森林浴のリラックス効果と活用術を、森林総合研究所・農学博士に聞きました
「自然はリラックス効果がある」「森林浴はストレス・メンタルヘルス対策としておすすめ」というのは、誰もが何となくは理解しているもの。
しかし、その効果はと聞かれると、答えられない人も多いのではないでしょうか? 中には、内心で効果を疑っている人もいるかもしれません。
しかし、国立研究開発法人森林総合研究所農学博士の香川隆英さんによると、実は日本は世界でもっとも森林浴についての研究が進んでいる国で、エビデンスによってその効果が証明されているのだそうです(初出:2017年6月)。
森林浴はストレス低下や免疫力向上に効果あり
森林総合研究所では、2004年より、全国62か所で森林浴効果の実証実験を行ってきました。
その中で森林浴効果は大きく4つあることが、科学的に検証されてきたといいます。その効果が次のものです。
おもな森林浴効果
- 脳の前頭葉の活動が沈静化
- 交感神経活動の抑制と、副交感神経活動の昂進
- ストレスホルモン「コルチゾール」の濃度低下
- ナチュラルキラー細胞の活性
このうち、脳と自律神経(交感/副交感神経)の変化は、体がリラックスした状態にあることを示しています。
コルチゾールはストレスを感じると分泌量が増すので、濃度が低下したということは、それだけストレスを感じなくなったということ。
ナチュラルキラー細胞には体の免疫力を高める効果があり、活性化することでガンの予防ができるといいます。
「森林浴は人の五感に良好な刺激を与えます。美しい風景を見ること、フィトンチッドなど樹木が発散する香り、苔むした土のフカフカとした触感などを体感することで、森林浴効果を得ることができるわけです」(香川さん)
森林浴は週に1度、小さな公園ではなく森で行う
最近では心身への効果が認められた森林浴を“森林セラピー”と呼び、それを得るための活動が全国で行われています。
その活用技術の開発や、全国各地の森を森林浴効果の得られる“森林セラピー基地”として認定するための調査も、香川博士の活動の一つです。
森林セラピーのプログラムでは、森の中を歩くだけでなく、時には座ったり、寝たりすることもあるといいます。これによってより高い森林浴効果を得られるとのことです。
頻度は?
なお、頻度としては、週に1度ほど森林浴を行うのがオススメ。
以前に行った調査によると、ナチュラルキラー細胞の活性状態が、森林浴を行った1週間後にも持続していた実験結果があるといいます。
時間帯としては午前中や夕方前など、適度に日差しがあって、あまり暑さや寒さを感じない頃がいいようです。
場所は?
森林浴を行う場所としては、近くの公園などでもよいのでしょうか? 香川氏によると、芝生広場だけの狭い公園は、騒音や排気ガスといったストレス源が近いため、あまり好ましくないといいます。
理想は小一時間程度散策できる広さの森や公園であること。
公園ということでは、過去に埼玉県の「国営武蔵丘陵森林公園」で実験を行いましたが、ここは武蔵野の雑木林が広がる森林公園だったため、森林浴効果を得ることができたそうです。
「木漏れ日が差し込むような森で、あまり鬱蒼(うっそう)としていないこと。手入れをしてない里山のように足元を藪が覆っているような、暗い森も良くありませんね。人の不安感をあおってしまいますので、精神的に安心できる環境であることが重要です」(香川さん)
スポーツと森林浴効果は相乗する
森林セラピーではプログラムに有酸素運動を取り入れることもあるといいます。
スポーツ中でもそのリラックス効果は有効で、森林セラピー基地に設置された“セラピーロード”で、ウォーキングを楽しむ人も多いとか。
とはいえ、あまり激しい運動ではなく、五感で森を感じられるようなものが、森の中でのスポーツとしてはマッチしているようです。ヨガはその代表的なものといえます。
▲奥多摩町セラピーロードでの森林セラピーヨガの様子
「東京にスタジオを持つ方が、森林セラピーの資格を取得されることがあります。スタジオにいるときよりも、気持ちよくヨガが行えているようです」(香川さん)
ストレス解消や免疫力アップなどに効果のある森林浴。森の中で座っているだけでもよいとのことなので、健康を保つためにも習慣づけてみてはどうでしょう?
監修者プロフィール
香川隆英(かがわ・たかひで)
森林総合研究所 森林管理研究領域 農学博士。京都大学農学部修了後、農林水産省に入省。現在は森林総合研究所で森林セラピー、フォレストスケープ・プラニング(森林景観計画)、森林アメニティ論を専門に研究を行う
<Text:丸田鉄平(H14)>