なぜマラソン練習にトラックレースが効果的なのか?メリットとトレーニング時のポイントを解説
陸上競技場で開催されているトラックレースは、マラソンランナーにとって非常に有意義な場となります。「もっと速く走りたい」と望むのであれば、ぜひトラックレースでの練習を活かしましょう。ここではトラックレースがマラソンにもたらすトレーニング効果について、おすすめの取り組み方とともにご紹介します。
トラックレースとは
陸上競技経験のないランナーならば、トラックレースはあまり馴染みのないものかもしれません。トラックレースとはおもに陸上競技場で開催され、400mのトラックを周回して走る大会です。ロードと比べて距離は短く、800m・1500m・5000m・10000mなどの種目が中心です。
陸上競技場での大会を聞くと、「陸連登録者しか出られない」「学生や実業団選手が出るもの」「市民ランナーには関係ない」などとイメージする方がいるでしょう。しかし一般参加を受け入れている大会は多く、学生から社会人まで、年齢の枠を超えてタイムを競い合うものも少なくありません。
トラックレースがマラソンに与えるトレーニング効果
トラックレースを走ることで、マラソンにどんなトレーニング効果が期待できるのでしょうか。ここでは、具体的に4つのメリットをご紹介します。
1.短い時間でも質の高いトレーニングになる
トラックレースは、マラソンと比べて走る距離が短くなります。その分、もちろん出場に伴う時間も減り、短時間で大会を終えることが可能です。しかし距離・時間が短いからといって、決して楽だというわけではありません。むしろ距離が短い分、いつも以上のハイペースでレースが展開していきます。筋肉、そして心肺機能を総動員するため、いわゆる「追い込んだ」走りになるはずです。
特に大会では周囲に他選手がいるため、1人で行うスピード練習に比べて追い込みやすいでしょう。短時間でも、非常に質の高いトレーニングとなります。負荷を高めたいのであれば、1つの大会で複数種目に出場するのもおすすめ。ただし身体に無理が生じないよう、ある程度の時間を空けて出場する種目を選んでください。
2.ペース感覚を養うことができる
トラックレースは、周回400mという決められた距離を何にも邪魔されず走ることができます。多くの場合はゴール地点にタイム計測機が置かれ、周回ごとに通過タイムを確認することが可能です。そのタイミングで、自分の感覚と実際の通過タイムをチェックしてみてください。最初はおそらく「思ったより速い・遅い」ことが頻発するでしょう。しかしトラックレースで経験を積めば、ペース感覚を自然と身体が覚えていきます。
マラソンでは、自分の走りたいペースを維持することが非常に大切です。周囲に流されてペースが左右されたのでは、思い描いたタイムは出せないでしょう。とくに後半よく失速してしまうという方は、気付かないうちにオーバーペースで走っていることが少なくありません。昨今はGPSウォッチでペースを確認できますが、時計を見るたびにペースを調整していたのでは大きなロスになります。ペース感覚を身に付ければ「ちょっと遅いな」と即座に認識できるため、最低限のペース調整で最後まで走り切ることが可能です。
3.最大スピードに挑戦できる
普段のトレーニングでは、なかなかスピードを出し切ることができません。特にいつも1人で走っている方なら、スピード練習を行っても余力を残してしまうことが多いでしょう。筆者も今でこそ限界に近いレベルまで1人で追い込めますが、そこまで長い時間が掛かりました。少し気を抜いてしまうと、余力が残ってしまいます。
トラックレースには、その種目をメインに日々練習してきた選手が数多く出場します。そのスピードは、マラソンランナーにとって想像を超えるかもしれません。たとえば筆者はフルマラソンをサブ3で走りますが、トラックレースではいつも真ん中かそれ以下の順位です。スピードでは、とても太刀打ちできません。
だからこそ、トラックレースではいつも到達しないような最大スピードに、周囲の選手と競うことで挑戦できます。42.195kmでは決して出さないスピードも、トラックレースの距離ならば走れるかもしれない。そして周囲には、それ以上のスピードで引っ張ってくれる選手がいるのです。最大スピードを知り、そして強化することができれば、マラソンもより速く走れるようになるでしょう。
4.トレーニングを見直すキッカケになる
記録に伸び悩んでいる方こそ、ぜひトラックレースに出場してみてください。なぜなら伸び悩みの原因を見つけ、トレーニングを見直すキッカケになるかもしれないからです。
トラックレースでは速いペースを中長距離で維持するため、スピード持久力が求められます。実際に走ってみると、想定していたペースがまったく維持できないケースは多いでしょう。その場合はスピード持久力に課題があり、ショートインターバルなど短めの距離を反復するトレーニングを行うことでレベルアップに繋がるかもしれません。
あるいは、いざスタートしてみた際、考えていたほどスピードが上がらないという方もいるでしょう。その場合、そもそも土台となる最大スピードが遅い可能性があります。もちろん本番のマラソン大会で、それほど速いペースでの走りは不要です。しかし、たとえばサブ3が4:15/kmを維持すればよいとは言っても、最大スピードが4:15/kmでは到底達成できません。誰しも、最大スピードを長距離で維持することはできないのです。そのため、目標に対してそれ以上のハイペースで走れる脚が必要となります。その場合、坂道走やバウンディング、あるいは下半身の筋トレなどを取り入れることで、目標達成に近付くかもしれません。
勝負レース前の状態チェックにも活用できる
このようにトラックレースは、マラソンランナーにとって多様な効果をもたらしてくれます。1500mと10000mでは求められるスピードや持久力が異なるため、組み合わせて出場することで、自身のウィークポイントを明確にしやすいでしょう。また、トレーニングとしてだけでなく、勝負レース前に出場してみるのもおすすめ。自分の身体がどんな状態なのか、仕上がり具合を確認するのにとても適しています。
ただしトラックレースは全力に近いスピードを出すため、身体への負担が大きくなります。疲労を抜かず連戦すると、怪我を招くなどかえってマイナスになりかねません。何のために出場するのか目的を持ち、出場する距離や頻度などを調整しましょう。
[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】https://www.run-writer.com
<Text:三河賢文/Photo:Getty Images>