インタビュー
2019年8月3日

トータス松本×いだてん。現場で起こるセッションでいかに自分を表現するか:インタビュー前編 (3/3)

自分がそのセッションにどう参加するか

―― 今回の役柄を演じるにあたり、大根仁監督やアナウンス指導の栗田さんに相談したことがあれば。

僕の性格かもしれないですけど「これどうしたら良いですかね」と相談するよりも、自分でやれるだけやってみようという気持ちの方が強かったのかな。現場で「違います」と言われたら直しますけど、普段そんなにバリバリお芝居の仕事をやっているわけじゃない僕みたいな人が役者さんに紛れ込んで芝居をするわけじゃないですか。もともと、お芝居をする筋力がそれほどないと思っていて。相談しても、できないと思うんですよね。そこまで分かってないんですよね。

セリフを頭に叩き込むのに必死で。あとは現場に行って、阿部くんや皆川猿時くん(松澤一鶴 役)がセッションしているみたいにバーって言い合うのに対して、自分がそのセッションにどう参加するかみたいな。だから、いきあたりばったりで精一杯やるしかなかったということですよね。

―― 歌手の筋肉を使って、ということでしょうか。

そうですね。たぶん演者のみんなも監督さんたちも、僕をそう見ていると思うんですよ。役者じゃなくて、ミュージシャンとして見ている部分が大きいと思うんですよね。だから役者然として慣れていないことをやるよりは、いまの自分の仕事に置き換えてやれるだけやる方が、自分の身には合っていると思いました。

「そんなアホな」という感じがおもしろい

―― 河西さんにとってスポーツ実況の意味合いとは。

まさに手探りだったと思うんですよね。河西さんが発明した言い回しもたくさんあると思うし、ノゾエ征爾くんが演じた、河西さんと一緒にロスに行った松内則三という実況アナウンサーは、野球の実況で「ピッチャー振りかぶって、第1球、投げた」という『振りかぶって』なんかを考えたそうなんです。今や当たり前になったことやけど、「振りかぶって」というのを発明したと言うんですよね。

だから気構えとしては、いかに見ている情景を聞く人が思い浮かべられるような言い回しって何やろう、と考えていたと思うし、すごい楽しかったんちゃうかなと思うんですよね。まだ誰もやっていないから、誰の真似でもない。それを自分がやっていくんや、という楽しさがあったんちゃうかなと。ものすごいやり甲斐があったのではと思いますね。

―― あらためて、見どころは。

もう、見どころだらけです。ホンマにもう、スポーツというものが、こんなに窮屈なものやったんや、というところも驚き。それをなんとかしてやろうという当時の人たち、選手のエネルギー、動かした時代。戦争に巻き込まれ、翻弄され、スポーツが政治に利用されていく過程。田畑さんのもがき、葛藤、選手の気持ち。脚本を読んでいても、たまらない気持ちになるところがいっぱいあって。只々おもしろいです本当に。見どころは満載としか言うほかない。

ロサンゼルス・オリンピックのときは実況できなくて、実感放送になった……そんなことほんまにあったんやという。その実感放送のシーンは、滅茶苦茶おもしろいです。だいぶデフォルメされていると思うけど、「そんなアホな」という感じがおもしろいです。かたやベルリン・オリンピックになると、伸び伸び実況していて、その落差もすごいあって。スポーツ、オリンピックの進化みたいなものが、『いだてん』を通じてダイジェストで贅沢に見られるというのは、ほかにないんじゃないですかね。最高に楽しいと思います。どうぞ、ご期待ください。

⇒後日公開予定のインタビュー後編に続く。

<Text:近藤謙太郎/Photo:NHK提供>

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