インタビュー
2019年8月17日

大東駿介が語る、ゼロからイチを築いた五輪アスリートを演じる決意。「敗北の先に進むことって、すごいロマンだなと思うんです」│『いだてん』インタビュー (3/5)

阿部さんの演技に驚いた

―― 水泳チームの一員として、阿部さんをどう見ていましたか。

阿部さんはシャイなので、あまり積極的にコミュニケーションをとらない方なんですけど、僕は、阿部さんがすべてをつくってくれているな、と感じていました。そこに主役の器を見ました。リーダーには言葉でまとめあげる人もいますが、阿部さんの場合は「大河ドラマでこの芝居をするんや」という驚きがあって。見たことなかった、こんな勢いのある芝居って。ザ・阿部サダヲさんでした(笑)。新しい時代という感じ。何でもやって良いんや、って実感したんですよ。こうしなければいけない、大河の俳優にはこんな責任がある、そんな余計な足かせをすべて排除してくれた。

阿部さんと皆川猿時さん(水泳監督、松澤一鶴 役)が、俳優陣が好きなことをやれる下地を準備してくれました。現場では笑いも絶えないし、かといってヌルヌルもしない。阿部さんのセリフまわしって言ったらすごいですし、あの速度であれだけ聞き取りやすくて自身の思いも乗っかっていて。あれに背中を押されました。

僕は舞台が好きで、ずっと阿部さんの舞台も見ていました。いつか共演させていただきたいと思っていた。またマーちゃんという役柄と阿部さんという人間は、相性も良いんでしょうね。めちゃくちゃ考えるタイプの人やと思うんですよ。でも現場では「俺、何も考えていないよ」と言う。その懐を広げておいてくれる、つけ入る隙を与えてくれている感じがある。おもしろかったですよね。だから調子に乗って、ピザを山ほど注文して、請求書だけ阿部さんに渡したりしたんですけど、「全然いいよ全然いいよ」って言ってくださったんですけど(笑)。いろんな意味で懐の広さを感じる人ですね。撮影がめちゃくちゃ楽しかったです。それは全部、阿部さんの力だと思います。ホンマにそう思いますね。

田畑はゼロをイチにした人間

―― 鶴田さんからみた田畑さんの人物像は。

若者の育成に利用する、って言っていたんですけど、あの熱量で言われたら人は彼のことを疑えないというか。オリンピックを東京に持ってきたい、日本に明るいニュースを届けたい、ということに熱量を持って臨む姿勢には疑いようがない。実際、そこで踏み台にされそうになった2人(高石と鶴田)は奮起します。

田畑さんは、あらかじめ日本人選手が活躍した想定で新聞記事を書いてから、日本を出ていました。台本を読んでいてもホンマにすごいことやと思いました。ああいうキャラクターですけど、ノリではできない。人見絹枝さんも「このままじゃ日本に帰れない」と言ってましたが、マーちゃんも相当なものを背負っていた。それを目の当たりにしたら、人は、あの人のことを疑わないと思うんですよね。そのくらい信じられる人がいるって、すごいことだなって思いました。

水連をつくって、(高橋)是清さんのところに行ってとんでもないお金をもらってきて。ホンマにウソみたいな話ですよね。ゼロからイチをつくるエネルギーってすごい。いつも僕は自分に言い聞かせているんですが、僕らってできたものの上にいるんです。ゼロからイチを生んでいる人間じゃない。それは理解しろよ、っていつも自分に言い聞かせています。ゼロをイチにした人間の熱量はこんなもんじゃないぞと。

身体をつくることもそうですが、自分の中のゼロをイチに変える、そういう熱量を大事にしようと思っています。次の時代は、どんどんゼロをイチに変える人間が増えていくんだろうなとも思う。世界とつながって、新しい芽もどんどん生まれていく。そんな時代においていかれないようにしないと、と思います。

メイクさんが俺の身体をオイリーにする

―― 鶴田さんは(後輩の)「小池の練習台になってくれ」と言われます。

水泳から離れていたのに、それを言われて素直にプールに帰ってきますからね。しかも心に火がついて、「ただの練習台では終わらないぞ」と奮起する。田畑は、そんな鶴田の人間性をちゃんと見抜いていますよね。俺もそっち側の人間で、なにくそ魂で奮起したい人間なので、このシーンにすごい心を打たれました。

単純に鶴田を演じるというより、自分もそこに向かうため、なにくそを見つけようと思って。それが水泳、身体づくりでした。結果的にタンクトップのシーンが増えていって、なぜかメイクさんも俺の身体をやたらオイリーにするという(笑)。モニター見て「大東くん、何かテカってない?」っていろんな人に言われる(笑)。阿部さんは、僕の身体を触るたびに手のひらを見て確認してて(笑)。「なんかヌルっとした」みたいな(笑)。

そこまで身体を大きくできたのは、別に筋肉が好きってわけじゃなかった。鶴田さんにちょっとでも近付けたかな、と思えるのがうれしかったんです。おこがましいですけど。ホンマに家にある服が着れなくなりましたもん。

日本泳法の先生の松澤一鶴への愛が半端ない

―― 撮影前に、歴史的事実などの事前情報はどのくらい提供されましたか。

『いだてん』スタッフの思いを感じたんですが、第2部の撮影が始まる最初の段階で、スタッフの紹介がありました。そこで「彼は歴史のエキスパートです」「彼は肉体づくりのエキスパートです」と続いていって。エキスパートって普通、なかなか軽々しくは言えないでしょ(笑)。肉体づくりのエキスパートは、そりゃスポーツトレーナーでしょ、とか思って(笑)。でもそれを自負するくらい、『いだてん』に賭ける想いが皆さんにあって、第1部を終わる頃には「エキスパート」を自負するくらい各々が資料を調べ上げていたということなんです。実際、どんな質問をしてもスラスラと答えていただけました。

日本泳法を教えてくださった先生方は、まさに物語の中にあるように、日本泳法が海外の泳ぎ方に敵わなくて、そこから泳ぎがどう変化していった、という顛末まで、すべて見てきた人たち。だから、そのあたりのお話も伺えました。日本泳法の先生にとって、松澤一鶴はカリスマなんですね。神様のように思っていらして、“松澤一鶴愛”が半端なかった。それと同じように、鶴田さんの泳ぎを見て影響を受けて泳ぎ始めた、という人も実際にいらっしゃいますし。これまでの大河と違うのは、我々に近いところで、その人物に影響を受けた方々がいらっしゃること。そういう人たちの思いって、残っている資料より熱量が感じられるので参考になりますね。

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