乳酸がたまるとどうなる?乳酸=疲労物質ではない!
「運動をしたら乳酸がたまる」「乳酸が溜まって疲れが取れない」など、疲労物質として認識している人も多い乳酸。運動をするとできる老廃物として、乳酸が紹介されていることをよく目にするでしょう。
しかし、それは乳酸を正しく理解していないことになります。
乳酸とはなにか。身体にどのような影響を及ぼすものなのか、トレーナーが解説していきます。
乳酸とは。溜まりやすい原因
乳酸とは、カラダを動かすエネルギーを作るため糖を分解している際にできる生成物です。
陸上の短距離走やダッシュなど、短時間で高強度の運動では乳酸が溜まりやすいとされています。その理由は、運動のエネルギー源として糖が多く使われているからと言えるでしょう。
乳酸=疲労ではない!
以前はこの乳酸が、疲労を感じさせる物質として考えられていました。そのため、健康食品や医療品の中には、乳酸を除去して疲労を回復させるという謳い文句で販売されているものもあります。
しかし、乳酸はいつまでも筋肉中に溜まっているわけではありません。30分も経てば乳酸は排出されます。
そのことを考えても、「乳酸=疲れ」ではないということが分かります。
日常生活の疲れは乳酸が溜まったせい?
●乳酸が引き起こしているわけではない
「疲れの原因である乳酸を除去しましょう」という情報が流れているのをよく見ます。では、日常生活の疲れに乳酸は関係しているのでしょうか。
実際のところ、日常生活程度の活動で乳酸が溜まるということはほとんど考えられません。
中には「長時間労働で少しずつ乳酸が溜まっているのでは……」と考える人がいるかもしれませんが、研究では長時間の運動で疲労は溜まっていく一方、乳酸は徐々に減っていくという結果が出ています。
疲労というのはさまざまな原因が同時に重なって起こるもの。乳酸が引き起こしているわけではないのです。
乳酸がたまると筋肉痛や筋肉のハリにつながる?
●つながらない。長時間、乳酸が溜まり続けることはない
運動後に起こる筋肉痛や、筋肉の張りの原因が乳酸であるという説も間違いです。
一昔前は運動で乳酸が溜まって筋肉が酸性に傾くため、筋肉が硬くなり筋肉痛が起こると考えられていました。
しかし先ほどご紹介した通り、乳酸は短時間で新たにエネルギー源として活用され消えていきます。つまり、長時間にわたって乳酸が溜まり続けるということはないと考えられます。
特定の栄養素で乳酸は除去できる?
●できない
「○○を摂取すると乳酸が中和されて……」という、健康食品などに多いフレーズも間違いと言えます。
特定の栄養素によって乳酸を除去できるということはありません。むしろ、そのような栄養素を摂取しなくても、自然と乳酸は使われてなくなります。
「疲労=乳酸=溜まる」という間違ったイメージがあるからこそ、そのような謳い文句が生まれるのでしょう。
乳酸は何に使われる?
先ほど説明した通り、乳酸は悪者ではありません。乳酸はミトコンドリアを通し、エネルギー源として再利用されるのです。
筋肉には、速筋線維と遅筋線維という2つの筋線維が存在します。速筋線維にはミトコンドリアが少なく、運動強度が上がって糖をエネルギーとして多く使おうとしても、すべてを処理できないため乳酸が生成されます。
しかし生成された乳酸は血液によって他の筋肉に流れ、ミトコンドリアが多い遅筋線維などで、エネルギーとして再利用されるのです。
また、乳酸は心臓を動かす心筋や脳のエネルギー源としても使われます。
筋肉で生成される乳酸ですが、知らずと食事から摂取しています。肉や魚介類、ヨーグルト、ワイン、漬け物などが例に挙げられます。
乳酸はいろいろな食品に含まれており、食事から摂取した乳酸もエネルギー源として使われています。
乳酸をパフォーマンスアップに活用するには
血中にある乳酸を測定することで、体内の状況を把握し、スポーツ競技に活用することが可能です。
運動では、ある強度を境に血中の乳酸濃度が高まるポイントがあり、それを「乳酸性作業閾値:LT」といいます。これは、運動強度が高まり、糖の利用が増えることによって、乳酸が多く発生していることを示しています。
運動強度を上げていった場合、このLTが遅く出る人の方が、高い運動能力を持っているということになります。定期的に測定し、LTが出る強度が遅くなっていれば、運動能力が上がっているということです。
このように、アスリートは乳酸測定を行いながらトレーニングメニューを組み、フィジカルの強化をしています。
また、血中乳酸濃度は測定しやすく、疲労している時ほど乳酸濃度が高くなります。そのため、疲労の目安としてコンディションのチェックにも活用されているのです。
参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット 乳酸
著者プロフィール
和田拓巳(わだ・たくみ)
プロスポーツトレーナー歴16年。プロアスリートやアーティスト、オリンピック候補選手などのトレーニング指導やコンディショニング管理を担当。治療院での治療サポートの経験もあり、ケガの知識も豊富でリハビリ指導も行っている。医療系・スポーツ系専門学校での講師や、健康・スポーツ・トレーニングに関する講演会・講習会の講師を務めること多数。テレビや雑誌においても出演・トレーニング監修を行う。運営協力メディア「#トレラブ(https://tr-lv.com/)」などで多くの執筆・監修を行い、健康・フィットネスに関する情報を発信している。日本トレーニング指導者協会 JATI-ATI
公式HP/公式Facebook
<Text:和田拓巳>