インタビュー
2018年7月20日

漫画家になってカッコ良く成り上がりたかった。本物の格闘技漫画でね。板垣恵介『グラップラー刃牙』(前編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #4 (2/4)

成り上がるために漫画家にッッ!

― 志望動機が腕立てを褒められるからという(笑)。自衛隊時代のお話は後ほど改めておうかがいさせていただくとしまして、その自衛隊もやがて除隊し、漫画家を志すようになったきっかけを教えていただければ。

国分寺に暮らしていた友人の家に遊びに行ったときに、おもしろいから読んでみろと渡された本が『成り上がり』だったんですよ。

― 矢沢永吉さんの『成り上がり』が、ここできますか!

それを読んで、俺も出世したい、角のタバコ屋までキャデラックで行くっていう、そういう面倒くさいことをやってみたい。そんなカッコいい人生を歩みたいと思ったとき、俺にとって矢沢永吉の高さまで登れる才能ってなんだろうと思ってさ。

― 休み時間に腕立てをする才能でたどり着いた先は公務員でしたし。

そのときに描くこと、俺にはこれがいちばん近道だと思ったんです。描くことは続けていたので。俺の画力でこの才能だったら、2年で十分いけると思っていたんだけど、とんでもなかったね(笑)。実際にはデビューまで7年かかったよ。

― 1989年に『メイキャッパー』でデビュー、そして1991年に『グラップラー刃牙』が連載開始するわけですが、やはり格闘漫画を描きたいという気持ちはずっと持っていらっしゃったんですね。

バトルを扱った漫画というのはたくさんあったけど、格闘漫画だったら自分の方が上だし、みんなが見たことがないような戦いを見せられるという気持ちはあったよ。そこで『グラップラー刃牙』という作品を描こうと思ったんだけど、最初はまず主人公のキャラを作ることに時間をかけたんだ。

― まず刃牙のキャラクターありきだったんですね。

俺はそれまで刃牙みたいな女性的な可愛い顔っていうのが描けなくてね。何十万人、百万人もの読者を集める主人公の顔っていうのはなんだというのを突き詰めて考えたときに、おおた慶文さんというイラストレーターが描く女の子がすごく可愛くて、そのおおたさんの描く女性に男子の要素を加えていったらきれいでカッコいい顔が生まれるだろうと思い当たった。首を太くして、筋肉質にして眉を上げて……と加えていって生まれたのが刃牙なんだよ。

でき上がったときに、これはスターになれる顔だなって思ったよ。この子を中心に置いて、怪物たちと戦っていく少年の物語、ざっくりそれでいいんじゃないかというところから走り出していったんだ。

― 刃牙に関しては連載当時ではめずらしい総合格闘家の平直行選手がモデルになっているという話も聞いていましたが、もともとは平さんではなかったんですね。

でき上がった刃牙と実物が近かったのが平だったのよ。当時20代半ばで、シュートボクシングのチャンピオンだったけど、空手の大会に出たり、すごくカッコよかったんだよ。そんな平の姿を見て、ボーダーレスに競技で括られない、独自の格闘術を駆使してどんな相手とも戦う刃牙のイメージが形成されていったのは事実だよ。

― 先日、堀口恭司選手に話を聞いたときに、堀口選手は刃牙のモデルは板垣先生自身だと思っていたと。顔が似ているからっておっしゃってました。

それはうれしいけど、似てないよ、俺一重だし(笑)。自分を投影したり、そういう趣味はないな。むしろ自分ができないことばっかりやらせているしね、刃牙には。

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