筋トレ、「毎日5分だけ」でも続けるとメンタルは変わるの?
ヘルス&メンタル
2025年12月19日

筋トレ、「毎日5分だけ」でも続けるとメンタルは変わるの?

「筋トレはメンタルに良い」という話を聞いたことはありませんか? 仕事のストレス、人間関係の悩み、漠然とした不安など、心の不調を抱えているとき、「運動はおすすめ」とアドバイスされることは多いものです。

でも、忙しい毎日の中で、ジムに通う時間も、長時間トレーニングする余裕もない。せめて5分くらいなら……。

はたして、毎日5分だけでもメンタルヘルス効果はあるのでしょうか? なか整形外科京都西院リハビリテーションクリニック・樋口 直彦先生監修のもとお届けします。

先に結論から! 筋トレ「毎日5分だけ」でも心に変化はあるのか

結論から言えば、YES。毎日5分の筋トレでも、継続すればメンタルヘルスにポジティブな変化をもたらす可能性があります。

まず、運動そのものがメンタルにいい。

たとえ5分でも体を動かすことで、脳内ではセロトニンやドーパミンといった物質が分泌され、気分がすっきりと前向きになります。

ジョギング

さらに、「毎日続けられた」という小さな成功体験が、自己効力感(=自分はできるという感覚)を育ててくれます。

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また、毎日同じ時間に筋トレを取り入れることで生活にリズムが生まれ、心の安定にもつながります。わずかな筋力アップや姿勢の改善によって、自分自身への印象がポジティブに変わるのも、大きなメリットです。

なぜ筋トレはメンタルに効くのか? 科学的に見た7つの理由

では、筋トレがメンタルヘルスに良い影響をもたらす理由を、7つの側面からわかりやすく解説します。

1. 脳内物質が分泌されて気分が上向く

筋トレをすると、脳内ではさまざまな神経伝達物質が分泌され、気分や意欲に良い変化をもたらします。

■エンドルフィン
運動すると、脳内で「幸福ホルモン」とも呼ばれるエンドルフィンが分泌され、自然な鎮痛作用と多幸感をもたらします。筋トレでも同様の効果があります。

■セロトニン
気分の安定や幸福感に関わる神経伝達物質です。筋トレによって、セロトニンの分泌と利用効率が向上することが分かっています。うつ病の薬の多くは、このセロトニンを調整するものです。

■ドーパミン
やる気や達成感、報酬に関わる物質です。筋トレをすることで、ドーパミンが分泌され、「やった!」という達成感や意欲が高まります。

■ノルアドレナリン
集中力や覚醒に関わる物質です。適度に分泌されることで、ストレスへの対応力が高まります。

2. ストレスホルモン「コルチゾール」の調整

ストレスを感じると分泌されるホルモン「コルチゾール」は、筋トレ中に一時的に上昇します。しかし、継続的に運動をしている人ほど、日常的なストレスへの反応が穏やかになることがわかっています。

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3. 脳の神経を育てる「BDNF」の分泌

運動は、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質の分泌を促します。BDNFは、脳の神経細胞の成長と保護に関わり、特に記憶や学習に重要な「海馬」の健康を維持します。

うつ病患者では海馬の容積が減少していることが知られており、運動による神経新生の促進は、うつ症状の改善につながる可能性があります。

4. 自信と自尊心が育つ

「今日も筋トレができた」「前よりできるようになった」という小さな成功体験の積み重ねが、自己効力感(自分はできるという感覚)を高めます。

また、身体が変化し、姿勢が良くなり、体力がつくことで、自己イメージが改善され、自尊心が向上します。

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5. 睡眠の質が向上する

適度な運動は、睡眠の質を改善します。深い睡眠が増え、寝つきが良くなることで、メンタルヘルスにもポジティブな影響があります。

6. マインドフルネス効果

筋トレ中は、身体の動きや筋肉の緊張に意識を向けます。これは一種のマインドフルネス(今ここに集中すること)であり、頭の中のネガティブな思考から一時的に離れることができます。

7. 人とのつながりができる

ジムやグループトレーニングを通じて人と交流することは、孤独感の軽減共通の目標を持つ仲間との絆づくりにもなります。

一人でのトレーニングでも、SNSやオンラインコミュニティを活用すれば、共感や励ましを得られる環境をつくることができます。

どんな筋トレがもっともおすすめなの?

まず「楽しく続けられること」が最優先です。その上で、以下の種目を選んでみましょう。

スクワット

脚の大きな筋肉を使うため、脳内物質の分泌が促されやすく、メンタルヘルス効果が高いとされています。

プッシュアップ(腕立て伏せ)

上半身の筋肉を使うプッシュアップは、「やりきった感」が強く出やすい種目です。胸・腕・体幹と広く使うので、短時間でも“やった感”を得やすく、自己効力感が高まりやすいのがポイント。

プランク

体幹を鍛え、姿勢が改善されることで、自信がつきます。

気力がない日は、ゆるい体幹トレーニングを。“少しでも動けた”という達成感が得られるため、うつ気味な日にもおすすめです。

ジャンプスクワットやバーピー

少しテンションを上げたいときは、軽い有酸素を含む筋トレがおすすめ。ジャンプ動作が入ると、ドーパミンやエンドルフィンの分泌が活性化されやすくなります。

有酸素運動と筋トレ、どっちがメンタルにいい?

両方ともメンタルにいいですが、それぞれ特徴があります。

有酸素運動はすぐに気分転換したい、考え事から離れたい、外に出て気分を変えたい人に向いています。一方筋トレは、達成感を重視したい、身体を変えたい、短時間で効果を得たい人に向いています。

複数の研究によると、有酸素運動も筋トレも、どちらもうつ症状や不安症状の軽減に効果があることが示されています。時間に余裕があれば、有酸素運動と筋トレを組み合わせるのがもっとも効果的です。

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変化を実感してくるのはいつくらい?

筋トレを始めたとき、多くの人が気になるのが「いつから効果を感じられるのか」ということ。とくにメンタル面の変化は、体の変化よりも見えにくいため、不安になったり、早く結果を求めてしまいがちです。

筋トレの効果は短期・中期・長期と段階的に現れます。

すぐに変化が出てくるパターン

たとえば、筋トレを始めてすぐ気分が少し明るくなったと感じる人もいます。

これは、運動によってエンドルフィンやドーパミンといった脳内物質が分泌されるため。いわゆる「やった感」や「すっきり感」が生まれやすくなるのです。

また、早ければ数日で「寝つきが良くなった」「深く眠れるようになった」と睡眠の質の変化を感じることもあります。

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2週間〜1ヶ月くらいで多くの人が変化を実感

2週間から1ヶ月ほど続けると、日常的な気分の波が穏やかになったり、イライラや落ち込みが減ってきたと感じる人が増えてきます。

「毎日ちゃんと続けられている」という事実が、自信や自己効力感にもつながります。わずかながら筋力がついたり、姿勢が良くなったりすることで、自分への印象もポジティブに変わり始めます。

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1か月以上続けると「自分に自信が出てくる」

さらに1か月以上続けていくと、筋トレが習慣になり、やらないと落ち着かないと感じる人も出てきます。

8〜12週間継続することで、うつや不安の症状が明らかに軽くなったという研究報告もあり、身体と心の両方にじっくりと効いてくるのがこの頃です。

鏡に映る自分に少し自信が持てたり、「自分は変われるかもしれない」と思えるようになる人もいるでしょう。

ただし、こうした変化の現れ方には大きな個人差があります。もともとのメンタル状態や運動経験、睡眠や食事といった生活習慣、さらには体質や遺伝的な要因によっても、感じ方は人それぞれです。

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変わらない、変化しない……そんな人に試してほしいこと

毎日筋トレをしているのに、メンタルに特に変化を感じない。そんな場合は、以下の点を見直してみてください。

1. 運動の強度を見直す

5分の筋トレでも、「少し息が上がる」「筋肉が疲れる」程度の強度が必要です。軽すぎると、脳内物質の分泌が十分に促されません。

2. 時間を少し延ばす

週に150分程度(1日約20分)の運動で、メンタルへの効果がもっとも顕著になるとされています。

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3. 有酸素運動を組み合わせる

筋トレだけでは変化を感じにくい場合、有酸素運動を追加することで、効果が現れることがあります。筋トレ5分+ウォーキング10分といった組み合わせを試してみてください。

4. 運動の種類を変える

同じ筋トレばかりだと、脳が慣れてしまい、新鮮さが失われます。メニューに変化をつけることで、脳への刺激が増え、効果が高まる可能性があります。

5. 運動のタイミングを変える

朝に運動すると、一日のエネルギーレベルが上がりやすい人もいれば、夕方の方が効果を感じやすい人もいます。今とは違う時間帯に試してみましょう。

6. 睡眠と栄養を見直す

運動だけでは、メンタルヘルスは改善しません。基本的な生活習慣が整っていることが前提です。

7. ストレスの根本原因に対処する

筋トレは、ストレスの「症状」を和らげることはできますが、「原因」を解決するわけではありません。ストレス源がある場合は、それに対処する必要があります。

8. 期待値を調整する

「筋トレで人生が変わる」という過度な期待は、失望につながります。筋トレは、メンタルヘルスをサポートする一つのツールであり、魔法の解決策ではありません。

小さな変化、例えば「今日は少し前向きな気分になった」「昨夜はよく眠れた」といったことに目を向けましょう。

9. 専門家の助けを借りる

2〜3ヶ月続けても全く変化がない、あるいはメンタルの不調が深刻な場合は、心療内科や精神科を受診することをおすすめします。

10. 楽しみを見つける

「義務」として続けていると、ストレスになり、逆効果です。音楽をかける、友人と一緒にやる、達成したらご褒美を設定するなど、楽しみながら続ける工夫をしましょう。

監修者プロフィール

なか整形外科京都西院リハビリテーションクリニック
樋口 直彦 先生

なか整形外科樋口 直彦帝京大学医学部卒業後、いくつかの病院で勤務し、院長を経験後、2021年1月に医療法人藍整会 なか整形外科の理事長に就任。バレーボールVリーグ「サントリーサンバーズ」のチームドクターも務める。骨折治療をはじめ関節外科、スポーツ整形外科を専門に治療。

<Text:外薗拓 Edit:編集部>