ヘルス&メンタル
2023年11月20日

疲れが取れないのは「脳疲労」が原因かも。専門家に聞いた、脳の疲れを回復させる方法

※本記事の内容は、2022年11月時点までの研究によるものです。

なんだか最近、休んでも疲労回復していない気がする。ボーっとする、ささいなことでイライラしやすい。もしかすると、体の疲れ以外に、脳の疲労も蓄積している可能性があります。

今回は、脳疲労についてくわしい、⼈間性脳科学研究所所⻑で武蔵野学院⼤学・⼤学院教授の澤⼝俊之先生にお話を伺いました。脳疲労とはどんな状態なのか、脳疲労を引き起こしやすい要因や職業、また脳の疲れをとる過ごし方などを聞いていきます。


[プロフィール]
澤⼝俊之(さわぐち・としゆき)
人間性脳科学研究所所長/武蔵野学院大学・大学院教授。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学、理学博士。近年は乳幼児から高齢者の幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。最新の著書に「仕事力が劇的に上がる脳の習慣」がある。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」NHK「所さん!事件ですよ」等、TV番組にも出演。

脳疲労とはどんな状態を指す?

脳疲労とは、医学的にどんな状態を指すのでしょうか。澤⼝先生によるとキーワードは“前頭前野”、現象的には“低酸素”と“神経炎症”、そして神経伝達物質の一種の“グルタミン酸の過剰”が挙げられると述べています。

「脳の疲労というのは、非常に難しく、研究が進んでいないもののひとつです。脳疲労のキーワードのひとつに『前頭前野』というのがあります。一番わかりやすいのは、酸素が減っている状態。低酸素が前頭前野の活動を低下させ、脳疲労状態を引き起こします。あとは神経炎症。たとえば脳の炎症によって脳の働きが鈍ってしまう『ブレインフォグ』も脳疲労に関係します。それも一種の脳疲労ですね。最近では、前頭前野に神経伝達物質の一種であるグルタミン酸が溜まると、脳疲労の状態になるということも分かってきました」(澤⼝先生)

ちなみに、運動で起こる疲れも前頭前野が関係しているといいます。

「アスリートが負荷の高いトレーニングを行って疲れているときは、認知機能が落ちています。低酸素状態で運動を続け、前頭前野の酸素量が減ってしまうと、自覚はないものの脳は疲れている状態になっています」(澤⼝先生)

自覚がなくても脳は疲労することがあると語る澤⼝先生。自覚がある場合、たとえばどのような症状が現れてくるのでしょうか。

「自分で気が付きやすい症状としては話すのが遅くなったり、怒りっぽくなる、仕事が遅くなる、注意が散漫する、よく眠れないなどです。また、アルコールを含むものをよく摂取するようになるなど食生活が変わる。うつ状態で、過剰に心配をするようになるなどがあげられます。現代は非常に疲労がたまっている人が多い状況ですね。認知機能のテストを行うと、脳が疲れているのかどうかがわかります」(澤⼝先生)

脳疲労になりやすい人、なりにくい人

現代人の多くが、脳疲労になりやすい状態である。では、具体的にはどういった人が脳疲労になりやすいのでしょうか。

「もっとも注意したいのは、ITやコンピュータ関係の仕事についている人です。適応している人は別ですが、IT関係者はとくに脳疲労が強い傾向にあります。現代は脳疲労になりやすい要素が多くあります」(澤⼝先生)

なんとなくテレビを見ながらスマホをチェックしている人も多いのでは。また、とくに目的もなくSNSやサイトでニュース記事をチェックしている人も。こうした『漠然と情報を受けとる』習慣も、脳疲労の要因につながるといいます。

「ぼーっとしている中でちらちら情報が流れていると、脳はとても疲れます。たとえば、ぼーっとしながらニュースサイトを漠然と見ているのもそうです」(澤⼝先生)


▼スマホが手放せない時点で「すでに依存症」
寝る前のスマホいじり、止める方法は?睡眠専門家がアドバイス

スマホやパソコン、SNS。生活に欠かせないものばかりです。ほとんどの人が脳疲労に陥っているのではと感じますが、むしろ脳疲労を起こしていない人はいるのでしょうか。

「います。脳疲労が起きやすい状況をコントロールして、睡眠をきちんと取れている人です。睡眠時間や起きるタイミングには個人差はありますが、基本は『よい睡眠がとれているかどうか』が大切です。よい睡眠というのは寝始めが重要で、しっかりと深い睡眠(ノンレム睡眠)に入らないといけない。睡眠脳波でいうともっとも深い眠りです。その後は徐々に浅くなり、起床していきます。寝始めに深い睡眠に落ちるためには、寝室の明かりを真っ暗にして寝たほうがよいです」(澤⼝先生)

昔は、真っ暗闇で寝るより、少し明かりをつけて寝たほうがよいという話もありましたが、とくに苦手意識がないのであれば、寝るときは間接照明なども消したほうがよさそうです。

ほぼ毎日、中途覚醒をしてしまう筆者。睡眠の質が悪いのではと悩んでいますが、この中途覚醒も脳疲労の症状に挙げられるそう。

「途中で目が覚めるのも脳疲労の症状のひとつです。目が覚めたとき、金縛りのような状態になるとさらによくありません。金縛りになればなるほどうつ病や脳疲労が疑われます」(澤⼝先生)

脳が疲れているとうまく寝られず、それが脳疲労を引き起こしやすくさせ、ますます眠れなくなるという悪循環につながるとのこと。

また、疲れには男女差があり、おおむね女性のほうが脳が疲れにくいという研究もあるのだとか。

「疲れにジェンダー差があるのは間違いないです。基本、女性のほうが有利という報告があります」(澤⼝先生)

また、脳疲労、とくに脳の若々しさは顔つきにも表れるとのことで、たとえば実年齢が45歳の人でも脳年齢が60歳だと、見た目が実際よりも老けて見えることがあるそう。

同じ年齢でも、脳年齢が違うだけで見た目がまったく違って見えるとは……脳の疲れにも留意したいところです。

脳疲労を解消する方法

さて、ここからは脳疲労を解消する方法を教えていただきました。澤⼝先生おすすめの対策術とは。

「ジョギングなどの軽い有酸素運動がおすすめです。騒音が多い都会は避け、緑の多い場所で行うのがベストです。緑の多い場所は香りがよいので、それだけでも代表的ストレスホルモンであるコルチゾールがすっと減ります。とくにヒノキはおすすめです。研究では、ヒノキの画像と、香りだけで画像なしと比べたところ、香りのほうが効果が高いことが分かっています。両方あるとさらにいいですね」(澤⼝先生)

ヒノキのほか、ラベンダー、畳の香りもおすすめとのこと。もちろん、これら以外の自分の好きな香りを楽しむのもストレスホルモンの減少に効果的とのことです。

「窓から緑が見えると脳疲労の解消によいという研究も多いです。緑を見る、好きな香りを嗅ぐ。余裕があればジョギング、ウォーキング。これで十分です。

緑が近くにないときは音楽も効果的とという報告があります。一般的にモーツァルトなどがよいという説もありますが、必ずしもそうではなく、自分自身の好きな音や音楽を聞くのがよいでしょう」(澤⼝先生)

静かで、心地よい音が聞こえ、緑豊かでいい香りがする。森林浴などは脳疲労を癒すのによさそうですね。

関連記事:「アロマオイル」がストレス解消によい理由とは。使い方とおすすめの香り一覧[専門家監修]

次は、食事面からアプローチ。脳疲労によい成分や食べ物にはどんなものがあるのでしょうか。

「魚です。DHAなどのオメガ3多価不飽和脂肪酸(PUFA)は脳の健康や疲労によいとされています。サプリメントより魚まるごと食べるのがおすすめです。フィッシュオイルもよい成分ですね。ストレスがスーッと下がっていきます。サプリメントでも、良質なものやオメガ系のものはよいと思いますが、見つけるのが大変なので、魚を食べたほうが早いでしょう」(澤⼝先生)

言われてみれば、魚を食べると頭がよくなるといったフレーズの歌がありましたね。また、魚のほかには“緑茶”もよいそうです。

「緑茶のカテキンは脳にも病気予防にもよい成分です。まさにスーパーサプリメント。仕事時にもおすすめの飲み物です。これから仕事をするぞというときは前頭前野に負荷がかかるのですが、緑茶は前頭前野を活性化してくれるので、疲れずにすーっと仕事ができますよ」(澤⼝先生)

仕事のお供はコーヒーという人も多いのでは。人によってはエナジードリンクでしょうか。どちらもカフェインが含まれており、カフェインをとらないとぼーっとしてしまう、眠気が襲ってくるなどよく聞きます。

しかし、澤⼝先生によるとカフェインの効果は一時的なもので、集中力などの脳機能の向上にはそれほど意味はなく、逆に後から疲れを感じてしまうといいます。

飲み物を緑茶にしたり、あるいは魚をよく食べたりすると、数カ月で効果が出るという研究もあります。また、長期的に取り入れれば前頭前野が大きくなるという報告があります。

緑茶の写真

ちなみによく聞く成分として“GABA(ギャバ)”はどうでしょうか。最近では機能性表示食品などに含まれることもあり、疲れやストレスを軽減すると聞きます。

「GABAは、アミノ酸の一種なので脳に入っていかないという研究が多かったのですが、最近では入っていくのではないかという説が出てきています。GABAが入っている飲料を飲むとよいのではないかという研究もありますね。なので、GABAはある程度摂れば脳に入っていく可能性があります」(澤⼝先生)

こちらもおすすめ:「これがAIが導き出した味…」リラクゼーションドリンク『チルアウト』、たしかに謎の浮遊感ある|編集部の食レポ

ちなみにお酒については、残念ながら脳疲労解消には向かないそう。

「お酒は一時的にストレスが解消したと思わせるだけで、飲めば飲むほどストレスは溜まっていきます。やがて飲酒量が増え、アルコール中毒になっていくわけです。アルコールは適量であれば体にいいとする説もありますが、それはワインやビールに含まれる別の成分がいいということ。アルコールを飲むと微小のダメージを脳に与えていき、脳の萎縮につながります。萎縮=脳機能の低下というわけでもないですが、基本的にはアルコールはよくないという研究が多いです」(澤⼝先生)

食べ物以外だと、マッサージ、ツボなどはどうでしょうか。

「いいという研究とそうでない研究があります。人に触られることが脳によい影響を及ぼすこともあり、親しい人にマッサージしてもらうのはよいとされています。痛みの軽減にもつながります。もちろんプロのところに行き、揉んでもらうのも、血液の流れがよくなるのでいい影響を及ぼすでしょう。ツボや漢方薬が脳に与える影響に関しても、きちんとした研究はあまりないのですが、最近になってようやく中国でもツボや漢方に関する研究を進めています。鍼(はり)は鎮痛効果があると証明されています」(澤⼝先生)

ちなみに最近ブームのサウナはどうでしょうか。サウナで“ととのう”と脳がスッキリするといった話を聞きますが、日本での研究はまだ少なく、フィンランドの研究ではよいという報告が出ています。

暑いところから寒いところに行くことで心臓血管系を強めるメリットはたしかだと澤⼝先生は語ります。

関連記事:サウナの効果と入り方、守ってほしいマナーとは。日本サウナ学会の医学博士に聞いてみた(前編)

筋トレ民注目! 筋トレが脳に与える影響とは

MELOSの読者であれば、筋トレを日課にしている人も多いのでは。ズバリ、筋トレは脳疲労によい影響を与えるのでしょうか。

「スクワットは前頭前野を活性化させるのでおすすめです。ちょっと疲れたときや脳疲労を疑ったとき、数分間だけでも効果的です」(澤⼝先生)

筋トレの王道・スクワット。やはり最強メニューです。筋肉のみならず、脳にもよい影響を与えるとは!

「宇宙飛行士は地球に帰還した後、脳機能が下がってしまいます。なぜかというと、重力に逆らう運動をしないから。宇宙船できちんと運動はしていますが、重力がないので重力に逆らう運動はできません。自重運動で足の筋肉をきちんと動かさないと、脳によい物質がいかなくなります」(澤⼝先生)

緑豊かな場所でスクワット。脳にも健康にも最高です。

脳疲労を予防するために重要なこと

脳疲労の解消方法はわかったものの、できれば脳を疲れさせないようにしたいですよね。最後に、脳疲労を予防するコツについて伺いました。

「年齢次第ではありますが、前頭前野系の機能を日頃から高めるようにしましょう。先ほど挙げた有酸素運動やスクワット、好きな香りや音楽、魚や緑茶を摂取するなどですね。笑うのもおすすめです。日頃から笑うようにする、笑顔を作るだけでもよいです。幸せな人と一緒にいると幸せな気持ちになりますから。SNSでは、明るい人やポジティブな人とつながるなどもよいですね」(澤⼝先生)

ネット社会で大きな問題となっている誹謗中傷ですが、脳にもよくありません。つらいとき無理にポジティブになる必要はないかと思いますが、ネガティブなものに囲まれているよりは、明るく楽しいもので周りを満たしたほうがいいのは確かです。

「あとは、楽観的に考えることですね。寝る前にいいことを考えたり。いい夢を見るためにはいいことをイメージしましょう。『無』になるとかえって疲れるという研究もあるのでそこは注意が必要です。たまに瞑想の方法を専門家から学ぶのはよいと思います」(澤⼝先生)

脳疲労が起きやすい現代社会ですが、今回紹介した方法をとり入れて、脳疲労社会を乗り切っていきたいものです。

こちらもおすすめ:そのリラックス習慣、逆効果かも!脳科学的に見た「脳の疲れをとる方法」とは

<Text:編集部>