インタビュー
2017年6月26日

裸足ランニングに学ぶ“ホントの身体の使い方”。裸足王子・吉野剛ロングインタビュー (2/2)

「例えば小学校で教える機会も多いのですが、子どもは順応性が高く、すぐに走り方がよくなる反面、元に戻ってしまうのも早いんです。やっぱり一時的なものではなく、1人でもその環境で裸足ランニングを伝えてくれる人が必要なのだと思います。また、大人の場合には速い人ほど怪我しやすい傾向があって、すると『この人に無理なら自分にはもっと無理』なんて考えてしまいがちです。速い人はプライドがありますし、できるはずという思いが強いので、止めてもいきなり裸足でスピードを出してしまうんですよ。走り方を知らない状態でいつものように速く走れば、怪我するのは必然なんですけど。結果的に、せっかく裸足ランニングに興味を持っても、辞めてしまう人が少なくありません」

 しかしその半面、本質的に理解して裸足ランニングに取り組んでいる方は、着実にレベルアップしているとのこと。5,000mを裸足で15分台というランナーもいるそうです。“裸足で速く走れる”という実例が出れば、納得感を持って取り組める人は増えるのではないでしょうか。まずは、裸足を1つの選択肢として捉えてもらうこと。少しずつ、吉野さんの取り組みは実を結んできています。

裸足を通じて伝えたいこと

 吉野さんは裸足ランニングを通じ、多くの方に“自分の身体のこと(=機能)”を知ってもらいたいと考えています。そこには、過去の実体験に基づく理由がありました。

「学生の頃にトライアスロンをやったんですが、一生懸命にバイクをこいでも、どこかで頭打ちを感じるものなのですよね。そんなとき、多くの方はギアに目が向きがち。つまり、ギアを変えることで速くなると考えるわけです。実際、私もそう考えていました。しかしなんとか新しいギアを購入したいと自転車店に行ったとき、そもそもの技術がないのに、モノを買ってもたかが知れていると言われ、ペダリング技術を教えてもらったんですよ。そしたら劇的に記録が変わって、本当に驚きました。でもこれって、ランニングでも同じこと。まず身体というベースのことを理解し、走り方を身に付けることが大切なんです。シューズが速いのか、裸足が速いのか……なんて、結論的には分かりません。でも自分の身体次第で、たくさん変わる部分があることは事実だと思います」

 確かに市民ランナーの多くは、独学でとにかく走るという方が多いでしょう。ランニングフォームを見てもバラバラで、苦しそうに見えることさえあります。裸足で走ることで、自分の身体がどう使われているのかを意識できる。最初は、着地衝撃を強く受けて、痛みを感じることだってあるでしょう。しかしそれを感じればこそ、負担なく走るための工夫に繋がっていくのではないでしょうか。より効率的に走れるようになれば、怪我を防ぐだけでなく、パフォーマンスそのものも高まるはずです。

「昔はトレーニングしないと不安で、なんだか追われているような感覚がありました。でも、裸足ランニングを始めてから、そういうことがありません。実際、ほとんど走らなくても、レースなど意外と走れてしまうんですよ。現在、走るのは基本的に2週間で5kmくらい。それでもウルトラマラソンだって走れます。周囲からは『ずるい』なんて言われますが、身体の使い方、走り方という基本があるからこそだと思っています」

 吉野さんによれば、特に大切なのが走るリズムとのこと。伸びた筋肉を元に戻す、つまり身体を弾ませるタイミングやリズムが掴めるだけで、走りが大きく変わるそうです。それが、着地の衝撃を効率的に運動エネルギーへ変える変換率を高める。これは裸足によって、地面との設置を足裏でダイレクトに感じられるからこそできることでしょう。

 大学院での実験、そして自身の経験から導き出した“裸足ランニング”。まずは少し裸足で歩いてみるだけでも、得られることは多いことでしょう。特に怪我に悩まされている、あるいは記録の伸び悩みを感じている方にとっては、現状を打開する一手となるかもしれません。

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[プロフィール]
吉野剛(よしの・つよし)
1974年生まれ、香川県出身。一般社団法人日本ベアフット・ランニング協会・代表。裸足ランニング ヘッドコーチ。サンディエゴ州立大学修士課程で裸足ランニングに関する研究を行い、現在は日本を拠点として全国各地でその普及に取り組んでいる。著書に『裸足ランニング~世界初!ベアフット・ランナー の実用書~』(ベースボール・マガジン社)、『新走法で速くなる!裸足感覚ランニング』(洋泉社)
【HP】https://www.hadashirunning.jp/

[筆者プロフィール]
三河 賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>

 

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