インタビュー
2017年8月24日

「好きなことこそ一生懸命になって」。前園真聖が考える育成年代の子どもとの向き合い方

 前園真聖さんは、2005年現役引退後、スポーツジャーナリスト・コメンテーターのほか、幼稚園児から小学校高学年までを対象にしたサッカー教室「ZONOサッカースクール」を運営している。元サッカー日本代表として、後に続く子どもたちにサッカーの楽しみをどのように伝えていくのか。自身の小学生時代から現在までの体験とともに、その熱い想いを伺った。

壁当てが技術を養ってくれた少年時代

― 前園さんは小学校のときはどのようなチームでサッカーを始められたんでしょうか?

僕は小さい頃、地元の小学校のスポーツ少年団に入っていました。少年団の練習以外にも、マラドーナをはじめ、好きな選手の映像を見て真似をしてみたり、当時は少なかった『サッカーマガジン』や『サッカーダイジェスト』などのサッカー雑誌に掲載されているトレーニングメニューを見て、自分で考えながらトレーニング内容を決めて自主練習をしていましたね。

― 当時、現在のクラブチームやサッカースクールのようにサッカーをより深く、もしくは専門的に教えてくれるような環境は前園さんの身の回りにはあったのでしょうか?

その頃、鹿児島にはクラブチームもなければ、スクールというものもなかったですね。たまにセルジオ越後さんがサッカー教室に来るくらい(笑)。鹿児島では「三菱ダイヤモンドサッカー」(テレビ東京)も放送してなかったので、映像もワールドカップやトヨタカップなどごく限られたものしか見ることはできませんでした。でも「キャプテン翼」は放送していたので見ていましたけどね(笑)。

― 今の子どもたちと比べると、映像をはじめ、情報ソースは圧倒的に不足していた時代でしたよね。そんな環境の中で、具体的に前園少年はどのような練習をされていたのでしょうか?

マラドーナが好きだったのでドリブルももちろん練習しましたが、いちばんやっていたのは「壁当て」ですね。1人でできますし、狙ったところに蹴る、戻ってきたボールをコントロールする。蹴った球の軌道によって戻ってくるボールも当然違ってくるので、いろんな蹴りかたやトラップが身につく。サッカーに必要な要素を全てまかなえる壁当てが、いちばん練習になっていたのかなとは思います。

― 今でも、都内でも有名なスクールの指導者は壁当てを勧めていて、そのクラブの選手は、練習前の空き時間には壁当てをしています。小野伸二選手も幼少期は壁当てでキックを身につけたと言っていました。

ただ、今は当てられる壁がなかなかない(笑)。都心部ならなおさらですよね。僕が子どもの頃はそれこそ道路でサッカーをやってましたが、今はそういう環境ではないですよね。でも自分で工夫して練習はできると思うので、子どもたちには今の環境でできることを自分で考えて、練習に取り組んで欲しいですね。

サッカー部がなかった中学時代から強豪校へ進学

― 小学生で県大会でも上位の成績を納めていたにも関わらず、進学した中学校にサッカー部がなかった。クラブチームやスクールという別の選択肢がない中で、陸上部に入られたのはなぜですか。

そこは、しょうがないな~と割り切りました(笑)。でもサッカーは続けたいと思って、サッカーに役立つことをと考えて、足の速さを活かすには陸上の短距離かな、と。長距離は嫌いだったので(笑)。やるからにはちゃんとやろうと思って頑張ったので、陸上でも地区大会で優勝して、県大会にも出場したんですよ。まあ、県大会では歯が立たなかったですけどね(笑)。

部活が終わった後は、みんなで集まってサッカーの練習をしていました。もしあの頃クラブやスクールがあったら……、と考えても実際になかったので、それはなんとも言えないですよね。やれることをやるしかなかったですから。

― サッカーを頑張る前園さんの姿を見て、学校の先生たちがサッカー部を創設してくれることになり、再びサッカーの道に戻ってきます。そして大会での活躍が認められ、全国屈指の強豪校、鹿児島実業高校に進学されました。

高校時代はひと言でいうと、いちばん成長したっていう実感がありますね。小中学校のときは、純粋に楽しくサッカーをやっていたので、そんなに苦しい思い出もないんです。でも高校になるとそこに明確なレギュラー争いや、強豪校でしたので絶対に試合に勝たなければいけないというプレッシャーもありました。

そうなると当然練習も厳しくなるし、サッカーに対しての向き合い方も変わりました。楽しいだけじゃなく、苦しい思いもして、でもそこでやりきらないと何かを得ることはできない。ただ今までの中でも量的にはいちばんトレーニングもしたし、正直今は戻りたくないですね(笑)。

― その厳しい環境の中で得たものというのはなんでしょうか?

仲間意識というわけではないですけど、みんなで何かを成し遂げることの大切さだったり、共同生活が長かったので、その大事さだったり。あとは高校時代に自分のプレースタイルが確立されたのは大きかったですね。当時からドリブルが自分のいちばんの武器でしたが、当時の監督はその良さを出すような後押しをしてくれたんです。

具体的には試合でもどんどんチャレンジしろとか。やっぱり1年生と3年生では体格もスピードも違うのでボールを奪われることが多かったですけど、失敗してももう一度チャレンジしろという監督だったんですよ。そこで安易にパスに逃げない気持ちも身につきましたし、自分の武器を磨いていくことができました。それが後のプロ入り、そして日本代表入りに繋がっていったと思います。

子どもたちと向き合うときに大切にしていること

― その後、Jリーグ、日本代表、そして海外でプレーを続けた前園さんですが、2005年に現役を引退されてから、サッカースクールという形で育成年代への指導を始められましたが、きっかけみたいなものはあったのでしょうか?

引退してこれからどうするかを考えたときに自分のサッカー人生を振り返ると、やっぱり子どもの頃っていうのがいちばん純粋に、何も考えずに楽しくサッカーをやっていたなと思ったんです。その楽しさだったり、自分がこれまで経験してきたことだったり、サッカーのキャリアを積んで気づいた大事なことがありました。

それを今の子どもたちに伝えていけると思ったこと、僕個人として何かをサッカー界に還元できるいちばんの方法だと思いました。そこで、自分のスクールや全国を回ってスクールを開催したり、子どもたちの大会を開いたりという活動を引退してから今日まで継続して行なっています。

― 活動の中で、数多くの子どもたちと触れ合ってきたと思いますが、前園さんが子どもたちと向き合う上でいちばん大切にしていることはなんでしょうか?

まず子どもたちには礼儀をちゃんとしてほしいと思っています。挨拶だったり、「ありがとうございました」のひとことだったり。当たり前のことがちゃんとできる、そういうことがいちばん大事かなと思います。

たとえばサッカースクールのイベントではコーチの目を見てちゃんと話を聞くとか、集中して取り組むとか、そういうことが何かを学ぶ姿勢に繋がると思うんです。この短い時間の中で上手くなりたいとか、何かを吸収したいと思ったら、まずそれがないと僕が何を教えてもたぶんダメというか、伝わらないんですよ。

せっかく一緒にサッカーができるので、純粋にサッカーを楽しんでほしいし、僕から何かを得て帰ってもらいたいですよね。「楽しい」という意味がワイワイしながらダラダラやっているということではないと思うので、そこは僕としてはしっかりやってあげたい。実際にスクールをやっていて、あまりにも話を聞かないとか、ちょっと緩いなと思ったら、少しピリッとした空気を出すこともありますよ。そこのメリハリは必要だと思っています。

― たとえば、今壁にぶつかったり、悩んだりしてサッカーを楽しく感じられない子どもがいたとしたら、前園さんでしたらどんな声をかけてあげますか?

自信がなくて遠慮していたり、周りに気を使っていたり、失敗すると怒られると思って消極的になっている子というのはよく見かけます。そんなとき僕は、自分が高校時代にそう教わったように「トライしないことがいちばんの失敗だから、まずはやってみよう。ダメだったらそのときに考えればいいから」と声をかけますね。

トライして失敗しないと、本当の意味での課題も分かりません。さらにいうと、失敗したからといって、ダメ出しはしないですね。あくまでも、ある一局面においての、プレーの選択を失敗したという結果でしかないので、まずそのプレーを選択できたということを評価します。その上で「こういう選択肢もあったんじゃないか」というアプローチで子ども自身に考えさせるのがいちばんだと思います。

サッカーは自分で考えて判断しなきゃいけないスポーツです。いったんピッチに入ったら、選手が自分で考えて行動しなくてはいけない。僕は小学生のときから自分で考えてプレーしていましたが、厳しい監督だったのでけっこう言われることは多かった。

まあ、みんながみんなそういう子ではないと思いますけど、言われたことだけをやるんじゃなくて、考えてプレーするということを小学生のときに覚えておいたほうがいいと思いますし、そうやって自分で考えて答えを出せるような声のかけかたっていうのを意識していますね。

サッカーを通じて子どもたちへ伝えたいこと

― 最後にサッカーを通して、前園さんが子どもたちに伝えたいことっていうのはなんでしょうか?

もし今サッカーが大好きだったら、中途半端にやらないで、夢中になって一生懸命やってほしいですね。厳しい話をすると、もちろん頑張れば可能性はありますけど、今サッカーをやっている子どもたちが全員プロになれたりすることはないと思います。

サッカー以外に自分が一生懸命になれる道がみつかったら、もちろんそっちで頑張ればいいんだけど、なんかイヤだなくらいの気持ちで中途半端に投げ出しちゃったりすると、たぶん大人になっても「これもう俺に合わないから、こっちへ行こう」って、同じことになると思うんです。

サッカーをやっていたら、負けたり、監督に怒られたり、チームのみんなにいろいろ言われたりとか、うまくいかないことはたくさんあります。その中でも歯を食いしばって踏ん張って、もう一歩頑張るっていうのがきっと次に繋がると思う。それはサッカーに限らず、何をやるにしても同じだと思います

サッカーで学べることには、きっとサッカー以外でも役立つことがたくさん詰まっていると思います。仲間を思う気持ちとか、みんなで助け合うとか。それは社会に出ても一緒だと思うので、そういうことも含めて子どもたちにはサッカーからいろんなことを学んでほしいですね。

そういうことを経験して、たとえプロになれなくてもボールがあって友だちがいれば、いつでも何歳になってもサッカーはできるので、そうやって大人になってもサッカーが好きで、楽しくサッカーを続けてくれたら、そんなにうれしいことはないですよね。

[プロフィール]
前園真聖(まえぞの・まさきよ)
1973年10月29日生まれ、鹿児島県出身。元サッカー日本代表。28年ぶりの出場となった1996年のアトランタ五輪では、キャプテンとしてブラジルを破る「マイアミの奇跡」を演出。2005年に現役引退。現在は、スポーツジャーナリスト・コメンテーターを務めるほか、サッカー教室「ZONOサッカースクール」を運営している

 

<Text:関口裕一+アート・サプライ/Photo:森カズシゲ>