インタビュー
2017年8月25日

自宅でできる「北島康介式トレーニング」で実践しよう!トレーナー小泉圭介インタビュー(後編) (1/2)

 水泳で世界の頂点を極めた男・北島康介氏。シドニー・アテネ・北京・ロンドンオリンピックと4大会に挑み、アテネで2つの金メダル、北京で日本人唯一の2種目2連覇を達成した。その偉業は、なぜ成し得たのだろうか。その背景には、現役を引退する2016年まで北島選手の競技人生を支えてきたトレーナーたちの存在があった。

 トレーニングの全容が本人監修の書籍『北島康介トレーニング・クロニクル』(ベースボール・マガジン社)として明らかに。後編では、著者である小泉圭介さんが考えるトレーニングの意味と、北島康介氏に実践した効果的なトレーニングを自宅で行うためのポイントを伺った。

▼前編はこちら

北島康介の五輪2冠2連覇を支えたトレーニングとは。トレーナー小泉圭介インタビュー(前編) | トレーニング×スポーツ『MELOS』

「使えていない筋肉」に気づくことが大切

 北島氏に無理もケガもさせず、さらなるパワーアップへとつなげた小泉さんのトレーニング方法。北島氏との間で、どのように構築されていったのだろうか。

「僕は身体のパーツごとに見ていき、余計に働いている部分をみつけます。その後は、なるべく余計な部分は使わないようにして細かい筋肉の収縮感を出していくのを地味に続けるタイプです(笑)。そもそもですが、多くの人が『筋肉のどこが使えていないのか』ということにすら気づいていません。選手の場合は、自分で気づくようにすることが必要になります。使えない筋肉があること、その筋肉が使えるようになった先には、何も考えなくても勝手に使える、無意識に使えるというプロセスがあります」

 この考え方やトレーニング方法は、プロだけでなく一般の人が行なうトレーニングにも通用するという。スポーツをしなくても筋力があれば、不意のケガなどもなくなり、いろいろな意味で身体を守ることができるという。

「ぐらりと外力がかかったときに、瞬間的に反応しポンと力が入るような反応が早ければ、ぎっくり腰にならないとか。身体を守るという意味では、靭帯損傷のアスレチックリハビリテーションと同じことになります。トレーニング目的にするのか、リハビリ目的にするのか、目的は違うけどやることは同じです」

 さらに水泳のトレーニング方法は、「ぎっくり腰」だけでなく、普段の生活で起きる「四十肩」などにも効くという。

「水泳の選手向けの指導にオーバーヘッド(腕を頭より上にあげる)があります。普段の生活や年齢が進むと頭より上に腕を上げることって減ってきますよね。通勤電車で吊革にぶら下がるくらいかな(笑)。これ、そもそも動かしていないから上がらなくなって当然。四十肩、五十肩って、いかに腕を上げていないかという話です」

 腕を上げるには、小学校の校庭にある「うんてい」や「ぶら下がり健康器具」なども効果的だという。懸垂もいいということだろうか。

「ぶら下がるという行為は、上半身のいろいろな機能を上手に使えるようにしてくれます。時々、高齢者ケアハウスで健康体操教室をお手伝いしますが、最初は胸郭を伸ばすとか、水泳やテニス、バドミントンの選手と同じ指導をします。このとき、多くの人は肩でしか腕を動かさないんですよ。そういう場合は、今まで狭い範囲でしか動かしていなかった腕を根元から動かすようにするわけです。息は吸いやすくなるし、肩も軽くなりますし、動きの範囲が広がることで楽に動かせるようになるんですね。姿勢がよくなる人もいます」

 意識して動かしていなかった筋肉を動かすだけで、きちんと効果を得られ、さらには身体の不具合を軽減できるケースがあるという。

簡単に分かる「セルフ身体チェック」の方法

 さて、意識することから始めることはわかっても、やはり自分で気がつくことは難しい。チェック方法はあるのだろうか?

「僕らトレーナーは、姿勢を見たり、関節の向きを指摘したり、これは良い悪いという話をしますが、そこまで自分ではわかりません(笑)。誰にでも分かるのは『筋肉が硬いか柔らかいか』です。自分でここ硬いなってわかりますよね。たとえば、お尻に力を入れ触って硬ければOKです。硬くなっていなければ筋肉は使えていないということです」

 使えていない筋肉のチェックは、身体のいろいろな部分をストレッチすればわかるという。

「胸郭を伸ばしたとき、肋骨のあたりに伸びている実感がある、もしくは多少ちぎれそうな感じがあるかもしれません。この場所に、この感覚がないとやり方が違うか、別の部位に問題があります。パーソナルトレーニングでも最初に正しい位置を教えて、伸びていることを実感してもらいます。ここ痛いでしょって聞くと『痛いです』と言うわけです」

 ストレッチをしたときに痛みを感じることは、必ずしも悪いことではないらしい。筋肉を使っていることを実感するには、きちんと動かすことが大切だという。

「正しい位置を宿題にして2週間後に会うと、『慣れて痛くなくなりました』という人がいますが、実演してもらうとやり方が違う(笑)。正しいやり方に直すと『やっぱり痛いです』ってなるわけです。それが人の本質です(笑)。どうしても習慣になっている姿勢、動作になりやすい。そのほうが楽ですからね」

 言われてみると、日常生活だけを考えても姿勢を正すとか、足を組まないとか考えていても、つい楽な姿勢をしていることは多い。

「やはり確かに苦手なところは動かしにくいですよね。でも苦手なところを使ったほうが、トータルで絶対楽に動けるはずです。誰にでもウィークポイントがあるので、きちんと意識しつつ克服していくのが大切です」

自宅でできる『北島康介トレーニング・クロニクル』

 最後に本書の中から自宅でもできるトレーニングとポイント、注意点を聞いた。先の「痛みを感じる」を具体的にどこまでやっていいのかなど、しっかり読んで実践してみてほしい。

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