インタビュー
2017年9月6日

あのシーンが刷り込まれていたから金メダルに繋がった。柔道・野村忠宏『柔道部物語』【私のバイブル #1(後編)】 (2/2)

アテネのチャレンジを経て、またボロボロになるし、惨めになるかもしれないけど、ここでまたチャレンジを続けたら新しい自分が見られるんじゃないか、作れるんじゃないかという期待でしたね。それは一回りも下の子に試合で投げられたりしたらそれはすごく悔しかったですよ。でも勝ちたいという気持ちと強くなりたいという気持ち、そして大好きな背負投でもう一度畳の上で勝負したという思いが自分を引っ張ってくれたんだなと思います。

マンガから得たかけがえのない思い

― ここまで話を伺って、大学以降は『柔道部物語』に触れる機会は少なかったとはいえ、野村さんを突き動かしていた思いというのは、中学生の頃に読んだときの強くなりたい気持ち、その気持ちを背負投に託して自身に期待するという部分でずっと残っているように思えましたが。

マンガっていうのはやはりフィクションですけど、読み始めた中学生の頃っていうのは本当に三五を自分に置き換えられたし、こうなりたい、こうなれると真剣に思わせてくれましたね。強くなる過程でそれを読んで、憧れて、形成された柔道に対する純粋な思いというのは、やはり自分自身のベースの一つになっていると思います。

― 最後に、このマンガが野村さんに与えた影響をひとことで表現していただけますでしょうか?

「未来」ですかね。強くなったあとの自分というのは妄想でしかないんですけど、その妄想をリアルにイメージさせてくれた。それが三五十五という存在なんです。三五が成長していく姿への憧れ、自分が思い描く自分自身が強くなっていくストーリー、柔道という競技での目標、背負投という技。

『柔道部物語』は当時の野村忠宏が思い描く理想の未来を具現化してくれた作品だと思います。まあ、三五は金鷲旗で勝って、インターハイも制覇して。自分は高校のときはインターハイには出場できたけど、1勝もできませんでしたから、高校3年生の時点では完敗でしたけどね(笑)。でもそのときに三五がくれた背負投のイメージは、間違いなくその後の野村忠宏の未来に繋がっていたと思います。

《前編はこちら》
・背負投を武器に強くなる主人公に自分を重ねて。柔道・野村忠宏『柔道部物語』【私のバイブル #1(前編)】

[プロフィール]
野村忠宏(のむら・ただひろ)
柔道家。1974年奈良県生まれ。祖父は柔道場「豊徳館」館長、父は天理高校柔道部元監督という柔道一家に育つ。 アトランタ、シドニー、アテネオリンピックで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック3連覇を達成する。その後、たび重なる怪我と闘いながらも、さらなる高みを目指して現役を続行。2015年8月29日、全日本実業柔道個人選手権大会を最後に、40歳で現役を引退。2015年9月に著書「戦う理由」を出版。ミキハウス所属
・野村忠宏オフィシャルサイト
http://www.nomuratadahiro.jp/

[作品紹介]
『柔道部物語』(全11巻)
高校に入学したばかりで何も知らない三五十五(さんご・じゅうご)は、先輩たちの甘い言葉に乗せられて柔道部に入部。ところが、入部したとたん先輩たちの態度が豹変。シゴキはあるわ、坊主頭にさせられるわ、もちろん女の子との交流会なんて真っ赤なウソ。でも、一度やると決めた柔道だ。強くなってみせるぞ――!! 読み出したら止まらない!! 珠玉の本格柔道コメディ。
・講談社コミックプラス
http://kc.kodansha.co.jp/

[撮影協力]
講談社 ヤングマガジン編集部・イブニング編集部
©小林まこと/講談社

<Text:関口裕一+アート・サプライ/Photo:小島マサヒロ>

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