近くにあるものの、たまにしかやらないというサーフィンですが、でも、たまにやると気持ちいい。自然をたっぷり感じられる、そんなサーフィンのスポーツとして魅力とは。

ゴールもネットもラインもない、海という自然に放り込まれるわけです

 先日、久しぶりに波乗りをしました。

 必死で漕いでなんとか波に乗ったら、一か八かで板の上に立ち、板の上ではヨタヨタとへっぴり腰です。「あれはサーフィンじゃなくて海水浴」といわれちゃうレベルの私の波乗りですが、それでもじゅうぶん気持ちがいい。あれこれ悩んだり迷ったりすることの多い日々ですが、とっても気分転換ができました。

 波に乗って滑っていく数秒間は、何か別の生き物になった気がします。いや、きっと気がするんじゃなくて、別の生き物になっているんじゃないかしら。窮屈な世の中の価値観から解放されて、自由な動物になるのです。なーんて、ポエムっぽいことを感じてしまうスポーツですよね、サーフィンは。

 海の中には、当たり前ですが、リフトもなければナイター設備もないし、ゴールもネットも区画もラインもありません。海という自然に放り込まれるわけです。頼りになるのはボードだけ。なんですが、私のような下手っぴは乗り損なった波に巻かれて自分のボードにぶん殴られたりすることもあります。頭から星が出たかと思いました。運良く怪我もせずにすみましたが、ちょっと間違ったら、気絶するかもしれないし、顔を切ったりするかもしれません。自然と近いスポーツだからこそ、危険は高いわけです。

 それもあって、別格の気持ち良さは魅力だけれど、つい海に入るタイミングを逃しがちでした。ですが、ここ最近、ソフトボードと呼ばれる種類のボードを借りています。その名の通り、柔らかい素材でできていて、通常のものより軽く、「海水浴」な私でも波を捕まえやすいのです。サーフィンのようなスポーツこそ、兎にも角にも安全優先だと思っております。ですから、柔らかくて軽いのは本当にありがたい。

 以前は、ビーチに降り立って予想よりも人が多いとそれだけで気が重くなっていましたが、柔らかくて軽いボードで入っていると思うだけでも違います。気が楽ですし、その分のびのび楽しめます。

 しかし、この間は体力の衰えを痛感しました。正直なところ、沖合に出るためのパドリングだけで心拍数が上がってしまい、肝心の私でも捕まえられる波が来てもゼーゼーハーハーしていてみすみす見送ることもしばしばでした。あれやこれやとスポーツは何でもやってみたがる私ですが、サーフィンは一番むずかしい。一向に上達している気がしません。ここんとこ年一になっているから、むしろ後退しているかも……。

 この日は秋の初めで、まだ暖かい日でした。ウエットスーツは3ミリのフルしか持っていないので、それに怪我防止のためのブーツと手袋をして入ったのですが、友人には「ちょっと大げさなんじゃないの?」という顔をされました。何しろ、水着で入っていた人もいたぐらい。季節が二つぐらいずれておりましたね。でも、海から上がる頃には気温も下がってきていて、フルスーツで正解でした。

 実はこのウェットスーツ、作ったのは十数年前。たまにしか入らないので、まだまだきれいです。よくも悪くも。しかもマラソンを走った年に作ったので、体型も体重も今とはずいぶん違います。着用の度に無理やり身体を押し込んでおります(汗)。それもうちからこんなに近い海に入る機会を先延ばしにしてしまう理由だったりするので、新しく作ろうかなあと思いつつ、だらけた体型に合わせていくのはまずいのでキツめのウェットスーツでがんばっております(笑)。

 冬になるまでにもう一、二度「サーフィンという名の海水浴」をしたいなあ。身体を冷やしたら取り返しがつかない年齢のため、真冬は入らないので。空気が澄んでいる冬の海ってきれいなんですけどねえ。

 そう、私は海に触れたくてちっとも上達しないスポーツを、ときどき思い出したようにしているわけです。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)

《新刊のお知らせ》

幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける甘糟りり子さんが、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)が発売中。

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<Text:甘糟りり子/Illustration:Getty Images>

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