2020年7月9日

特別インタビュー:コロナ禍、オリンピック延期。再始動への想いとは│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート~for2020~」#42 (3/3)

日々変化するママアスリートを取り巻く環境

― アスリートしての想いと新たな活動、今後が楽しみになるお話を聞いてきましたが、本コラムのテーマでもある「ママアスリート」として変化したことはありますか?

MELOS連載コラム#41でも書きましたが、自粛期間中は5歳になった娘と過ごす時間が増え、その成長ぶりに驚いていました。成長に合わせ今は反抗期になっています(笑)。

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「ママの言うことなんか聞きたくない」と定番の台詞を言いながら、理屈、いや屁理屈で対抗してくるようになっています。アスリートの特性上、レース前はアドレナリンをあげて興奮状態になり挑みますよね。その特性が、娘と向き合っているとき出ないようメンタルコントロールするよう気をつけています。

― 自分をコントロールできるのはアスリートだからこそですかね。

まあ怒るというか、着火はしやすいというか……。反対に夫が、あまり怒らないのでバランスは取れていると思います。でも女友だちとの悩みは、こっそり私に相談してきます。来年は、保育園から小学校に変わるので娘を取り巻く環境に合わせて、私たち両親も変わらないといけないと思います。

― 練習が再開されると、娘さんと過ごす時間が減ってしまいますよね。

そうですね。思いがけず大切な時間をもらいましたが、反面名残惜しいという気持ちも芽生えてしまいましたから。練習が始まれば、夫のコミット率の高さが戻ります。それでも母としての自覚を忘れず、ママアスリートならではの子育てをしたいと思っています。まあ、反抗期だけ夫に上手く任せてしまおうかとは、思っています(笑)。

― 無敵な時期ですからね。練習再開後も夫のサポートは大きいということですね。

家族の関係性が密になれば、それなりにストレスがあります。それを練習やレースに影響しないようコントロールする術も家族の関係性によって変えていかなければいけないと思います。娘が何かしてしまったとき、だいたい私が先に着火してるので、夫は2人を見守ってくれます。

― 世の中のママ・パパさんたちに家事や育児のイライラ解消法とかありますか。

みなさん状況は違うと思いますが、言えるのは「家事や育児を忘れる時間も作れればいいな」と思います。私は練習中、娘や夫のことを完全に忘れます。特殊かもしれませんが、仕事でも趣味でも集中して、自分のことだけを考える時間を作ることが大切だと感じています。

今シーズン、そして2021年へ向けて

― 2021年に向けたレース予定は見えてきましたか。

今(7月8日)の時点で決まっている大会は、8月29日の「アスリート・ナイト・ゲームズ・イン・フクイ」になります。8月中に1~2レース、9月には「第68回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」、10月には「第104回日本陸上競技選手権大会」が見えています。ただ、オリンピックの選考レースではないこと(※)、また現在の状況からどう組み立てていくか考えています。

※オリンピック選考期間は2020年12月1日から2021年6月29日まで。

― オリンピックの選考は、2021年に入ってから本格的になりますね。

そうです。今年をレース出場で組み立てるか、練習中心に組み立てるかは、これからチームメンバーと話し合うタイミングです。

― 現在は、何を目標にして練習に取り組んでいますか。

やはりタイムです。再開後すぐに練習でもレースでも「12秒84」が出せれば、来年に向けて気持ちが楽になると思います。でも調子がよすぎて「12秒79」で走れてしまうと、逆に余裕があり過ぎることになって危険ですね。だからといって「13秒3」とかで走っていると、来年切羽詰まってきますよ、きっと(笑)。

― 目標タイムもモチベーションもバランスが大切なんですね。

あと娘に「金色のライオンメダルが欲しい」って言われています……。このメダル、日本選手権でしかもらえない豪華なメダルなのですが、私の第一次陸上競技選手時代の2011年から変わったもので、復帰後に獲った昨年の日本選手権の銅と今年2月の日本選手権室内の銀しかないんですよ。だから、その言葉もモチベーションアップにつながっています。

― 最後に「2021年に向けた想い」をお願いします。

東京オリンピックが来年開催されるかどうか危うい部分も残っていますが、私が「やれること」と、「やらなきゃいけないこと」は変わらないと思います。もし開催が最終決定すれば、そこに向けて結果を出しに行きます。

もしも開催中止となったときは、ほかのレースでタイムを出して「オリンピックあったら寺田明日香入賞できたのにね」って思ってもらえればいいと考えています。練習も含め来年に向けて「やれること、やらなきゃいけないこと」を明確化したいですね。

昔も今も多くの人にかかわってもらって自分があります。その人たちみんなが、「ああ、寺田明日香とかかわってよかった」と思ってもらえるよう頑張って結果を残していきたいと思います。

[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。

◎所属企業:株式会社パソナグループ

◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒97)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63

【今後の主なスケジュール】
●セイコーゴールデングランプリ陸上(東京・国立競技場・5/10から延期。代替日程は現時点では未発表)
http://goldengrandprix-japan.com/
●ナイター陸上競技会「アスリート・ナイト・ゲームズ・イン・フクイ」
2020年8月29日(土) 福井市9・98スタジアム(福井県営陸上競技場)
http://www.fukui-jaaf.com/contents/crowdfunding
●第68回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会
2020年9月18日(金)~20日(日)熊谷
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1452/
●第104回日本陸上競技選手権大会
2020年10月1日(木)~3日(土)新潟市・デンカビッグスワンスタジアム
https://www.jaaf.or.jp/jch/104/
●2020世界室内選手権
2021年3月19日(金)~21日(日)会場:中国・南京
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1416/

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<Text&Edit:松田政紀(アート・サプライ)/Photo:寺田明日香>

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