肩こり研究所に聞いた、「四十肩・五十肩」の原因と予防方法 (1/2)
腕が上がらない、腕が動かせない。発症すると激しい痛みをともない、日常生活にも支障の出る症状が年単位で続くこともあるという「四十肩」や「五十肩」。一体どんな病気で、今から予防することはできるのでしょうか?
日頃から首や肩に特化した専門治療を実践している「肩こり研究所」の代表で鍼灸マッサージ師、認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト(NSCA-CSCS)の丸山太地さんに、お話を伺いました。
広義の「五十肩」と狭義の「五十肩」がある?
最近まで、肩の検査はレントゲンが中心で、レントゲンで分かることは骨の異常だけでした。“肩に痛みがあり、動かしにくさがある、しかし、レントゲンで調べても骨に異常は見当たらない”。こういう病態をひとまとめにして、長く五十肩と呼んできたわけです。ですが、MRIや超音波検査など検査方法や医療研究の進歩により、五十肩と呼んできたものの中には、複数の病気が含まれていることと、それぞれがどんな病気なのかがわかってきました。
ちなみに、ひと口に「四十肩」や「五十肩」と言いますが、症状としてはどちらもまったく同じものです(以下、まとめて「五十肩」と表記)。
現在、一般的に五十肩と認識されている広義の五十肩の病態として、主に以下の5つがあると考えられています。最初の4つは医学的には五十肩ではないのですが、あくまで一般的に五十肩と認識されている広義の五十肩の病態です。
烏口突起炎(うこうとっきえん)
烏口突起とは肩甲骨の上縁の外側部にある、曲がった突起部分のことです。肩関節の付け根の部分にあり、烏口腕筋肉、上腕二頭筋肉、小胸筋がこれに連結しています。これらの筋肉が集約される終点の箇所になっており、ここにさまざまな負担がかかると炎症が起こります。
上腕二頭筋長頭腱炎(じょうわんにとうきんちょうとうけんえん)
腕の力こぶを作る上腕二頭筋が、上腕骨の結節間溝という骨の中のトンネル状の溝を通るときに摩擦が起こり、炎症となるケースです。
肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん)
肩峰とは肩甲骨の一部で、肩関節よりも上にある外側に大きく張り出した箇所です。滑液包は文字通りに肩関節を滑らかに動かすためのクッション材で、骨と骨の間の隙間にあり、袋状で中に液体が入っています。この滑液包が炎症を起こしたのが、この症例です。
腱板炎(けんばんえん)
腱板とは肩甲骨と上腕骨をつなぐ4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の総称で、肩関節を安定させる働きをもつインナーマッスルです。分離しているように見えますが、肩をくるむような構造になっています。この4つの筋肉のうち、どれかが炎症を起こすケースが腱板炎。特に棘上筋と棘下筋の2つが、炎症を起こしやすいです。
以上の4つはレントゲン上で骨に異常がないのに、痛みや動かしにくさがあるという症状から五十肩という総称で呼ばれてきました。いわば広義の五十肩に分類される病名です。
それに対して、癒着性関節包炎は狭義の、真の意味の五十肩ではないかといわれているものです。まだ結論は出ていませんが、一番濃厚な説となっています。
癒着性関節包炎(ゆちゃくせいかんせつほうえん)
関節包とは肩の関節自体を包む袋状の緩衝材で、この関節包に炎症が起こるケースを指します。“癒着性”という言葉が通例で使われるのですが、最新の研究で癒着は起こっていないことがわかってきました。海外では「フローズン・ショルダー」、日本語では「凍結肩」と言われたりします。
言葉の通りに関節包がぎゅっと固まって、関節の硬縮が起こります。肩が固まって動かなくなってしまうのが一番の特徴で、この点が広義の五十肩の4つの炎症との大きな違いです。
さらに、五十肩の診断を難しくしている点として、複合的な炎症をお持ちの患者さんが、むしろ多いということがあります。例えば、腱板のインナーマッスルが傷むと同時に、クッション材の滑液包に炎症があるといったケースです。痛みが出たら放置したり、自己流で治そうとせずに、医療機関で検査を受けるとよいでしょう。
狭義の「五十肩」のメカニズムと進行のプロセス
狭義の五十肩の発症パターンは大きく2つあり、わずかな違和感から徐々に痛みが増す場合と、何か直接のきっかけがあって痛みが出る場合があります。後者は例えば、クルマを運転中に体をねじって後部座席に手を伸ばした瞬間にズキっとしたとか、自転車で転んで手をついたなどの場合です。強い衝撃が筋肉や肩のクッション材を痛め、発症することもよくあります。
病状の進行段階にはいくつかの考え方がありますが、ここでは日米の分類法を考慮しながら、病期を7段階に分けてみました。
五十肩の進行段階
0期:肩にちょっとした違和感を覚える
1期:炎症と痛みが出てくる時期(急性期・炎症期)
1’期:痛みが増し、硬縮が始まる(2期への移行期)
2期(前半):関節の硬縮が進む。痛みはマックスの状態(硬縮期・前期)
2期(後半):硬縮がマックスの状態。関節は固まって動かない。痛みは引き始める(硬縮期・後期)
2’期:硬縮が緩み、徐々に肩が動くようになる(3期への移行期)
3期:硬縮と痛みがおさまる(回復期)
中には、放置したまま自然に治ったという人もいますが、1’期の移行期で、次の段階に進めないまま、いつまでも炎症や痛みのひかない患者もいます。2’の移行期から、3期ではなく再び1期に戻ってしまう人もいるようです。これは、肩の硬縮が長く続くと筋力が衰え、2’期で肩を動かせるようになっても、逆に筋肉を痛めてしまう場合があるからとのこと。こうした悪循環で、五十肩が慢性化してしまうこともあります。
3期の回復期で痛みがひき、硬縮が緩んで肩が動くようになったからといって、それは完治ではありません。肩の可動域が以前より狭くなったまま戻らなくなってしまったり、治癒が不完全なまま動かし続けることで炎症が再発する可能性があります。肩の可動域を広げるようなトレーニングで、筋力をつけ、ストレッチを行うことが重要になってきます。
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