フィットネス
2020年7月27日

筋トレを素早いスピードでやると、どんなメリットがある?クイックリフトトレーニングの効果とやり方

 以前の記事で、筋トレを行う際には“挙上重量”と“回数”の他に「時間」の概念を取り入れることをおすすめしました。その理由は、同じ動作を行うのであれば、スピードを高めることによってトレーニング効果が上がるからです。しかし最近、実は速いスピードで行う筋トレ、いわゆる「クイックリフト」は健康にもよい効果をもたらすとの研究結果が、ヨーロッパの医学学会で発表されました。

ヨーロッパ心臓医学ソサイエティが発表した研究内容

 2019年4月12日にポルトガルのリスボンで行われた「EuroPrevent 2019」でヨーロッパ心臓医学ソサイエティが発表した研究(※1)によると、瞬間的に発揮される最大筋力が高い人ほど長生きする傾向があるという結果になりました。

 ブラジル・リオデジャネイロのアラホ博士を中心とした研究グループは3878人の一般人を対象に2001年から2016年までの長期間に渡って追跡調査を行いました。調査対象になったのは41歳から85歳までの非アスリートで、平均年齢は59歳、男女比は男性68%・女性32%。最大筋力を測定する方法として、立った状態で重量ケーブルに繋がったハンドルを腰の下から顎の下まで一気に引き上げる動作(Upright Row Exercise)が選ばれました。

 その結果、男女とも最大筋力がそれぞれの平均以上であると生存率が高くなったとのこと。逆に最大筋力が平均の50%以下で4~5倍、25%以下で10~13倍もの範囲で、死亡率が高まることがわかりました。これを受けて、アラホ博士は以下のように述べています。

「高齢者が椅子から立ち上がるときとボールを蹴り上げるときは、筋肉の大きさよりもその筋肉が発揮するパワーが重要になります。ところがウェイト・トレーニングの多くはパワーよりも筋肉の大きさを重視する傾向があります。我々の研究では、より多くのパワーを持つ人ほど長生きすることを初めて明らかにしました」

 パワーとは、一定時間内に行われる仕事量を指します。筋トレにおいては、同じ挙上重量と回数(仕事量)であれば、それを行う速度が速ければ速いほどより多くのパワーが発揮されるというわけです。あるいは、同じ制限時間内に挙上重量と回数(仕事量)を増やしても同じ結果が得られます。

 筋トレは、ゆっくりとした動作で行う方が安全で健康的に見えがちです。しかし、博士はその反対に、クイックリフトを行った方が長生きに繋がると推奨しています。

 一般的に、40歳程度を境に最大筋力は低下するもの。博士は、「最大筋力が全ての死因における死亡率と大きく関係することがわかりました。幸いなことに、それぞれの性別の中央値より少し高いだけの筋力さえあれば、生存率を最大にすることが出来るのです」と語っています。さらに彼は、以下のようにも述べました。

「パワー・トレーニングはモノを持ち上げたり動かしたりするスピードと重量の最良な組み合わせを探さなくてはいけません。多くの場合、ジムで筋トレを行う人は重量と回数だけに気を取られて、それを行うスピードについては無頓着になりがちです。しかし、パワー・トレーニングの適切な成果を得るためには、筋トレのスピードを通常考えられるものより速くするべきなのです」

具体的にどんなトレーニングをするべき?

 それでは、そのパワーを生み出す最大筋力を高めるためには、具体的にどのようなトレーニングをするべきなのでしょうか。この研究を紹介した米国科学振興協会が運営するウェブサイト「EukeAlert!」(※2)では、以下の方法で筋トレを行うことをすすめています。

最大筋力を高める筋トレのやり方・セット数

・上半身と下半身それぞれで複数のエクササイズを行う
・最大筋力を高めるための重量を選ぶ(簡単に挙がるほど軽くなく、1回も挙がらないほど重くない重量)
・重量を挙げて、筋肉が収縮する際にはできるだけ速く、元に戻るときは自然なスピードで行う
・各エクササイズは6~8回を1セットとして、1~3セット
・セット間には20秒の休息を挟む

トレーニングの進め方

・各セットの反復回数は6回から始め、楽にセットをこなせるようになったら8回まで増やす
・各セット8回ずつでも楽にこなせるようになったら、重量を増やして、反復回数を6回に戻す
・正確な動作で決められた反復回数をこなせないときは、重量もしくは回数を減らす。これは怪我を予防するために重要である

関連記事:筋トレ初心者にオススメの「クイックリフト」を取り入れたトレーニング3選

参考文献:
(※1) “Muscle power in upright row movement: predictor of all-cause mortality in individuals between 41 and 85 years of age - Preliminary results”

(※2) “Ability to lift weights quickly can mean a longer life”

筆者プロフィール

角谷剛(かくたに・ごう)

アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text:角谷剛>