インタビュー
2018年7月20日

漫画家になってカッコ良く成り上がりたかった。本物の格闘技漫画でね。板垣恵介『グラップラー刃牙』(前編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #4 (3/4)

徹底的に突き抜けた個性ッッ!

― そうして連載が始まって27年、刃牙のライバル、対戦相手たちはどれもすごく魅力的なキャラクター性を有していますが、板垣先生がキャラクターを作る際に心がけていることはどんなことですか?

「とてつもなくどういう人なのか」ということを、ある方向に徹底的させて、はっきりと認識させること。徹底さえしていればキャラクターとしてもつ。仮に「普通」でもとてつもなく普通なら個性になる。普通と言われている人も折に触れてどっちかに寄るんだけど、何があっても断固真ん中をいくんだという強い意志をもたせる。そうするとそれが強い個性になる。

― 確かにビスケット・オリバとかも、徹底的に筋肉ですし、花山薫も圧倒的な握力です(笑)。

そういう看板をあげさせて、それを笑っちゃうくらい徹底させる。笑ってくれた人は次も読むし、それを人に語ってくれるようになるんだよ。おもしろいって。ただし、空を飛んだり、ビームは出さない。この作品では肉体性が絶対的な憲法。あくまでも肉体の世界であって、SF的なものや超能力はアウト。

― 板垣先生がいうと説得力がありすぎますね。刃牙という作品のストーリーというのはどのように考えていくものなんですか?

物語はあまり考えないんだよ(笑)。それよりも「こいつなら何をやるんだろう」というのを現場でずっと観察しているような感覚なんだ。誰かと誰かが向かい合ったら、それで何かが始まるだろうし、だいたいこの作品に出てくるキャラはそんな奴しかいないんだ(笑)。

▲ビスケット・オリバ

― それでも戦いのときはあらかじめ勝敗はイメージして描かれるんですか?

もちろん勝敗は決めながらやるし、最終的にこの2人が戦うためにその前に「試し割り」じゃないけど誰を当てて、どうやって格をあげていこうかというのはいちばん考えるところだよ。でも描いている間にあらかじめ決めていた勝敗がひっくり返っちゃったこともあるよ。マホメド・アライJr.とジャック・ハンマーの戦いがそうだった。

― えー、あれはアライが勝つはずだったんですか!

あそこでアライが上がっていくためにはジャックくらいの凄玉倒さなきゃダメだろうと思っていたんだけど、2人が向き合ったときに、「ダメだ、これジャックに勝てるワケねーわ」と思えちゃって(笑)。ここで無理やりアライを勝たせたら今まで守ってきた不文律がここで壊れて、世界観が変わっちゃうと思った。本当はアライをどんどん上にあげてスターにしたかったんだけど、ジャックに止められた。

▲ジャック・ハンマー

― ジャック・ハンマー恐るべしですね。逆にアライは不遇だったんですね。

アライとは逆に出世したのは(愚地)克巳だよ。最大トーナメントの花山とやったときは、「こいつじゃ花山に勝てない」って俺に思わせていたのに(笑)、ピクルとやって、Aクラスに上がっちゃったんだ。大出世ですよ。

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