
「寝ながら」の骨盤底筋トレーニングが「締める感覚」をつかみやすい!初心者ほど最適
更年期や加齢にともなって増えてくる頻尿や尿もれ。男女問わず、「骨盤底筋の衰え」が原因のひとつとされています。
そんなときに役立つのが「骨盤底筋トレーニング」。でも、「どこに力を入れればいいのかわからない」「本当に効いているのか不安…」と感じる方も多いようです。
スポーツ整形外科医の樋口直彦先生によれば、「寝ながら」の骨盤底筋トレーニングが、最も力の入れ方を実感しやすく、初心者におすすめだといいます。
樋口先生監修のもと、骨盤底筋の働きや構造、寝ながらできるトレーニング方法とコツをわかりやすく解説します。
<このページの内容>
骨盤底筋は「体を支える」重要な筋肉
骨盤底筋の構造と働き
骨盤底筋群は、複数の筋肉が重なり合ってできた「ハンモック状」の構造で、骨盤内にある膀胱・子宮・直腸といった臓器を下から支えています。この構造により、内臓を正しい位置に保ち、排尿・排便・性機能のコントロールを担っています。
また、骨盤底筋は姿勢の安定にも深く関わっていて、体幹や骨盤を支える筋肉と連動することで、無意識のうちに私たちの動作をサポートしています。筋力が保たれていることで、姿勢が整いやすくなり、腰痛やぽっこりお腹の予防にもつながります。
意識しにくく衰えやすい骨盤底筋
骨盤底筋は見えない筋肉で、日常生活で意識的に使う機会も少ないため、年齢とともに徐々に衰えやすいのが特徴です。特に妊娠や出産、閉経などを経た女性は、筋肉がゆるみやすく、トラブルが起きやすいです。
さらに、運動不足や姿勢の悪さによっても骨盤底筋の働きは弱まりがちです。だからこそ、意識して鍛えることが大切。
とくに寝ながらできるトレーニングは、初心者でも取り入れやすく、効果的に筋力アップを目指せます。
なぜ、「寝ながら」が「締める感覚」をつかみやすいのか?
立つ・座る骨盤底筋トレーニングは、姿勢を保つために腰や脚にも力が入りがちです。
対して、寝る骨盤底筋トレーニングは、身体の接地面が多く、身体が安定している状態のため、腰や股関節など余計な筋肉に力が入りにくく、骨盤底筋だけに意識を集中しやすい環境です。これにより骨盤の傾きや筋肉の使い方を把握しやすく、正しいフォームを覚えやすいメリットがあります。
この骨盤底筋を意識できることに加えて、呼吸も大事だと、樋口先生は言います。
呼吸が大事!遅筋と速筋を意識した骨盤底筋の鍛え方
骨盤底筋には2種類の筋繊維がある
骨盤底筋は、姿勢を支える「遅筋」と、尿もれを防ぐ瞬発力の「速筋」で構成されています。日常の動きに幅広く対応するには、どちらも鍛える必要があります。
■遅筋トレーニングのポイント
ゆっくり息を吐きながら骨盤底筋を締めて数秒キープ⇒息を吸って緩める。この動作を繰り返すことで、姿勢を支える遅筋に働きかけます。呼吸との連動が効果を高めます。
■速筋トレーニングのポイント
速筋は、息を吐きながらキュッと締めて、すぐ息を吸って緩めるような動きで鍛えます。咳やくしゃみなど急な力に対応する筋力を高め、尿もれ予防にもつながります。
呼吸は吐くときに締めて⇒吸うときに緩める
■呼吸のポイント
骨盤底筋をきちんと鍛えるためには、呼吸がとっても大切です。トレーニングするときの呼吸は、息を吐くときに締める⇒吸って緩めるということをしっかり覚えて実施しましょう。
【仰向け】骨盤底筋トレーニング:やり方とポイント
仰向けで行うヒップリフトは、骨盤底筋を含む下半身全体をバランスよく鍛えられる基本のトレーニングです。シンプルな動作ながら、継続することで骨盤底筋の収縮力が高まり、姿勢改善や尿もれ対策にも効果を発揮します。ここでは、正しいやり方と注意点をわかりやすく解説します。
基本のヒップリフトのやり方
1.仰向けに寝て、両膝を立て、足は腰幅に開きます。手は体の横に添え、力を抜いてリラックスしましょう。
2.ゆっくりと息を吐きながら骨盤底筋を引き締める意識でお尻を持ち上げていきます。床から腰を少しずつ浮かせるように上げていき、肩から膝が一直線になる位置で止めます。その状態を2〜3秒キープ。骨盤底筋とお尻の筋肉が引き締まっている感覚を意識しましょう。
4.息を吸いながら、背骨を一つずつ下ろすようにしてゆっくりと元の姿勢に戻ります。これを10回前後、無理のない範囲で繰り返します。ゆっくり行うことで、遅筋が鍛えられます。
5.続いて、上に上がった状態で骨盤底筋を「1秒締めて・1秒ゆるめる」を繰り返すと、速筋にも刺激を与えることができます。10回程度無理のない範囲で行いましょう。
最初のうちは、腰を高く持ち上げすぎず、軽く浮かせる程度から始めても構いません。ポイントは「骨盤底筋をしっかり意識して動作すること」。回数よりも質を大切にしましょう。
正しいフォームを保つコツ
ヒップリフトでは「反り腰」にならないことが重要です。腰を持ち上げる際に、背中全体がそってしまうと、腰に負担が集中しやすくなります。背骨を順に持ち上げていくイメージで行うと、骨盤底筋とお尻の筋肉を効率よく使うことができます。
また、キープしている間は骨盤底筋がしっかり収縮しているかを意識してください。感覚がつかみにくい場合は、呼吸と合わせたり、軽く肛門を締めるイメージを持つとわかりやすくなります。
戻すときも「ストン」と落とさず、ゆっくりと丁寧に下ろしましょう。筋肉が伸びる過程でも負荷がかかるため、この「戻す動き」もトレーニング効果を高める大事なポイントです。
【うつ伏せ】骨盤底筋トレーニング:やり方とポイント
うつぶせ姿勢で行う骨盤底筋トレーニングは、仰向けとは異なる刺激を与えられるのが特長です。背面全体と連動しやすく、筋力バランスの向上にも役立ちます。
基本のやり方と意識の向け方
1.マットや布団の上にうつぶせになります。
2.両肘を立てて、顔を少し上げて、上半身を軽く支える姿勢をとります。※お腹や骨盤は床につけたままでOK。体を持ち上げる必要はありません。足はピッタリ閉じます。
3.息を吸ってリラックスして、吐きながら肛門や膣をやさしく引き上げるように締めます。締めた状態を2〜3秒キープしたら、ゆっくり緩めましょう。これを5〜10回ほど繰り返すことで遅筋が鍛えられます。
4.1~3で遅筋を鍛えたら、続いて、速筋を鍛えるために「1秒吸って締めて、1秒吐いて緩める」動きを10回繰り返しましょう。
正しく意識するコツ
この姿勢は一見プランクのように見えるかもしれませんが、身体を浮かせる必要はありません。目的は、骨盤底筋を単独で意識して動かすこと。腰や太ももに力が入らないように、お腹は脱力したまま行うのがポイントです。
・肛門や膣を「中に引き込むように」意識する
・腰や太ももはできるだけリラックス
・呼吸を止めない(息を吐くときに締める)
フォームを整える工夫
肩や首に力が入りやすい方は、顔を横に向けたり、額の下にタオルを入れるとリラックスしやすくなります。下腹部を床に押しつけすぎないように意識して、ほんの少しだけ「浮かせる」イメージを持つと、骨盤底筋への刺激がより的確になります。
仰向け・うつ伏せをセットでやるのがおすすめ
仰向けのヒップリフトと交互に行うことで、骨盤底筋全体を多角的に刺激できます。姿勢が異なることで筋肉の使い方も変わり、筋力バランスを整えるのに効果的です。朝は仰向け、夜はうつぶせなど、生活リズムに合わせた組み合わせもおすすめです。
毎日続けるコツ:習慣化のヒントと注意点
骨盤底筋は毎日の少しの積み重ねで着実に鍛えられます。無理なく続けるためには、生活にうまく組み込む工夫が欠かせません。
日常に取り入れやすいタイミング
起きたとき、寝る前、テレビを見ながらなど、リラックスしている時間に取り組むのがおすすめです。短時間でも「毎日決まった時間にやる」ことが習慣化するコツ。アラームやリマインダーを活用するのも有効です。数分だけでも繰り返すことで、徐々に効果が現れてきます。
無理せず、続けやすいペースで
回数や強度を増やしすぎると、腰や股関節に負担がかかることがあります。疲れている日は休んでもOK。筋肉は休息も大切にすることで、より強くなっていきます。自分の体調に合わせて、ムリのない範囲で継続しましょう。
少しずつでも成果は見える
骨盤底筋トレーニングは、継続することで尿もれや姿勢の改善、体型の引き締めなど、少しずつ効果を感じられるようになります。「効果が出るまでやる」ではなく、「効果が出るから続けられる」ように、生活に自然に溶け込ませることが成功のポイントです。
機器やアプリの活用
習慣化するには、デジタル機器やアプリを使うのもおすすめです。骨盤底筋トレーニング用の製品には、筋肉の動きを感知するセンサーを身体に装着して、スマートフォンのアプリと連動してトレーニング状況を画面に表示するものもあります。
また、Androidアプリの「初心者向けケーゲルトレーニング」は、女性向けに設計された骨盤底筋トレーニングアプリ。1日3〜9分のシンプルな体操で、毎日無理なく続けられる内容になっています。
骨盤底筋トレーニングに関するよくあるQ&A
初めてトレーニングを行うときや、効果を実感しづらいと感じたときに参考になる疑問点をまとめました。
Q1. どれくらいで効果が出ますか?
骨盤底筋トレーニングは、少しずつ効果が現れるのが特徴です。数日で劇的な変化を感じることは難しいですが、2週間から1か月ほど続けることで、「尿もれが減った」「下腹部が引き締まってきた」などの変化を感じる方が多くいます。地道な積み重ねが大切です。
Q2. 妊娠中や産後でもやっていいの?
基本的には可能ですが、体調や時期によっては負担になることもあるため、医師や助産師に確認してから行うのが安心です。産後すぐは骨盤周りが不安定になっているため、特に注意が必要です。無理をせず、痛みや違和感があればすぐ中止しましょう。
Q3. 正しく締められているか分かりません…
骨盤底筋は目に見えない筋肉なので、最初は意識するのが難しいかもしれません。肛門や膣を「上に引き上げる」ような感覚で行うとわかりやすくなります。呼吸と連動させて、息を吐きながら締めるのがコツです。不安な場合はアプリやデバイスを使って確認するのも効果的です。
Q4. 毎日やったほうがいいですか?
はい、骨盤底筋は小さな筋肉なので、少しずつでも毎日刺激を与えるほうが効果的です。1日数分のトレーニングでも、こまめに続けることが大切です。たとえば「朝と夜に10回ずつ」など、生活の中に組み込んで習慣化するのが成功のカギです。
監修者プロフィール
なか整形外科京都西院リハビリテーションクリニック
院長 樋口 直彦 先生
帝京大学医学部卒業後、いくつかの病院で勤務し、院長を経験後、2021年1月に医療法人藍整会 なか整形外科の理事長に就任。バレーボールVリーグ「サントリーサンバーズ」のチームドクターも務める。骨折治療をはじめ関節外科、スポーツ整形外科を専門に治療。
<Edit:編集部>