柔道よりレスリングの方が好きだった⋯⋯たとえ好きじゃなくても希望を持つことはできる! 元柔道日本代表・松本薫(前編)|子どもの頃こんな習い事してました #32 (2/3)
「勝ちたい」と思ったことも他の選手と比べることもなかった
――2019年の引退会見で「柔道が好きか嫌いかって言ったら、別に嫌いでもないですけど、好きってわけでもなかったんだっていうのに気付いた。私にとっての柔道は目標であり、夢であった」とおっしゃっていました。それは引退後に気づいたということでしょうか。
気づいたのは結構早い段階です。同じ厳しい道場でも柔道が好きな子っているんですよ。先生にめちゃくちゃブチ切れられて「もうお前ら帰れ!」と道場を締め出されたことがあって。そのときにみんなで「どうしようか」と相談したんですね。するとある子が「先生は嫌いだし、この道場はやめたいけど、柔道は好きだから続けたい」と言ったんです。その言葉を聞いたとき衝撃で、「柔道を好きな人がこの世にいるんだ!?」って驚いたんです。
それから中学、高校、大人になって、世界選手権、オリンピックと勝てば勝つほど、選手たちはみんな自分の競技を愛していることに気づいた。柔道に限らず他競技もそう。たとえば、体操の内村航平さんは「体操を恋人以上に愛しなさい」と言っています。そういう言葉を聞くたびに、いつも頭の中にハテナが出てくるんです。「柔道を愛する」って何だろうって。
現役中は自分が異質だと感じ、自分に「私は柔道が好きだ、好きだ」と言い聞かせていました。引退後、所属している会社、ベネシードの片山源治郎社長に「お前、柔道好きじゃないもんな、ハハハハ」って笑ってもらえて、その時初めて「そうだ、私は柔道が好きじゃなかったんだ。好きじゃなくてもいいんだ」と、やっとしっくりきました。
――確かに、競技を愛している選手は多いですね。「やめたい」と思ったことはあっても、それは「スランプに陥ったからであって、競技を嫌いになったわけじゃない」という選手は多いと思います。
逆に私はスランプに陥ったことがないんです。子どもの頃は「勝ちたい」と思わなかったから。柔道で成長したいとも思わなかったし、他の選手と比べることも一切なかった。何も求めなかった。柔道をしている自分に対しても、柔道に対しても。