フィットネス
2025年5月23日

「成長期に筋トレすると背が伸びなくなる」って本当?子どもの身長と筋トレの関係性

以前「子どもを運動嫌いにさせない。体を動かすのが楽しくなる、手軽なエクササイズ4選」にて、幼稚園から小学生低学年くらいまでの年齢の子どもたちを対象に、将来運動嫌いにならないように親子で楽しめるエクササイズを紹介しました。

今回はそれより少し上の年齢、小学校高学年から中学生くらいまでを対象とした筋トレの重要性と、「子どもの頃に筋トレすると背が伸びなくなる」という都市伝説についても説明していきます。

小学校高学年~中学生あたりは運動能力を伸ばす時期

成長期と重なるこの年代は、さまざまな動作を習得するのに最適な時期です。中には、特定のスポーツを専門的に行う子も出てくるでしょう。

この時期に体の使い方を学べる運動を行うことは、将来の運動能力を発達させるうえで大きなメリットがあります。

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筆者がコーチを務めているクロスフィット・ジムでは、10~13歳程度の子どもたちを「プレ・ティーン」と呼び、1つの独立したクラスにしています。

「程度」としているのは、この年代の子どもは成長に個人差があり、必ずしも年齢で区切ることがふさわしくないケースがあるためです。

「筋トレすると背が伸びなくなる」という説は本当?

「背が伸びなくなるから、ウチの子には筋トレをさせないで」

これは、子どもを入会させるために連れてきた保護者から、筆者が実際に言われたことがある言葉です。

クロスフィットでは、バーベルやダンベルなどを使った筋トレのほかに、走ったり跳んだり、鉄棒やリングなどを使った体操競技のようなエクササイズも行っています。そのため、筋トレ以外のことだけをやらせてほしいということでした。

この人に限らず、子どもが筋トレをすると背が伸びなくなるという説を信じる人は日本では多いでしょう。実際、アメリカでもけっして珍しくはありません。

筋トレは必ずしもウェイトを使うとは限らない

結論から述べますと、筋トレを正しい方法で行えば子どもの成長を阻害することはなく、むしろ逆に成長を促す効果があります。

さらに運動能力を高めて、怪我をしにくい丈夫な体作りに役立つでしょう。

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ただし重量には注意!

確かに、やみくもに重い重量を担がせるような筋トレは成長軟骨に強い負担がかかり、成長を阻害する可能性があります。

とくに、スクワットのような上下方向の動作には注意が必要です。そのため、私たちのジムの子どもクラスでは、筋トレは自重のみかごく軽い重量で行っています。

余談になりますが、私の身長は160cmで日本人としても小柄。アメリカ社会ではさらにその背の低さが際立ちます。

コーチである私を見て、「ウチの子も背が伸びなかったらどうしよう」という不安を持ってしまう親御さんもいるかもしれません。ですので、よく次のように伝え、笑いをとると同時に安心してもらっています。

「私が筋トレを始めたのは30歳を過ぎてからです。子どもの頃にやっていたのは野球とサッカーです。筋トレをやったから背が低いのではありません」

筋肉を強める前に、筋肉をどう使うか学ぶのが目的

子どもでも筋トレを続けていくと、どんどん力が強くなっていきます。以前は動かせなかったものも、次第に動かせるようになっていくでしょう。

しかし、それは筋肉が以前より大きくなったわけではありません。実際の見た目もごつくなるわけではなく、体つきも子ども体型のまま。さほど変化がないことが普通です。

ケトルベル・スイングは効率的な力の伝え方を覚えるのに最適

子どものパワーが増す理由は、筋肥大ではなく神経学的要因が主です。筋肉が強くなるのではなく筋肉の上手な使い方を体が学習して、結果として大きなパワーが発揮できるようになります。

自転車の乗り方を覚えると、大人になっても忘れないでしょう。これと同様に、子どもの頃に身に付けた効率的な体の動かし方は、将来の運動パフォーマンス向上に繋がります。

それだけではなく、怪我の防止にも役立つでしょう。子どもが筋トレを行うことのもっとも大きな意義は、そこにあります。

子どもの筋トレはケガや故障も予防する

ある特定のスポーツを専門的に始めた子どもにも、筋トレは大いにメリットがあります。

ひとつのスポーツに熱心に取り組めば、どうしても特定の動きを特定の身体の部分を使って繰り返し行うことになるでしょう。

野球のピッチャーを例に挙げますと、片腕だけでボールを投げる動作を繰り返します。ピッチングに限らず、どんなスポーツでも技術の上達には反復練習は欠かせません。しかし度が過ぎてしまうと、特定の筋肉や関節に疲労がたまり、ひいては怪我のリスクを増やしてしまいます。

肘を故障する投手は後を絶ちませんが、実は投球からくる肩の痛みや野球肘と呼ばれる症状は、大人よりむしろ子どもに多く発生しているのです。

その点、筋トレの多くは左右対称の動きとなります。普段行っているスポーツに欠けている部分を補い、身体能力の向上とスポーツ障害の予防を同時に期待できるのです。

子どものすばらしい柔軟性も運動の習慣がないと失われていく

逆にスポーツにあまり関心がなく、運動不足になってしまっている子どもも少なくありません。

肥満など健康面での問題が出るほどではなくても、そのような子どもたちは驚くほど体が固くなります。子どもは体が柔らかいと思われがちですが、早ければ幼稚園頃から、前屈して手が足先に届かなくなる子もいるのです。

正しい方法で行う筋トレは、柔軟性の向上にも大いに役立ちます。

子ども一人ひとりに合わせて筋トレメニューを決める必要がある

子どもの成長には個人差が大きいので、単純に同じ年齢であれば同じトレーニングをすればよいというものではありません。筋トレの内容も、それに応じて最適なものに変えていくことが重要です。

そのため、「子どもに筋トレをさせたい」と思ったときは、できれば少人数のグループで行っているジムをおすすめします。友達作りなどの社会的な要素を除けば、個人レッスンがもっとも望ましい形です。

どちらにしても、専門知識がある指導者がいるジムや習い事を選びましょう。

この場合の専門知識とは、筋トレの知識だけを指すのではありません。そこに子どもへの指導に関する知識を含むことは、言うまでもないでしょう。

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筆者プロフィール

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
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<Text:角谷剛/Photo:角谷剛>