松坂桃李インタビュー「ひとつのことをなし遂げるため、まわりの顔色を伺うことなく、やろうと押し出していく人は強いし、いろんな人を惹きつける」(いだてん) (1/3)
日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。
東京オリンピックの開催実現に向けて邁進する田畑政治(演:阿部サダヲ)の片腕となり、その活動を支え続けた男がいました。日本オリンピック委員会常任委員となった、岩田幸彰です。田畑に懇願されて秘書となった彼は、田畑と二人三脚で困難な課題に立ち向かっていきます。頭脳明晰かつオシャレな色男で、愛称は“岩ちん”。そんな岩田を、松坂桃李さんが演じています。
都内では、松坂さんを囲んだ合同インタビューが実施され、撮影の思い出、阿部さんとの共演エピソード、岩田幸彰について、オリンピックへの期待感、第4クール全体の見どころなどが語られました。
自分へのダメ出しだけで終わらず、視聴者として楽しめました
――イチバン印象に残ったシーンは。
そうですね。昨日、ちょうど僕の撮影がクランクアップして、「いだてん」の全撮影が終了しました。これまでを振り返ってみると、まず撮影に入ったのが昨年(2018年)9月頃のことでした。上野かどこかでロケをしたんですが、(1964年のオリンピック開催地が東京に決まったことを喜び)『東京』の文字を高く掲げるシーンだった。それが印象的で。阿部さんや、松重さん(東京都知事・東龍太郎 役)と一緒に『これは、どういうテンションで演じたら良いんだろうね』なんて話し合いましたね。どんな気持ちの整理で臨めば良いのか、この後、どんなつながりになるのか。みんなでブツブツ話しながらやっていたのを、今でも覚えています。そのときは『とにかく、全員が熱量を大爆発させてやろう』なんて方向性が決まったのを覚えています。
それから何度か撮影に呼ばれて。でも、そこからウンともスンとも音沙汰がなくなったんです(笑)。『あぁ、このままフェードアウトだな』と思ったくらい(笑)。中村勘九郎さんのブロックが始まり、盛り上がりを見せてきていたので『あぁ我々の出番はもうないのかなぁ』と思っていました(笑)。でもまだ、田畑ブロックが残っている以上は、気持ちの持続と言いますか、それが必要で。年をまたぐので、気持ちをどう持っていったら良いのかと考えていて。これは初めての経験でした。
――再び撮影に入ったとき、どんなお気持ちでしたか。
最初の撮影が昨年(2018年)で、今年また撮影現場に戻ったとき、”再び”という感じがしなかったんですよね。『改めてクランクインしました』という気持ちでした。期間も空いて、その間にいろんな仕事もしたので。実際に再び撮影に入るまでは『完全に役が抜けてしまっているな』と感じていました。『パーフェクトワールド』(テレビドラマ、2019年)という作品で松重さんと一緒だったんですが、松重さんは『もう役を忘れちゃったよねぇ。覚えてないよねぇ。でも次、僕は行ってくるんだよ』なんて話をされていて。『僕も、後を追います』みたいな感じで。
撮影を再開したのは、都知事室のシーンでした。昨年と同じセットで『あぁ、こんな感じでしたね』なんて、ちょっとずつ思い出していきながら。その後、段々と田畑さんを中心にして、そのブロックのお芝居が定着していく感じはありましたね。
――松重さんは『撮影のスパンが長いのでイチ視聴者の感覚になった』と話していました。
僕も、その感覚でしたね。これだけ期間が空くと、こういうことになるんだな、と。そこは新発見でした。僕も、お客さん目線で見られて。自分へのダメ出しだけで終わらず、視聴者として楽しめました。ドラマを楽しみつつ、このまま呼ばれるんだろうな、と思っていました。
阿部さんは、場の空気を一瞬で変えられる人
――実在の人物を演じる難しさはありましたか。
「いだてん」は、表立って有名になった方たちというよりは、裏側で頑張った方たちが主人公でした。だから、詳しい資料が残っていなかったりするんです。大河ドラマで言えば、僕は『軍師官兵衛』(NHK大河ドラマ第53作、2014年)で黒田長政を演じさせていただきましたが、そういう残り方ではないんです。だから明確な資料を参考に演じるというよりは、宮藤さんの台本に忠実に演じていくイメージの方が強かったですね。
――岩田もオリンピックを目指していたと聞きます。
そうなんです。田畑に魅力があっただけではなかった。岩田自身も、オリンピックに並々ならぬ思いがあったんです。それを知れたので、より演技を加速しやすかった。オリンピックに選手として出られなかったから、裏方として参加したい、という想いで乗っかれる。気持ちを乗せやすかったですね。期間が空きすぎて心配しましたけど(笑)。
――改めて岩田は、どんな人間だったと感じていますか。
すごく情熱的で熱量があった。体育会系なんですよね。ヨットでオリンピックを目指していて、戦争も経験した。それでもオリンピックに関わりたかった。そこに強い想いがあった。それを改めて感じました。
岩田を通して田畑さんと対峙することで、改めて岩田と向き合うことが多い時間でした。嵐の渦に巻き込まれる中心人物の1人。あの方(田畑)の動きで岩田の反応も変わったので、阿部さんの動きを見ながら、対応できるところを対応しました。
目の前で、阿部さんのお芝居を拝見させていただいて思ったのは、場の空気を一瞬で変えられる方だなということ。僕個人としても、役者を続けていく上で、そんな雰囲気を身につけたいなと思いました。
――岩田は田畑についていきます。どこに魅力があったのでしょうか。
阿部さん演じる田畑さんは、嵐のような人だった。本来だったら、嵐なんて避けたいと思いますよね。でも田畑さんの嵐って巻き込まれたいと思わせる魅力があったんです。チーム田畑って、その集まりだったと思うんですよね。口が悪いし、せわしないし、よく怒るし、情緒不安定だし、文字だけだとどこにすごさがあるのかと思いますが。実際に相対すると『なんかこの人ってすごいことを起こすのではないか』『楽しいことが待っていそう』と思わせてくれる。熱量が違いますし、そこに阿部さんの魅力も出ていました。
でも、実生活で近くにいたら避けたい人物ですね(笑)。方向性が一緒だったら乗っかってみたいかなぁ。目指すところが違うのであれば、是非とも避けたい(笑)。