課題は「全部」。“守・破・離”の精神で2020年までギアを上げる。パラ卓球・岩渕幸洋×パーソナルトレーナー・土田憲次郎(後編)│わたしと相棒~パラアスリートのTOKYO2020~ (1/3)
東京2020パラリンピックを目指すアスリートの傍らには、彼ら彼女らをサポートするヒト・モノの存在がある。双方が合わさって生まれるものとは何か。連載「わたしと相棒~パラアスリートのTOKYO2020~」では、両者の対話を通してパラスポーツのリアリティを探る。
2017年春、早稲田大学を卒業し、実業団チームに加わったパラ卓球(肢体不自由者卓球)の岩渕幸洋選手(協和発酵キリン所属/クラス9/下肢機能障がい)は、パーソナルトレーナーの土田憲次郎さんによるトレーニングの効果を実感しつつ、さらなる進化の余地を探っている。
後編では、土田さんの視点を通しながら、アスリートとしての岩渕選手の特徴と課題、そして2020年に向けてのロードマップについて伺った。
前編:オーダーメイドのトレーニングで、広がる視野と可動域。パラ卓球・岩渕幸洋×パーソナルトレーナー・土田憲次郎(前編)
変化の兆しはポスト・リオ
――パラ卓球のおもしろい部分として、障がいという“ウィークポイント”を容赦なく攻め合う所があると思います。土田さんのトレーニングを受けて弱点を克服している実感はありますか。
岩渕:はい。やっぱり左足で踏ん張るという時に、しっかりグリップできているな、という感覚もあるので、そこは(土田さんのトレーニングが)生きてきていると思いますね。大学(早稲田大学)や所属先の実業団チーム(協和発酵キリン)の方にも、動けるようになってきたねというのはよく言っていただけるようになりました。
――土田さんからみて、変化が出始めたタイミングはありましたか?
土田:リオが終わってからでしょうか。やはり、その頃からいろいろなメニューを試してきたので。岩渕さんは、SNSにプレー映像をアップしてくれるので、それを見ながら、「どうかな……」と吟味しています。片足でのバランスだけではなくて、右前方に踏み出しづらい、という時があって、映像を見てみるとやっぱりうまく踏み出せていなかったりとか。
――それでまたメニューを変えたり。
土田:そうですね。映像は定点なので、一方向からしか見られないのですが、最近は、障がいがあるように見えないプレーも散見されたりもしていて。それを見ると変化を実感します。
岩渕:余裕がある時とか、勝った時は自分でムービーを作ったりしますね。自分のことを知ってもらうきっかけにもなりますし、振り返りや研究にも使えます。最近は防戦一方なんですけど…(笑)。
土田:とは言っても、障がいがあってもこれだけの動きができるということが見られると、同じ障がいを持っている子どもたちにも夢を与えるなと感じています。まあ、ミスを隠している時もあるんですけど(笑)。
動作の選択肢を増やすということ
――ちなみに、岩渕選手にとっての現時点での課題や強化のポイントは?
岩渕:うーん、“全部”ですね。強い選手しか知らない世界があるんだろうなと思ってはいたんですけど、実業団に入って、トップ選手と一緒に練習をさせてもらえる環境になって、これほどまでに差があるのかと。新しい視点や気づきも多くて、よくよく話を聞いていくと自分にとって全部が課題だなと。サーブの出し方から、レシーブのラケットの角度まで。
例えば、「ここのサーブとれないな」と思ってたら、「(ラケットの角度は)こうでしょ」と、アドバイスをもらったり。まだ時間はあるし、もう少しレベルアップできる余地があるので、一つ一つ吸収していきたいなとは思っています。
――そこで見つけて課題をもとに土田さんにリクエストを出す。
岩渕:そうですね。身体の動作で、皆ができても自分にはできない動作を土田さんにご相談して、僕の足の状態で近しい動きをするには、身体をどう動かせば良いのか、アドバイスを受けながら補っていくような形ですね。
――土田さんは、トレーニングメニューのアイデアというのは、どのように着想されるのですか?
土田:さまざまな所にヒントがあります。自分がやってみて良いな、と思ったものとか、他のスポーツ選手がやっているものとか。例えば、ホッケーのキーパーに実施して、セーブ率が向上したトレーニングを、こうして卓球選手に応用してみるとか。そういう視点でトレーニングメニューを組んでいきます。
できない動作を少なくしていくのが一つの目的ですから、多彩な動きができるようにしておく。状況に応じて臨機応変な動作ができるようになれば、とっさのタイミングでの選択肢が増える訳です。でも、一度も身体を通して体験していないと、その動きは出てこないですよね。だから、バリエーションのあるトレーニングを身体に一度通して、必要なタイミングで自然と出るのが理想ですね。
――反復することで染み込ませる、と。
土田:ただ、反復させ過ぎも怖くて。あまり型にはまった動作になってしまうとその動作しか出てこなくなってしまうので、その辺りも意識しています。武道でも守破離という言葉がありますよね。まず型通りの動きをやって、それからは自分なりの動きを加えていく。
卓球は動作のバリエーションが豊かなので、まず実戦から逆算して、必要な動きは何か、どういう動きが出ると良いか、今の岩渕さんはどんな動きが不足しているか、を考えながら、足りない部分をトレーニングに昇華させていくというイメージでしょうか。