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ライフスタイル
2022年3月29日

通勤や家事はダイエットになるのか。トレーナーが考えてみる

 スポーツのパフォーマンスを向上させる、あるいは短時間で効率よく脂肪を燃焼するという点で、「HIIT(ヒット)」(High Intensity Interval Training)は効果的なトレーニング方法です。唯一の問題点は、実行、あるいは継続へのハードルが高いことでしょう。

 言うまでもありませんが、HIITは非常にきつい運動です。実行するには、基礎体力と高いモチベーションが要求されます。さらにはケガの危険もありますし、運動の種類によっては設備の整ったジムなどへ定期的に通う必要も出てくるでしょう。

 効果があると分かっていても、さまざまな理由でHIITができない、続かないと断念する人は後を絶ちません。しかし最近、そのような人々にとって朗報となるかもしれない論文が、英国の学術雑誌に発表されました。フィットネスやヘルスケア業界で話題となっています。

HIIPAとは

 シドニー大学のエマニュエル・スタマタキス教授が英国スポーツ医学ジャーナルに発表した論文には、「HIIPA(High Intensity Incidental Physical Activity)」と呼ばれる日常の動作を意識して行うことで、ジムに行かなくても(あるいは行けなくても)HIITのような健康効果を得ることができるという研究結果が書かれています。

 論文では、車を洗う、階段を上る、買い物袋を抱えて歩くなどの日常動作を「HIIPA=高強度の偶発的な身体的活動」と定義しています。

 スタマタキス教授とその研究グループによると、年齢・性別・体重による違いを考慮に入れたうえで上記のような日常動作を1日に何回か行うと、健康を増進するために充分な運動量になるということです。

5分~10分の日常動作を1日4~5回

 大体の目安として1日に4~5回、合計時間は5分~10分。それを毎日続けると、明らかな健康上の効果が望めるとされています。

HIITがきつくて続かない人におすすめ

 論文ではトレーニング方法としてHIITを否定しているわけではなく、むしろその逆です。どのようなタイプのHIIT(短時間の高強度な運動を、休息を挟んで繰り返す)であっても、継続時間や反復回数にかかわらず、フィットネス能力と心肺の健康を向上させるもっとも効果的な方法であるとしたうえで、HIIPAも同じ種類の効果を人々にもたらすとしています。

 HIIPAについて、スタマタキス教授は研究結果のなかで以下のように語っています。

「いくつかの研究により、中高年の成人が激しい運動をすることは長期的に見て大きな健康効果があることはわかっていますが、多くの人はそれを始めることや継続することに困難を覚えています」※1

「HIIPAのすばらしい点は、人々がすでに日常的に行っている動作を利用するため、多くの人々にとって現実的で実現可能な方法であるということです」※1

「1日の中でHIIPAのためにかけなくてはいけない時間はゼロに等しいですし、歩くときに早足にしたり、エレベーターを待つ代わりに階段を使ったりすることで、さらに日常の時間を節約することができます」※1

「ほかの実用的な利点としてコストが挙げられます。HIIPAには何の道具もいりませんし、フィットネスのスキルがないことも心配無用です。たとえば、スーパーマーケットで買い物をするときは、駐車場の奥に車を停めて、50メートルや100メートルぐらい買い物袋を抱えて歩くようにすればいいのです」※1

 近年において、運動不足による肥満やそれに誘発される疾病は世界的な社会問題です。想像するに、昔の人々は特に意識しなくても、日常生活を送る中で必要なだけの運動量をこなしていたのでしょう。私たち現代人は、便利さをひたすら追求する生活を見直すべきときなのかもしれません。

関連記事:「軽い運動を長時間」と「キツい運動を短時間」、どっちが痩せる?

参考文献:
※1
“Short and sporadic bouts in the 2018 US physical activity guidelines: is high-intensity incidental physical activity the new HIIT?”. British Journal of Sports Medicine.
https://bjsm.bmj.com/content/early/2019/02/15/bjsports-2018-100397

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text:角谷剛/Photo:Getty Images>