インタビュー
2021年8月24日

オーダーメイドのトレーニングで、広がる視野と可動域。パラ卓球・岩渕幸洋×パーソナルトレーナー・土田憲次郎(前編)│わたしと相棒~パラアスリートのTOKYO2020~ (1/4)

 東京2020パラリンピックを目指すアスリートの傍らには、彼ら彼女らをサポートするヒト・モノの存在がある。双方が合わさって生まれるものとは何か。連載「わたしと相棒~パラアスリートのTOKYO2020~」では、両者の対話を通してパラスポーツのリアリティを探る。

 早稲田大学在学中の2016年、卓球でリオデジャネイロ・パラリンピックに出場を果たした岩渕幸洋選手(協和発酵キリン所属/クラス9/下肢機能障がい)。2020年時点で世界ランク3位。東京パラリンピックで金メダルを目指すパラ卓球(肢体不自由者卓球)界の新星である。下肢の機能障がいの為、卓球台から離れずにプレーする「前陣速攻」スタイルをとり、上半身の自在な動きを身上とする。

 そんな岩渕選手をリオの直前からサポートするパーソナルトレーナー、土田憲次郎さんとの、ボディコントロールの舞台裏を聞いた(初出:2018年7月)。

「何でもやってみよう」の精神で

――最初に、岩渕選手が卓球を始めたきっかけは?

岩渕:中1の時に、部活動の見学に行った際、球技が気になって、バドミントン、テニス、卓球を見に行ったのですが、バドミントンとテニスは走るトレーニングが多くて。ランニングがそこまで得意ではなかったので、卓球だったら取り組みやすいのかな、と。

――岩渕選手の障がいについて、改めてお伺いできますか?

岩渕:先天性絞扼輪(こうやくりん)症候群というのと、先天性内反足というものです。内反足は、足首が内側に入ってしまう状態で、両足とも症状があります。卓球は、母子球(親指の付け根)を開いてプレーをするというのが基本的ですが、自分は足を開いて踏ん張ることが難しいんです。左足は、内反足に加えて、絞扼輪という関節の病気で足の一部がくびれています。結果としてその部位の血行が悪くて発達が鈍くなってしまったというものです。

左足は、足首が自分の力で動かないので、足首を上げて固定するような装具を付けています。通常、人が動く時は足先を正面に向けてつま先で蹴って移動しますが、僕は左足に体重を乗せることができないので、動くときは足を開いてかかとの内側で接地面を押すようなイメージで動いています。

――装具は1度作ったら同じものをずっと使用するのですか?

岩渕:いえ、消耗品ですね。使っていると、3〜4ヶ月でたわみができて、ヒビが入ってしまうんです。土田さんにもアドバイスをもらいながら、自分の足や、動作の状態を見ながら試行錯誤を重ねて、マイナーチェンジを繰り返してきました。

土田:2017年の10月頃から、サポーター部分の素材もそうですし、足裏に貼る滑り止め素材面も、足の側部まで延長してもらったりとか、かかとが浮いているけど、多少は遊びを持たせるために、足の可動域をある程度は担保したらどうだろうとか、気づいたことをアドバイスしました。

岩渕:例えば、足の裏に隙間があるとか、人に見てもらって初めて気づくこともありますので、いただいた助言はだいたい、採用させてもらっています。

――装具に関しては義肢装具士さん、コンディショニングについては土田さんというように分けられているのかなと思ったのですが、土田さんは装具に関してのアドバイスもされるんですね。

土田:違う立場から見ると、こうしたほうが良いんじゃないかな、という考えが出てくる場合もありますので、勝手にどんどん言わせてもらっています(笑)。その中で岩渕さんが採用してみようという案があれば、装具士さんとコミュニケーションを取って装具に反映していただいているような形ですね。何でもやってみようという姿勢で、ダメだったらまた別の方法を考えて。

リオ・パラリンピックの前から関わらせてもらっているんですが、装具の変更がプレーに影響を与えすぎるのは嫌だったので、リオが終わってから、いろいろと変更しているところではあります。

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