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2023年9月15日

サウナの効果と入り方、守ってほしいマナーとは。日本サウナ学会の医学博士に聞いてみた(前編) (1/3)

続くサウナブーム。サウナ人口の増加により、その効能や心身へのメリット、正しい入り方について注目が集まっています。

今回はサウナ学会理事をつとめる医師・医学博士の加藤容崇(かとう・やすたか)先生にお話を伺い、「サウナに入ってみたいけれど敷居が高そう」と様子見中の未体験者から、サウナは好きだけれど通う頻度はそれほどでもないという初心者、そしてサウナ大好き“サウナー”の皆さまへ向けた記事を、前後編にてお届けします。

前編は、サウナで期待できる効果や心身へのメリット、入り方について。また、サウナに入る際、守ってほしいマナー・エチケットも聞いていきます。


[教えてくれたのは]
加藤 容崇(かとう・やすたか)
日本サウナ学会代表理事、医師・医学博士 専門は癌ゲノム医療と癌研究。予防医療の重要性から、第二の専門として、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を最新の科学で解析し、発信していく「日本サウナ学会」を設立し、代表理事として活動している。

サウナの定義とは。そもそもサウナはどういう行為を指す?

──サウナ。暑い箱の中に入っている以外に、なにか種類はあるのでしょうか。

「サウナの定義というのは実はなくて、暑い部屋の中に入る行為を指します。日本でも大昔から蒸し風呂というものがありますし、とくに決まった形式はないですね」(加藤先生)

──サウナ室の中で、塩で体を揉んだり、仰いで風を起こしてくれる人がいますが、あれはオプションのようなものと考えてよいのでしょうか。

「そうですね。塩サウナというのもありますが、サウナ室内にシャワーを入れたり、下はタイルにする、排水設備を整える必要がありますし、塩は基本的にサウナ施設を腐食させるのであまり一般的ではなく、オプションという印象です。アウフグース(編集部注:サウナストーンに水などをかけて発生した蒸気をタオルなどであおぎ、熱風を送るドイツの風習)に関しても、やはり広いサウナがなかったり、アウフギーサー、熱波師と呼ばれる人たちも国内では多いわけではないので、一部の施設のみという感じですね。でも、これから広まってくるのではと思います」(加藤先生)

──ちなみにロウリュという言葉もよく聞きますが、これもサウナの特殊なオプションでしょうか。アウフグースとの違いは。

「アウフグースとロウリュはよく混同されるのですが、ロウリュはフィンランド語で、基本的にはサウナストーンの上に水をかけるという行為を指します。なので、特殊オプションというよりは、フィンランド式でセルフロウリュができる施設が限られているという感じですね」(加藤先生)

──なぜセルフロウリュができる施設が少ないのでしょうか。

「もともと日本にはフィンランド式サウナが普及していました。1960年代です。しかし日本にはまだフィンランド式サウナの知識が普及していなかったためトラブルが多くて、セルフでサウナストーンにお水をかける行為が禁止されて、いまドライサウナになっているという経緯があります。昔はかなり一般的だったのですが、どんどん減ってドライサウナばかりになってしまいました。しかし、いま再び本格的なフィンランドサウナが見直されていて、少しずつセルフロウリュができる施設が増えてきている状況です。セルフロウリュの代わりに、オートロウリュといって、機械が自動的にサウナストーンに水を噴射してくれるという施設がかなり多いかなと思いますね」(加藤先生)

サウナに期待できる効果とは

サウナ室で熱い蒸気を浴び、そこから出て冷水に浸かり、ゆっくり休憩をする。それを何度か繰り返す。サウナのこの流れには、心身にどのような影響を与えるのでしょうか。

──サウナに期待できる効果を教えてください。

「まず健康面から。長期的な病気が予防できるというところと、快適に日常生活が送れるということ、あとはスポーツとの相性の良さ、この3点があると思っています。短期的な効果としては、自律神経の活動が活発になるというところです。今の時期だと熱中症予防。熱中症予防には暑熱順化、つまり体温の上昇を抑えられるかどうか、体温の調節がいかに円滑にできるかという点が非常に大事です。なので、サウナに入ると、それができるようになるということですね。実際にスポーツ前に、サウナに入っている人は、スポーツ中の体温上昇が抑えられるという論文も出ているぐらいなので、自律神経の活動が活発になり体温調整が上手になるので、暑い環境に適応できるというところですね」(加藤先生)

──サウナに入ると自律神経が整いやすくなるという話はよく聞きますが、熱中症予防にもおすすめなのですね。ほかには、どんな効果が期待できますか?

「睡眠の改善効果も大きいです。先日プレスリリースを出しましたが、NTT東日本とブレインスリープ、ドーミーインという必ずサウナがある、サウナ愛好家御用達のホテルチェーンと共同研究しまして、実際にサウナ入るときと入らないとき、睡眠の質がどういうふうに変わっているのかという研究(*)をし、その内容を発表しました。温泉入浴のみと、温泉+サウナという2つで比較したところ、睡眠の改善効果が確認できました」(加藤先生)

(*)参考:サウナ浴で熟睡時間や熟睡度が向上傾向!ブレインスリープ×100plus(加藤容崇氏)×NTT東日本×共立メンテナンスの4社共同で実施

──睡眠は健康に大きな影響を及ぼしますから、睡眠の質が改善できれば本当にうれしいことですね。ちなみに最近、サウナに入る女性も増えてきたと感じていますが、美容面でのメリットはありますか?

「はい。でも、残念ながらデトックスできるというのは間違いなんですよね。サウナに入って何が変わるかというと、毛細血管の密度が上がります。毛細血管の密度は、酸素を届けたり、細胞に栄養を届けたりするために大切なポイントで、毛細血管の密度が上がると酸素化する血液が行き渡るので、かなり美容にはよい影響を与えるのではないかと考えられます。先ほどお伝えした睡眠の改善効果も、美容に関係することなのでよいことかなと思います」(加藤先生)

──美容を気にするサウナ男女のモチベーションが上がりますね。ちなみにサウナに入って気分がスッキリしたという言葉はかなり耳にするのですが、メンタル面にもなにかよい影響を与えてくれているのでしょうか。

「実際にデータがあるわけではないのですが、先ほどお伝えした『疾患の予防効果』という面では、統合失調症やうつ病といった精神科疾患のリスク低減効果というのが報告されています。軽度のうつ状態にある人がサウナに入ると、食欲の改善や、主観的な気分のつらさなどが低減されるという論文も出ていますね」(加藤先生)

──睡眠の質向上も、メンタル面にもよい影響を与えていそうですね。サウナに入ってスッキリした、よく眠れるという声を聞きますが、これはどういう理由でそう感じるのでしょうか。

「まず『スッキリした』という感じ方について。実際に脳の覚醒度が上がっているので、実際に脳がスッキリしているというのは本当だろうと。なぜスッキリしているのかというと、推測になるのですが、ひとつは体温の分布というのが重要であろうと言われています」(加藤先生)

──体温の分布ですか。

「人間の体温の分布は、覚醒度と相関するということが知られています。サウナ、水風呂、休憩という順番で入ると思いますが、水風呂から出た直後というのは深部がすごくサウナで熱くなっています。その後、水風呂に短時間入ると表面だけ冷たくなるという状況なので、疑似的に深部体温が上がって皮膚の表面の温度がすごく下がるという状況になります。そうすると頭がONの状態、つまり活動中の状態になるんですね。そのため、一時的にものすごく頭がはっきりした感じになるというのがひとつの答えです」(加藤先生)

──ありがとうございます。『サウナでスッキリした』のメカニズムについては分かりました。もしかして、『よく眠れる』というのも、その脳の覚醒度に関係しているのでしょうか。

「それも深部体温の続きになります。サウナ直後は眠くない状態、意識がはっきりした状態になるのですが、実はサウナ室に入って水風呂に入った後は、疑似的に、いつもよりも深部体温がとても熱く、表面はとても冷たい状態になります。身体はそれを調整しようとするのですが、だいたい1~2時間後の間に、逆に調節がいきすぎてしまいます。深部体温が下がって体表面が温かくなって、サウナに入らなかったときよりも深部体温と体表面の体温が逆転します。そのため、すごく眠くなるのです」(加藤先生)

──たしかに、お風呂で深部体温を上げて、下がるころに眠気が訪れるというお話を聞いたことがあります。サウナや温泉で時間がたつと眠くなってくるのは、こういうメカニズムも関係していたのですね。

サウナの正しい入り方

──ここからは、サウナの入り方と注意したいポイントなどを聞いていきます。まずは、サウナに入る前に行うとよいこととは。

「水分補給と自分の体調を把握することです」(加藤先生)

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