インタビュー
2018年1月22日

2020年を試行の場にはしたくない。パラ陸上選手と義肢装具士が模索する、スポーツ用義手の可能性(後編)│わたしと相棒〜パラアスリートのTOKYO2020〜 (2/3)

多川:うーん……、今まで軽さを追求して来ましたけど、今の段階になって、果たしてそれだけで良いのかとも思っていて。

沖野:確かに今まで軽さばかりを追求して来たからなぁ。ウェイトトレーニング用の義手を作って、義手側の筋力トレーニングをするようになると、筋力が向上する。要するにエンジンが大きくなるので、ただ軽いだけだと物足りないということですね。そうなると、先程も触れたように、義手先端のデザインの変更で多少重くなるけれど、本人にとってはその重さが今の筋力にちょうど良く、腕振りも効率化できるかもしれません。

――順を追ってということですね。

沖野:そうですね。今までは右半身のトレーニングをしていなかったから軽いものを、筋力強化をしてからは多少重くてもより機能的なものを、というイメージでしょうか。

多川:いかんせん、試してみないと分からないし、時間がかかるんですよね。正解、不正解がすぐに分かるわけではないですから。

沖野:難しいよね……。

多川:タイムが出たとしても、義手を改良したからなのかどうかも分からない。単純に走力が上がったから速くなっただけかもしれないですし。かといって、東京パラリンピックを試行の場にしたくはないんですよね……。

――沖野さんは、アスリートの要求に対して「どう具体化すれば良いのか」と苦労したことはありますか?

沖野:あまりないですね。多川君の場合、「少しでも速く走りたい」というシンプルな目的なんです。それが見えているし、義手に対するフィードバックが明確なので随分やりやすいですよ。おそらく一番難しいのは、「速く走れる義手が欲しい」と言われた場合ですね。速く走れるために何が必要なのかが義手に関してはまだ見えてきていないので。

多川:自分が実験台みたいになってる(笑)。

沖野:確かにそうかも(笑)。彼の義手をベースにして、他の選手の義手製作に生かしたりもしていますから。だからある意味パイオニアですよ、知希は。今、義手の陸上選手も増えてきましたが、日本における原点は彼の義手ですからね。

受け継がれる〝多川魂〟

――今後の目標をお願いします。

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